アビーム コンサルティングは2日、上場企業を対象に行った、J-SOX対応への取り組みに関する調査レポート「内部統制の現在・過去・未来」を発表した。同調査は2008年3月から5月にかけて、従業員300人以上の上場企業2,800社を対象に行われた。得られた有効回答数は302。同レポートの結果から、内部統制に関して日本企業は「意外とがんばっている」ものの、未だ「手直しすべき不備が多い」状態にあることが見えてくる。

企業規模と複雑性をベースに3つの企業グループに分類

アビーム コンサルティング 経営戦略研究ディレクター 木村公昭氏

はじめに同社 経営戦略研究ディレクター 木村公昭氏より、同調査の概要および調査結果の全体的な傾向について説明がなされた。

同調査の特徴は、調査対象となった企業を3つのグループに分けて分析した点だ。グループ分けの基点にしたのは、それぞれの企業の「規模」と「複雑性」。木村氏は「企業規模はもちろん重要だが、それにも加えて、内部統制の対象となる事業セグメントの数や海外拠点の数などが、内部統制の取り組みを左右する」とし、したがって同調査では、まず回答企業を規模(連結売上高)で大小に分類、そして規模の大きい企業を複雑性(主要事業セグメント率と海外拠点売上比率)の高低で分類し、「規模が大きく、ほぼ国内のみの単一事業の企業群・G1」「規模が大きく、複数事業であったり、海外での業務プロセス統制が発生する企業群・G2」「規模が小さい企業群・G3」の3つのグループに分けている。

今回の調査における回答企業のグループ分け。G1とG2を合わせた数がG3とほぼ同数になる

調査結果から得られた傾向

同調査では、全体傾向とグループ別傾向をそれぞれ知ることができる。

全体的傾向としては、整備・構築面では

  • 全社的な内部統制浸透に向けた取り組みが不十分(内部統制対応責任者(プロセスオーナー)がいない、など)
  • 本番初年度にもかかわらず、いまだに整備・構築作業が行われている(約7割の企業で不備が発生)
  • 多くの企業が実施基準に忠実(明確な基準がない項目はばらばらな対応に)

といった項目が挙げられ、また、評価面においては

  • 実施手順や体制準備が課題(4割の企業で評価の実施基準が未定、リソース不足、スキルセット不足、など)
  • 内部監査部門の独立的評価の対象は、1人あたり約100のキーコントロール(8割の企業が独立的評価を実施)

といったものが挙げられた。木村氏は「とくに注目すべきは、評価担当者1人あたり100キーコントロールという数の多さ」としており、中でもG2の評価ボリュームの多さが相対的に際立っているという。

グループ別の傾向は以下になる。

  • G1…評価にかける人数が相対的に多い
  • G2…海外拠点のリソース不足が顕著、評価ボリュームが多い
  • G3…全般的に整備・構築が遅れている

内部統制は監督行為ではなく執行行為

アビーム コンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 FMCセクタープリンシパル J-SOXイニシアチブ 統括 中野洋輔氏。同社の内部統制関連ビジネスの総責任者でもある

アビーム コンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 FMCセクタープリンシパル J-SOXイニシアチブ 統括 中野洋輔氏は、これらの結果を受けて「日本企業の内部統制は良い方向に向かっている」と、意外にも受け取れる指摘をしている。「どのグループにおいても、内部統制に対して前向きな姿勢を見せている経営者が多い。評価基準を遵守しようとする動きはその表れ。だが、逆にそれが評価担当者にとっての"重荷"になる場合もある」(中野氏)という。また、不備をみつけてはその整備・構築を繰り返す、というループに陥っている企業も多い。

中野氏によれば、グループ別に見た場合、G1は「かなりうまくやっている」が、G2になると「海外拠点も多岐に渡ることが多く、(統制の)範囲が広すぎて、しかも人員が割かれていないところに問題がある。G2はもっと評価担当者を増やしたほうがよい」と指摘する。人員増はどの企業にとってもむずかしい問題だが、問題解決のために「(評価担当者の)アウトソースを含めた選択肢」まで拡げることが必要だという。

また評価人員やプロセスオーナーとして「定年間近の人員をあてているような企業も見受けられるが、本来、内部統制は監督行為ではなく執行行為。企業内の業務にあかるくて、経営者が内部統制という"経営の重要な一部分"を委託できるような人物が担当することが望ましい」(中野氏)とし、プロセスオーナーの重要性を強調する。ただし調査結果によれば、プロセスオーナーを任命している企業は全体の5割強に過ぎず、年度末に向けて懸念される点のひとつだ。

そして、ある程度予想できた結果ではあったが、全般において内部統制が進んでいないG3については、「まず社内に内部統制への理解を浸透させ、内部統制推進機能の確立を急ぎ、年度末に向けて今まで以上に対応を進めていくことが必要になる」(中野氏)とした。