大企業による放送事業進出が可能となり、放送界で議論がわきあがっている。

放送法施行令改正案、その内容は

韓国政府の放送通信委員会は「放送法」施行令の改正案に関して審議し、議決したとした。

この改正案には、大企業に対する放送関連の規制緩和や、ケーブルテレビ事業者を含む"SO(System Operator)"の市場占有率の制限基準変更といった項目が含まれており、かねてより韓国での注目度は高かった。

これによると、地上波放送や報道、総合編成といったチャンネルを提供する"PP(Program Provider)"の所有は、これまで、資産総額3兆ウォン未満の企業と規定されていたのが、これが同10兆ウォン未満の企業へと改正された。これにより地上波放送や報道、総合編成PPを所有できない企業数が大きく減ることとなる。逆に言えば、多くの資産総額を持つ大企業が、PPとして進出できる機会が増えたということだ。

またSOの市場占有制限の基準は、売上額から加入世帯数に変更されている。また所有できる放送区域の制限が、全放送区域数のうちの5分の1から3分の1と緩和されたことは、これまでよりも多くの放送区域を確保できることとなるとして、大手SOの間では注目されている。

このほか衛星DMBのチャンネル数の規制や、データ放送の広告規制など、様々な部分で緩和が進んでいる。

ただし地上波DMBの事業者が、テレビやラジオ、データ放送チャンネルといったすべてを運用するようにとした内容に関しては「関連業界の経営上、難しい」(放送通信委員会)との判断により、2つ以上のチャンネルを運営するようにとしている。

このような改正案は今後、規制改革委員会などの審査を受けた後、国務会議を通過すれば、12月末頃、交付および施行されることとなる。

放送通信委員会が決議した、放送法の施行令改正案の内容

現状 当初の改正案 議決結果
大企業進出の基準緩和 資産総額3兆ウォン未満 資産総額10兆ウォン未満 改正案を維持
SO市場占有制限の改正 ・全SOの売上額の33%以下
・全SOの放送区域数の1/5以下
・全SOの加入世帯数の1/3以下
・全SOの放送区域数の1/3以下
改正案を維持
PP-SOの双方を経営 ・全SOの放送区域数の1/5以下 ・全SOの放送区域数の1/3以下 改正案を維持
地上波DMB運用チャンネル規制の変更 テレビ、ラジオ、データチャンネルのうち、2つ以上を含むこと テレビ、ラジオ、データチャンネル、すべてを含むこと 現状を維持
SOの最小運用チャンネル数規制の緩和 70チャンネル以上を運用すること 50チャンネル以上を運用すること 現状を維持
衛星DMBが持つべきテレビチャンネル規定を緩和 ・4つ以上
・全体チャンネル数の1/2以下
全体チャンネル数の2/3以下 改正案を維持
衛星DMBや衛星放送が、直接使用するチャンネル規定を緩和 ・テレビ/ラジオのチャンネル別に、それぞれ10%以内(テレビチャンネルが20個以下ならば、20%以内) ・全運用チャンネル数が100個を超過した場合は、テレビ/ラジオチャンネル別に、それぞれ10%以内
・全運用チャンネル数が、100個以下の場合は、テレビ/ラジオのチャンネル別に、それぞれ4個以内
改正案を維持
データ放送広告規制を緩和 ・最初の画面: 広告を禁止(データ放送チャンネルおよびテレビ放送チャンネルの番組に付加されるデータ放送)

・1次画面(初期画面)
-字幕広告は、画面1/4以内(地上波・衛星DMB、地上波・衛星DMBのPPは1/3以内)
-動画・音声広告を禁止

・2次画面以降
-動画・音声広告は10分以内
・データ放送チャンネルの最初の画面: 字幕広告を許容(画面の1/4以内)
・テレビ放送チャンネルの番組に付加されるデータ放送の最初の画面: 広告を禁止

・1次画面以降
-放送広告は、画面1/3以内
-動画・音声広告は10分以内

・1次画面以降の放送広告であることを表示または告知したり、視聴者が接続できるようにする場合は例外
改正案を維持

大企業が放送界を掌握と危惧

放送法の施行令改正案は、これまでにも業界の間で論議の的となってきた。放送事業への大企業の進出規制緩和をはじめ、緩和される部分が多いため、資金力や体力のある企業のみが大きくなっていく、つまり放送を大企業が掌握する、という意見があったためだ。

放送通信委員会では、これまで放送法の施行令改正案について、オンライン公式意見掲示などを通じ、関連業界や団体の意見を集めてきており、今回決議された改正案も、慎重な議論の末に決定したものであることを強調している。

しかし反対意見は収まらない。

全国言論労働組合では、今回の決議に対して「財閥と"朝中東"の放送侵奪の道が開かれた」と、容赦ない表現でこれを批判をしている。同組合の主張を説明すると、1つに大企業(財閥)が放送事業に進出しやすくなったことで、放送界を大企業が席巻することを憂慮しているものだ。そして"朝中東"というのは「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」という3大新聞社を指す。現在、政府与党のハンナラ党が、新聞と放送の兼業許可方針を進めている中、資産額の大きな大手新聞社が、単独もしくは大企業と手を組むなどして放送に進出すれば、放送事業は完全に一部企業に占められてしまうというものだ。

これは大企業だけが放送界を握ることだけでなく、それにより報道・放送内容などが影響を受け、偏った番組・報道内容が流されることになる、という危惧もある。

このほか"メディア公共性拡大のための社会行動"といった団体や、一部政治家の中にも反対意見を表明している人が多く、討論会などが開かれたりしている。

公布と施行はまだ行われていないものの、それ以前から大きな論議の的となっている放送法の施行令改正案。これが順調に交付・施行されるには、反対意見を持つ人々との妥協が必要である。また施行後も、各団体が憂慮したような結果にならないよう、市場バランスを保っていく努力も必要だ。