6月、多くの人にとって忘れることのできない事件が起きた。秋葉原へ足を運んだ経験のある人なら、他人事とは思えなかっただろう。6月のネット事件記事アクセス数トップ10は、それに関連した内容のものが多数を占めている。中でも目立つのは、掲示板などへの"犯行予告"書き込みから逮捕に至る複数の類似事件だ。

2008年6月のネット事件簿 Top10(6/1~6/30※)

順位 記事 掲載日
1位 渋谷で大量殺人、横浜駅を爆破……懲りずに相次ぐネット犯行予告と逮捕劇 6/20
2位 「俺も池袋で100人ぶっ殺す」と書き込んで……29歳男を逮捕 6/16
3位 「明日は俺のニュース流れる」土浦駅での犯行予告男を逮捕 - 茨城県警 6/18
4位 液晶TVを落札したら「木の板」が届いた! - オークション悪用の2人逮捕 6/4
5位 YouTubeで「子犬を崖に投げ殺した」米海兵隊員2人が懲戒処分に - CNN報道 6/13
6位 本当に危険な「ネット犯行予告」を検知できるか? - 総務省が技術開発へ 6/12
7位 「CHINTAI NET」などに"おとり"物件情報掲載、エイブルに排除命令 - 公取委 6/18
8位 ヤフオクで"ダガーナイフ"が全面禁止に - 出品商品も即日削除 6/13
9位 仕入れ元は「ジャパネットおかま」……海賊版売った男を逮捕 - 岩手県警 6/10
10位 ネットの犯行予告は110番通報を - 警察庁、秋葉原殺傷事件でISPに要請 6/10
※ 各記事の掲載日から1週間のアクセス数をもとにしています。

模倣犯の大量発生、ネットに現れた事件の波紋

今回最も多くのアクセス数を集めたのは、ネットで犯行予告を行った2人の男がそれぞれ逮捕されたことを報じた記事。また、これより前の日付で掲載された2位、3位の記事も同様に犯行予告を行った人物の逮捕についての内容で、6月はこれら3つの記事へのアクセス数が特に多いという結果になった。

これ以外にも、秋葉原で事件を起こした犯人が事前にネットで犯行予告を行っていたことを受けて、警察がISPに対してこうした書き込みについて通報するよう要請したり(10位)、総務省がこれらを自動的に検知できる新技術の開発を行う方針を発表したり(6位)と、周囲の振り回されぶりも注目された。それらの実効性については様々な意見があるが、社会的影響の大きさからこうした書き込みに対して何らかの対策を取らないわけにはいかないし、何もしないままでは批判を浴びかねないという事情もあるのだろう。

これまでにも掲示板等には自分の犯罪行動を予告するような書き込みが存在していたわけだが、現実に大きな衝撃を与える事件が起きたために周囲の目が必然的に厳しくなった形だ。

ニュースで報じられた"予告犯"らは、こうした状況の中であえて犯行予告を書き込んだわけだ。彼らの逮捕容疑は「威力業務妨害」または「偽計業務妨害」となっている。実際に人を傷つけた事実が無くても、ウソの犯行予告を書き込んで警察などの通常業務を妨げることになれば、刑法により犯罪となる。

世間的には匿名性が高いと思われがちなインターネットだが、調べればほとんどの場合、利用者を特定できるため、いずれも逮捕へと至ったわけだ。自分は逮捕されないと思ったのか、犯罪予告を書き込むことは犯罪にならないと考えたのか、あるいは捕まることが分かっていても行動に出ざるを得なかったのか……。いや、単に人の見ているところで何かデカいことを言ってみたかっただけなんじゃないか、とも思える。

これらの記事を見ていると、「世の中に不満があるなら自分を変えろ」というセリフを思い出す。ポジティブに捉えろとは言わない。逆に、そうすることくらいでしか今の世の中生きていけない、という方向で読むほうがしっくり来る。しかし、あえて「ムリです」と即答せず、どうせ書き込むなら犯行よりも先に1度違うことを書き込んでみてはどうだろうか。「明日、山手線でお年寄りに席を譲ります」とか……。自分が変わるまでは行かなくても、周囲の反応が少しは変わってくるかもしれない。

ネットの匿名性についてはこちらのレポートを参照

【レポート】なぜ捕まるのか? とまらない犯行予告と逮捕劇に見る"ネットは匿名"の誤解

「木の板」以外もかなり軽そうなオークション詐欺未遂

犯行予告事件に続いて今回4位に入ったのは、いわゆるネットオークション詐欺といわれる事件。タイトルからしてヤバい。むしろタイトルでほとんど事件の概要がつかめるほどわかりやすい事件なのだが、よくよく読んでみると出品者・落札者の人物像がなかなか面白い。

まずは、落札した19歳男子大学生のほう。

  • 男子大学生は、代金引き換えで2万5,000円を支払おうとしたが、中身が液晶テレビでないのに気づいたため、詐欺は未遂に終わった。

"支払おうとした"ということは、支払う前に気付いたということだと思われるが、やはり届いた荷物の大きさや重さなどに不審な点があったのだろうか。荷物が怪しい→支払い前に開けて確認という行動を取ったのであれば、若いのにずいぶんしっかりした観察眼と判断力の持ち主であると言っていいだろう。さらにちゃんと警察に被害届を出すあたり、抜け目ない。

一方、詐欺未遂で逮捕された23歳の男。オークション詐欺と言われる犯罪では、落札者が代金を振り込んだのに品物が来ないとか、出品者が音信不通などといったケースがよく聞かれるが、この事件では振込でなく代金引き換えが利用されている。一般的に代金引き換えは発送者が運送会社と個別に契約を結ばなくては利用できないため、発送者の身元がはっきりしている。代引き支払いが可能であることはオークションにおいて出品者(店舗/企業)の信頼にも繋がっている。さらに運送会社が集金した金額の決済には数日かかる(たとえばヤマと運輸では最短で5日間)など、荷受け人が代金を支払っても発送者の即時現金収入にはならない。

こうした条件の下、もし落札者が品物の届いた時点で代金を支払っても、品物が違うことに気付いて運送業者やオークション事業者に訴えれば、通常通りに代引き集金分の決済が行われることは考えづらい。しかもそれが「木の板」なら悪意を感じ取って警察に持ち込まれることは間違いない。一体どう計画して"詐欺成功の道"を見いだしていたのか、この23歳男と共謀者に聞いてみたいところだ。