頭痛がするのでWeb検索で調べてみると、脳腫瘍の症状に当てはまる部分がある。さらに調べていく内に脳腫瘍で間違いないように思えてきた。そんな体験が思い当たる人は「サイバーコンドリア(cyberchondria)」も疑うべきである。われわれの生活へのWeb検索の浸透と共に増加するサイバーコンドリアの問題について、米Microsoft Research (MSR)がユーザーの現状をまとめた報告書を公開した。

サイバーコンドリアは、hypochondria (心気症)にサイバーを組み合わせた造語である。2000年頃に登場した。体の調子が少しでも悪くなったら、すぐにインターネットで該当する症状を検索して自己診断するふるまいを表す。MSRは515人を対象に、サイバーコンドリアの実態を調べるサーベイ調査を実施、その結果を「Cyberchondria: Studies of the Escalation of Medical Concerns in Web Search」にまとめた。

サイバーコンドリアは、今日のWeb検索の課題を如実に反映している。たとえばユーザーがWeb検索の結果を本物の専門家のように取り扱ってしまう。また検索結果リストの最初の方に登場する結果や目立つ結果をより信用し、最初の数個の検索結果しかチェックしない人も多い。それによりサイバーコンドリアが深刻な病気になってしまう。

たとえば「headache(頭痛)」とWeb検索した場合、カフェイン摂取による血管収縮と脳腫瘍が同じぐらいの確率で結果に現れる。頭痛は誰にでも見られる異常で、数多くの原因が考えられる。その中でもっとも多い原因が前者。生活改善で解決できる。後者は最も深刻な問題だから情報も多いのだが、米国において脳腫瘍となる確率はおよそ10,000分の1である。それにも関わらず、脳腫瘍の情報が目立つため、検索者は心配になり、やがて自分が脳腫瘍であるように疑い始める。「chest pain (胸痛)」もヘルス関係で人々がよく検索する言葉だが、この結果でも胸やけと心臓発作の情報が同じぐらいにリストされる。米国では心臓発作が死因のトップなのだ。その情報を得た人々は、自分の症状を心臓疾患と疑いやすくなる。

Web検索におけるヘルス関連の検索は約2%。その約3分の1が深刻な病気を心配し始めて、検索を重ねている。検索者の多くは、病気を探すのではなく、健康を確認するために検索しているのだが、病気の心配が強まる結果に終わるケースが多い。またサーベイ対象者の過半数が、Webでのヘルス関連の検索に起因する心配が日常の生活にも影響を及ぼしたと答えた。サイバーコンドリアの深刻化は生産性の低下にもつながっているのだ。

サイバーコンドリアの問題を実感している人が増加する一方で、Web検索で見つけた病気に関する情報について本物の医師に相談した人が4分の1以下にとどまっていることも明らかになった。Webから得た情報を心配しながら、安心するための具体的な行動を起こす人が少ないのも問題の1つとなっている。

サイバーコンドリアに限らず、Web検索者の結論がネガティブな結果に陥りやすい傾向は、検索技術開発者にとって長年の課題になっているそうだ。人々は通常、コモンセンスに従って決断を下す。これは経験から培われた有効な方法と言えるが、明らかに誤った方向に判断を導くケースも数多く見られる。サイバーコンドリアにおいては、Web検索結果のランキングへの依存が、人々の判断を深刻な病気へと導いている。調査を行ったEric Horvitz氏は、これらの事実をきちんと把握・分析した上で、より信頼できる情報を人々が引き出せるようにWebを進化させる必要があると述べる。