理化学研究所(理研)と東京大学、高輝度光科学研究センターの3者は、親水性と疎水性の側鎖を導入した両親媒性を持つ有機分子をカラム(円柱)状に積層化し、高い電子輸送能と加工成形性を併せ持つ液晶性有機半導体を開発することに成功したことを発表した。

有機半導体は、分子の集積状態がSiのような結晶に比べゆるいため、加工成形性は確保しやすかったが、電子輸送能を上げることが難しいという課題があった。

同研究では、有機分子として、「縮環ポルフィリン銅錯体」に着目。同分子は、電子輸送に影響するパイ共役系のサイズが従来の有機半導体に比べ大きいため、より高い電子輸送能が期待される半面、液晶分子の設計手法である疎水性の側鎖の導入では、液晶状態を得られないという問題があった。

今回、せっけんのように親水性と疎水性の部位を同時に有する分子(両親媒性分子)をヒントに、同分子の周辺部の一方に親水性側鎖、他方に疎水性側鎖を導入することで、両親媒性を持つ分子を設計。1度120℃に加熱後、室温まで冷却する操作により、分子を自発的にカラム状に集積させたところ、室温で液晶状態が確認された。

両親媒性縮環ポルフィリン銅錯体の分子構造(左)と疎水性縮環ポルフィリン銅錯体の分子構造(右)

この液晶の電子輸送特性は、マイクロ波の吸収を利用した非接触法で評価すると、従来の同種の材料の最高値と比べ、10倍の速さとなる0.27cm2/V・sとなった。

また、大型放射光施設「SPring-8」の高輝度X線を利用して構造解析を行った結果、分子設計で期待したとおり、それぞれ親水性、疎水性側鎖同士が集合し、3~4nmの間隔で交互に相分離した構造を形成していることが確認された。

両親媒性分子の2次元分子配列構造(カラムの断面)の模式図

3者では、分子構造への両親媒性の導入は、分子のカラム状集積化のための設計指針として有用であると考えている。また、今回開発された有機半導体は、プラスの電荷を輸送する材料にも変更できる可能性があるほか、太陽光を効率的に吸収できる性質もあることから、有機薄膜太陽電池への応用も期待できるとしている。