米Yahoo!が米Microsoftによる1株あたり31ドルの買収提案を拒絶、その後の同社による提案もすべて拒否し、米Googleとの検索広告を中心とした提携を進めるなか、混迷する事態を背景にYahoo!のキーパーソンが次々と同社を離脱する動きが加速している。

主要部門トップやFlickr創業者など、次々と人材流出

海外の報道機関では、先週の6月20日過ぎごろから同社を去ることになった主力部門トップらの名前を相次いで報じている。退職リストの筆頭に挙がっているのが同社ネットワーク部門エグゼクティブバイスプレジデントのJeff Weiner氏で、同氏の後任はまだ決まっておらず、今後数週間内にも後任人事を含めた新体制が発表されることになるとみられる。

米Wall Street Journal(オンライン版)の20日付けの報道によれば、現在Yahoo!は事業強化のための新体制構築に向けたリストラを推進中だという。これは同社社長のSusan Decker氏を中心に行われており、メールや検索、ホームページ事業など、かなりの数の事業を中央の直轄とし、事業間の連携性を高めるのが狙いだという。進行中のリストラ計画は、前述のWeiner氏の抜けた穴をフォローする意味合いも持つと思われる。

だが一方で、リストラの影響を受ける形で同社を去るエグゼクティブらも存在する。前述のWSJの記事によれば、検索部門シニアバイスプレジデントのVish Makhijani氏は同社を去り、ロシアの検索エンジン企業Yandexで新たなチャンスを模索する意向だという。また検索広告技術部門エグゼクティブバイスプレジデントのQi Lu氏も同社を去ることになりそうだ。リサーチ&戦略データソリューション部門エグゼクティブバイスプレジデントのUsama Fayyad氏や、Flickr共同創業者のStewart Butterfield氏とCaterina Fake氏もまた、これら一連の退職者に続くことになりそうだ。

こうした退職予定者らの名前は、技術系BlogのTechCrunchが第一報を伝えており、WSJら他の報道機関がそれに続く形で独自取材を絡めた考察をまとめている。TechCrunchを発信源としたYahoo!退職予定者には、そのほかにもソーシャルブックマークサイトのDelicious(2005年にYahoo!により買収)の共同創業者であるJoshua Schachter氏やBrad Garlinghouse氏などの名前が挙がっている。

事業強化のためとはいえ、Yahoo!はここ数週間ほどで一気に大量の有力な人材を失ってしまったことになる。推測のレベルだが、泥沼化する事態に嫌気を感じている人々も多いとみられ、今後の展開しだいではさらなる人材流出が続くことになるかもしれない。特に上記で名前の挙げられたエグゼクティブらは、その分野では業界でもトップクラスの人材である。こうしたユニークな人材を抱えているところが低迷状態ながらもYahoo!の魅力だったともいえ、米Microsoft CEOのSteve Ballmer氏の述べていた「Yahoo-Googleの提携は検索広告分野の深刻な人材流出を招く」といった発言の一端を示しているのかもしれない。

業界ではYahoo!社員の引き抜き合戦が横行か

最近、シリコンバレー界隈で噂になっているのが、GoogleやMicrosoftといった企業らがYahoo!社員のヘッドハンティングを次々と仕掛けているという話だ。こうした噂はMicrosoftがYahoo!への買収提案の正式発表後にあたる初春ごろから出始め、転職サイトのLinkedInでは次の就職先を模索するYahoo!社員らの様子がリアルタイムで確認できるともっぱらの評判だった。上記エグゼクティブらの話題は6月のギリギリのタイミングになってからのものだったが、社員の流出は3~4月ごろからすでに本格化し始めていたと考えられる。これについて触れた記事が、CNET News BlogのIna Fried氏の6月18日付けの投稿などでも確認できる。

現在のYahoo!の状態を一番把握しているのは、そこに在籍している社員なのかもしれない。いくら魅力的な職場であれ、将来の見通しの立たない状況下では不安になるのも当然だろう。言うまでもなく、技術系企業で重要なのは有能な人材と技術資産だ。これら技術資産も有能な人材があってこそ生まれ、活かされることになる。人材の流出は、明らかに企業体力と寿命を徐々に削ぎ落としている。混乱の状態が長引けば長引くほど、企業としての魅力は消え失せるだろう。

Googleとの提携決定に続き、人材流出が続くことで、MicrosoftがYahoo!買収に完全に興味を失う可能性も否定できない。Googleとの提携を発表したYahoo!だが、これ自体が時間稼ぎという見方もできる。実際、両社の提携は独占禁止法違反に抵触するとの疑いがかけられており、18日にはYahoo! CEOのJerry Yang氏が背景の説明にあたるため、政府関係者を訪問したことが判明している。Yahoo!に委任状争奪戦を仕掛けるCarl Icahn氏もまたこうした事態を憂慮しており、8月1日の株主総会での早期事態決着を望んでいるに違いない。