NECと同社ユーザー会NUAの主催イベント「C&Cユーザーフォーラム」が11月11 - 13日、東京国際フォーラムで開催。初日の基調講演には、三井住友銀行の頭取兼最高執行役員 奥正之氏が登壇し、「世界経済の不確実性にSMBCはどう立ち向かうか」と題する講演を行った。

三井住友銀行 頭取 兼 最高執行役員 奥正之氏

同氏は、まず、米サブプライム・ローン問題を中心とした最近の金融情勢について触れ、同問題の背景には、主に金融技術の発達と過信、リスクマネーの膨張、行き過ぎたビジネスモデルという3つの要因があったと説明。

金融技術の発達と過信とは、住宅ローンを証券化した商品をさらに証券化し、住宅ローン以外の商品を組み合わせた二次証券化商品として投資家に売るといった手法の発達とそれに対する格付会社の格付けなどに過信があったこと。リスクマネーの膨張とは、100倍にも上るようなヘッジファンドのレバレッジによってリスクマネーが膨らんだところで、担保となる証券が値下がりし、出資した資金を現金として回収しようとする「逆スパイラル」が起きたこと。行き過ぎたビジネスモデルとは、近年の米投資銀行では、高いROEを維持するために、財務レバレッジを高くする「高レバレッジ経営」を続けてきたこと。バーゼル規制のある商業銀行の財務レバレッジが平均11.8倍なのに対し、投資銀行は平均26.4倍に上っていたという。

同氏は、今後の見通しとして、金融危機による米国市場の損失規模見通しが1兆4,000億ドルに及ぶとのIMFの推計を取り上げながら、「欧州市場などの損失、米国のヘッジファンドやCDSの損失、景気悪化による貸し倒れ増加などを含めると、実際の損失はさらに拡大する可能性が高い。特に、米国の場合、サービス産業がGDPの7割を占めており、住宅バブルの崩壊によって、雇用や消費が悪化し企業部門へも波及すると見られる。個人的には、これから3~4年、2011年にならないと底打ち感がでないのではないかと思う」との認識を示した。

また、金融危機以前と以後とで、金融ビジネスの潮流の変化を見た場合、これまでのグローバル化 / 新自由主義 / レバレッジ経営 / 行き過ぎたビジネスモデルといった流れとは逆の、監視・監督強化 / 一定の公的介入 / デ・レバレッジ / 基本回帰といった流れに進むとする。もっとも、「グローバル化に逆行して保護主義・単独主義に走るのではなく、各国が協調しながら保護主義を回避し、急激な信用収縮による混乱やデフレ懸念を防いでいくことが課題」となる。

そうしたなか企業にとっては、リスク・マネジメントがますます重要になると強調。同氏は、「リスクを見える化し、経営の軸をしっかりと保ち、プロアクティブに、柔軟に、的確に対応していくことが求められる」としながら、リスク・マネジメントに必要となる要素として、コミュニケーション、システム、バランスの3つを挙げた。これは、「経営陣と関係部門とのコミュニケーションを図り、将来の変化を可能なかぎり具体的に把握する。また、自己規律(ガバナンス)を発揮できる組織と運営のためのシステムを作る。そのうえで、収益と管理のバランスをとる」というもの。

もっとも、これらは「潮流の変化を見ながら企業が頭を悩ませながら検討を続けていくしかない」ものであり、同行の事例として、約10年前に大きな変化を見据え、個人の資産運用相談業務とキャピタルマーケット業務の2つに力を入れてきたことを紹介した。具体的には、投資信託の窓販が解禁された1998年以降、個人部門を法人部門から分離し、専用ブースで顧客に金融商品を提案するスタイルを取り入れたことや、ファイナンスやM&Aのニーズに応えるべく、1999年から投資銀行(現・大和証券SMBC)の営業を開始したことに触れた。

こうしたトレンドへの対応は、直近の中期計画にも盛り込まれており、同行では現在、7つの成長事業領域(個人向け金融コンサルティング・ビジネス、法人向けソリューション・ビジネス、投資銀行業務、グローバルマーケットでの特定分野へのフォーカス、支払い・決済・コンシューマーファイナンス、自己勘定投資、アセット回転型ビジネス)でビジネスを展開している。

なかでもITにかかわる施策として、窓口業務の効率化と生産性向上を目的とした営業店端末「CUTE」の導入や、オンライン取引サービスのワンストップでの提供などを紹介。営業店端末は、帳票の情報をOCRで読み込み、収納内容や金額を自動で入力するもので、2008年度中に国内全支店に7000台を設置する予定という。また、インターネット・バンキングの利用者は100万人ペースで増加し、現在842万人に達しており、うち携帯電話を使った取引は、年間3億件に上っているとした。

なお、IT投資のポートフォリオについては、戦略的投資、情報活用投資、業務効率化投資、IT基盤投資の4分野があり、近年では、成長維持にかかわる戦略的投資と、顧客情報管理・コンプライアンス強化に向けた情報活用投資への配分を拡充している。具体的には、戦略的投資と情報活用投資とが合わせて40%、業務効率化投資が10%、IT基盤投資が50%という配分になっているという。

また、同行では、顧客からみて同行が1つに見えることを「One Bank, One SMBC」という言葉で表し、顧客に付加価値を与えることを「LEAD THE VALUE」という目標として掲げている。奥氏は、その目標を具体的に実現するためには「V-KIP(Value:価値観、Knowledge:専門知識、Information:情報、Profit:収益)」を共有することが重要だと語り、営業店端末や社内ポータルサイト、グローバルCMS、新外為システム、BPMに基づくサービス連携基盤などによって、組織の全体最適化を図っていることを強調した。