情報処理推進機構(IPA)は26日、2009年4月から実施される情報処理技術者試験「ITパスポート試験」に関するシラバスを公開した。ITパスポート試験は、現行の「初級システムアドミニストレータ試験」を引き継ぐ試験として、昨年12月に概要(手引)が公表されていた。今回公開したシラバスは、その出題範囲を詳細化し、項目ごとに学習の目標、内容、サンプル問題を示したものとなっている。

現行試験制度と新制度の比較図(IPA資料)

具体的には、昨年12月の「ITパスポート試験の手引」では、出題範囲として、9つの大分類(1. 企業と法務、2. 経営戦略、3. システム戦略、4. 開発技術、5. プロジェクトマネジメント、6. サービスマネジメント、7. 基礎理論、8. コンピュータシステム、9. 技術要素)と、23の中分類(1. 企業活動、2. 法務、3. 経営戦略マネジメントなど)を設定し、30問のサンプル問題が示されていた。今回のシラバスでは、例えば、大分類「企業と法務」の中分類「企業活動」については、1. 経営・組織論、2. OR・IE(Operations Research、Industrial Engineering)、3. 会計財務の3つに分けられ、項目ごとに「基本的な経営組織を理解する」といった目標や、経営組織の用語例「階層型組織、事業部制、マトリックス組織、カンパニ制、プロジェクト組織」といった内容、「問1 システム開発などを行うために、必要な技術や経験の保有者を各部署から選抜して適宜構成する組織はどれか。 ア 事業部組織  イ 職能別組織  ウ プロジェクト組織 エ マトリックス組織」といった計70問のサンプル問題が示されている(正解はウ)。

IPAでは、ITパスポート試験について、「職業人が共通に備えておくべきITに関する基礎的な知識を測るもの」と位置づけており、高度IT人材のキャリアとスキルを7レベルで示した「共通キャリア・スキルフレームワーク」ではレベル1に相当する。初級シスアド試験と比較すると、新たにアルゴリズム、基礎理論、プログラミング/プログラム言語といった現行の「基本情報技術者試験」の項目が一部追加されている一方で、「範囲が広がったが、難易度は少し下がった」(情報処理技術者試験センター長、川口修氏)という。

IPA 情報処理技術者試験センター長 川口修氏

試験時間は165分で、出題数は100問。総合得点60%以上かつ分野別得点30%以上の場合に合格となる。分野は3区分あり、出題数の目安としては、大分類の1~3で構成する「ストラテジ系」から35%、同じく大分類4~6で構成する「マネジメント系」から25%、大分類7~9で構成する「テクノロジ系」から40%としている。

川口氏は、ITパスポート試験の効果について、「企業の初期教育や大学・高校などの教育目標に取り入れられることにより、社会のIT基礎力が向上する」としたうえで、実際に、新入社員のほか営業職全員に受験を予定している企業や、試験合格に向けた対策講座を創設予定の大学、情報系学科・商業系学科において試験の活用を検討中の商業高校があることを紹介した。また、今回のシラバスについては、「受験者の学習指針として、企業・学校の教育プロセスにおける指導指針として活用することを期待する」としている。

今後の予定としては、新制度でレベル2に相当する「基本情報技術者試験」、レベル3に相当する「応用情報技術者試験」について、今年10月までにそれぞれシラバスを公開する。レベル4の9つの高度試験(ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、情報セキュリティスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験、システム監査技術者試験)については、2009年3月にシラバスを公開するとしている。

IPA ITスキル標準センター長 丹羽雅春氏

また、IPAは同日、ITパスポート試験のシラバスなどと併用することも想定した「ITスキル標準モデルカリキュラム -レベル1を目指して-」もあわせて公開した。このモデルカリキュラムは、企業や教育機関がITスキル標準(ITSS)に対応した研修に利用できるよう、ITSSの「研修ロードマップ」に基づいて、研修コースの実施に必要となる情報をまとめたもの。「IT入門」、「パーソナルスキル入門」などといった内容の科目が、90分×15コマで構成されており、モデルカリキュラムを履修することで、ITSSのレベル1で必要な知識を修得できるとしている。

対象としている人材は、本格的な就業経験のない学生やITに関する基本的な知識を持たない社会人。「教育機関の場合、週1コマで約半年、企業の場合1日5コマで約3日という研修モデルを示した。企業や教育機関の研修の実施形態に合わせて、広く利用できるものになっている。また、特定の製品や分野に偏らない基礎的な知識と、体系的なパーソナルスキルが修得できる」(ITスキル標準センター長、丹羽雅春氏)という。

今後、ITSSのレベル2を対象にしたモデルカリキュラムが今年8月に、レベル3を対象としたモデルカリキュラムが10月に公開される予定となっている。

なお、ITパスポート試験のシラバスやITSSモデルカリキュラムなどは、IPAのWebサイトからダウンロードできる。