YouTubeに投稿されたビデオを閲覧したユーザーのIDとパスワードを権利者に開示しなければならない――米Viacomによって起こされた訴訟を受け、米連邦地方裁判所は2日(現地時間)、YouTubeとその親会社であるGoogleに対して上記のような命令を下した。YouTube / Googleはその判決にすぐさま反応し、プライバシー上の理由から命令にそのまま応じる意志がないことをアピール。これら情報の提供は"必要以上のもの"と断じている。一方でユーザーコミュニティも続々と反応を示しており、先週の判決を境にViacomに抗議する内容のビデオが次々と投稿されている。

2007年3月にスタートした裁判、その過程でのYouTubeへのIP開示命令

今回の話題は、Viacomが2007年3月にYouTube / Googleに対しての訴訟を米ニューヨーク南地区連邦地方裁判所に起こしたことにさかのぼる。Viacomは同社が権利を保有する動画のYouTube上へのアップロードにより多大な損害を受けたとしており、こうした違法行為の禁止命令ならびに、10億ドルの損害賠償の支払いを求めている。ViacomはCBS、MTV、Pramount Pictures、DreamWorks、Nickelodeonなどの企業群を多数傘下に抱えているメディアグループ大手の1つ。同社がTVネットワークを通じて配信している番組の数々がYouTube上に無断でアップロードされていると指摘する。Viacomはその年の10月、Walt DisneyやMicrosoft、Dailymotionなどを含む企業群とともに違法アップロード対策を掲げた宣言書を発行したが、オンラインビデオ投稿サイト最大手であるYouTube / Googleの名前はここには見られず、依然として両社間での対立がある様子がうかがえた。

今回、同地方裁判所の判事であるLouis Stanton氏は、「著作権侵害コンテンツの閲覧動向を調べる」というViacomの要請により、Googleに対してYouTubeのデータベース内に蓄積された閲覧者のユーザーIDまたはIPアドレス提供の命令を下している。YouTubeにはコミュニティ機能が内蔵されており、登録したユーザーIDを通してサイトを利用することが可能になっている。ターゲットとなる動画に対し、このユーザーIDでアクセスした履歴を提示せよというのが命令の内容だ。一方でYouTubeを利用するユーザーの大部分は、こうしたユーザーIDを持たない不特定のユーザーだ。YouTubeではこうしたユーザーの管理にIPアドレスとクッキーを用いているが、Stanton氏はユーザーIDを持たない閲覧のケースについては、こうしたIPアドレスやそれに付随する情報を提供するよう求めている。

法遵守とプライバシーの板挟みで揺れるYouTube/Google

命令が下された日の翌日、こうしたプライバシー問題での活動で知られている電子フロンティア財団(EFF)はすぐさま反応し、Stanton氏の判断に疑問を呈している。同氏の命令では、Googleが収拾しているYouTubeサイト、または同サイトの機能を埋め込んだサードパーティのサイトでのビデオの閲覧状況に関してのデータをすべてViacomに提出する旨が記されている。EFFによれば、これはTVやレンタル等の利用者履歴の不当な公開を禁止したVideo Privacy Protection Act(VPPA)という法律に抵触する可能性があるという。だがStanton氏によれば、YouTubeはこうした事業者とは異なるもので、VPPAに抵触するものではないと反論している。

メディア各紙で本件が報じられ始めたのは独立記念日である4日のこととなる。この段階で多くのユーザーにユーザーID/IPアドレス開示の話が伝わったことになり、プライバシー問題が持ち上がるようになった。まず最初にコメントを出したのはYouTubeで、同社は公式Blog上に法遵守とプライバシーに関するトピックを掲載、法律への遵守は重要だとコメントしつつも、ユーザーのプライバシー保護が重要であるとの同社の認識を示した。法の遵守とプライバシーで板挟みの格好となったGoogle / YouTubeだが、米Wall Street Journal本紙の5日付けの報道によれば、すべてのデータを完全な形で渡すのではなく、こうしたプライバシーに関わる部分にフィルターを掛けた形で渡す許可を、GoogleがViacomに対して問い合わせていたという。

次に反応したのがViacomだ。ユーザーの非難の対象はすべて同社へと向けられており、これら利用者の声に応えた形となる。Viacomは公式声明のなかでYouTube問題についてコメント、今回のデータ提供命令があくまで違法コンテンツへのアクセス状況を調べるためのものだという点を強調する。命令の中で、これらデータは機密扱いとなり、他の用途での利用や第三者への譲渡は絶対に行われることはないという。またYouTube / Googleに対する訴訟を「不幸な出来事」とし、著作権を守るうえでのやむを得ない措置であることを理解するよう訴えている。

"ビデオ"での問題は"ビデオ"で抗議へ

EFFに続く形で、こうしたViacomの一連の行動に抗議の意を示しているのはユーザーとそのコミュニティだ。ユーザー同士でViacom関連コンテンツや製品のボイコットを訴えたり、同社に対する抗議を直接行うなど、より直接的なダメージでの抗議活動を進めている。だが一方でよりYouTubeユーザーらしい活動なのが、投稿ビデオの中で自身の抗議の意志を示していこうという運動だ。目には目を、歯には歯を、ビデオにはビデオをというわけだ。米InformationWeekは7月7日付けの記事で、このビデオを通じたユーザーの抗議行動について報じている。

同記事によれば、問題が発覚した先週だけで「Viacom」のキーワードがついたビデオが871本投稿されており、7日の記事執筆時点だけで同キーワードに関連する動画が新たに341本投稿されていたという。また興味深いのは、YouTube上で「Viacom」のキーワード検索をかけると、その検索候補一覧の中に「viacom lawsuit」「viacom vs you」などが登場してくる。それだけ関連動画が多く、ユーザーが検索をかけているホットなトピックなのだろう。投稿ビデオの例を紹介すれば、「F*CK VIACOM!...oh and happy 4th of July!」というタイトルのビデオの閲覧数が約34万、「VIACOM VS YOU = BOYCOTT」というタイトルのビデオの閲覧数が約16万となっている。このほかにも過去2-3日で数多くのビデオが投稿されており、そのほとんどがViacomに対する抗議のメッセージを載せたものである。

こうした形でユーザーの姿が見える点が、いかにもYouTubeとそのコミュニティらしい。Viacomが敵にまわしているのはYouTube / Googleだけでなく、そのユーザーも含まれたことになる。こうした問題にどう対処していくのか、ユーザー主導時代のメディアの在り方を考えるうえで楽しみかもしれない。