SAPジャパンは、当面のBI(Business Intelligence)戦略と製品のロードマップを示した。独SAPが2007年10月に統合した仏Business Objects(BO)製品は、そのオープン性を継続しながら、SAPの標準BIツールとして前面に据え、両者の技術、実績を融合させ、相乗効果をねらうとともに、企業からのBIに対する、近年の新たな要求に対応、この分野での優位を保っていくことを図る。2009年半ばころには、両者のBI要素を結集させた、高度なデータ分析を担うツール「Pioneer」を市場に投入する意向だ。

ガートナーによれば、世界のCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)が最も優先すべき技術課題は、2006、2007年に引き続いて今年もBIが1位だった。日本では、未だ1位にまではなっていないが、IT投資の分野別注力度で、2008、2010年度ともに高いとされる項目として「データ分析/活用系」が挙げられている(ERP研究推進フォーラム調べ)など、国内でもBIへの関心、投資意欲が高まってきている。

SAPでは従来、BIの領域では「SAP BW」を中心として配置、R/3などのERPやレガシーのシステムからデータを抽出し、分析に適したデータベースへ格納、OLAPによる分析レポートを提供するとともに、「SAP NetWeaver BI」の製品群も配備してきた。一方で企業向けITをめぐる環境の変化に伴い、BIの属性が変わり始めた。1990年代には、専門家を中心とする限られた層向けの、過去のデータ分析ツールといった役割が一般的だったが、2000年代に入り、営業やマーケティング部門など、企業内の幅広い要員にもさまざまな情報を開示し、その分析や多様な活用により、経営効率化につなげようとの機運が強くなってきた。

SAPジャパン カスタマーイノベーションセンター マネージャー加藤慶一氏

そうしたなか、「SAPは、一般向けのレポートツールや、(いわば、企業経営の健康状態を診断する)EPM(Enterprise Performance Management)などは必ずしも適切な製品を備えていなかった」(SAPジャパン カスタマーイノベーションセンター マネージャー加藤慶一氏)ことが課題だった。また「1つの企業内に、BIツールが5つも10も乱立して、単一のビューがない状態」(同)も解決すべき問題として浮上してきた。

SAPとBOの現在のBI製品系列は以下の通りとなる。

ダッシュボード/データ可視化の領域はSAPが「Web App Designer」、BOには「Xcelsius」がある。レポーティングではSAPが「Report Designer」、BOは「Crystal Reports」、自由分析ではBOが「Web Intelligence」、高度分析ではSAPは「BEx Analyzer」、BOは「Voyager」、「Predictive」。SAPでは今後、ダッシュボード/データ可視化、レポーティング、自由分析では、BOの製品に焦点を絞り、高度分析では基本的に「Voyager」を基盤に、「BEx Analyzer」の機能を盛り込み、融合化させた「Pioneer」とする新製品を提供していく予定だ。

加藤氏は「SAPは原則的には、(買収・合併にはなるべく依存しない)オーガニックな成長戦略を採ってきたが、新しいニーズに応えるためには、自社だけでの施策では間に合わなくなってきたため、BOを統合した。BOはBIのトップ企業であるとともに、SAPユーザーでBO製品を活用している例は少なく、BOユーザーに占める、SAPのアプリケーションを活用している層の比率も低いことから、統合がもたらすビジネスの伸びしろが大きいと判断した」と指摘、BOを統合した背景をあらためて説明した。

SAPの既存顧客企業は「BO製品によりさまざま価値がもたらされる」(同)と同社では主張する。まず、一元的なプラットフォーム上で動作する、レポーティング、ダッシュボード、自由分析のツールなど、BOの製品群には、SAPのシステムとの統合キット、アダプター類がすでに用意されており、エンドユーザーがすぐにこれらを利用することができる。また、BO製品は基本的にオープンで特定のプラットフォームには依存していないので、SAPだけでなく、IBM、Oracle、マイクロソフトのシステムにも対応できる。SAPは「オープン性というBOの強みはこれからも維持していく」(同)方針だ。

BOとの統合により、今後SAPのBI領域は、情報活用や見える化を受け持つ「Information Discovery and Delivery」、データ管理を守備範囲とする「Information Management Software」からなるBIプラットフォームを核に、EPMと、SAPのGRC(企業内統治、危機管理、法令順守)製品も組み合わされる。これらは同社の基幹プラットフォーム「SAP NetWeaver」と統合され、ビジネスプロセスの流れのなかで、データ分析、経営状況の監視による、実行、意思決定を支援する機構が形成させる。

SAPとBOの現在のBI製品体系

今後のBI製品体系

同社は、BI製品系列は、BO製品を中核にしていくが、「SAP NetWeaver BI」などの製品へのサポートは「最長で2016年まで継続する」(同)意向で、「既存の顧客は、時間をかけ、製品を吟味しながら、BO製品に移行するかどうかを選択することができる」(同)としている。サポ-トの窓口は現行では、SAP、BO別々の体制だが、いずれは一本化される見込みだ。また、「SAP BW」はデータウェアハウスとしての重要な機能を担当しているため「今後も強化する」(同)考えだ。

BIは、主要ITベンダーがこぞって参入しており、企業向けIT市場での最大級の争点であり、SAPは戦略の方向性をほぼ固めたようで、策の実行に向かっている。加藤氏は「SAPの営業部門は、すでに積極的にBO製品を推進しており、既存、新規ともに、売り込みを図っている。(BOを担いだ営業活動が)本格化したのは2008年の前半からだが、この9-11月には大きな成果が期待できる」との見通しを語った。