韓国政府の情報通信部は、ユビキタス社会を構築しIT産業を発展させる「IT839」戦略について、その推進状況や成果を発表した。この戦略はITに関連した「8大新規サービス」「3大先端インフラ」「9大新成長動力」の分野から構成されており、その中にWiBroやDMB、W-CDMA/HSDPA、RFID、知能型ロボットなどの項目が属する構造となっている。

このIT839戦略を成功裏に終えるため、それぞれの項目がどれほどの成果を挙げており、今後どういった課題が残っているのかについて、今回情報通信部では具体的な内容発表を行った。とくに成果が目立ったものの中で「2007年までに終了する課題」として挙げられているのが、「次世代移動通信」「RFID/USN」「デジタルTV/放送」「広帯域統合網/ホームネットワーク」「デジタルコンテンツ」「知能型ロボット」といった6分野だ。

情報通信部による、IT839戦略の「2007年までに終了する課題」
分野 代表研究成果物 主要内容
次世代移動通信 WiBro 移動時のデータ転送速度が、現在商用化されているW-CDMAの15倍となる30Mbpsに達する技術を世界最初に開発。国際標準に反映され2006年、商用サービス開始。
RFID/USN 携帯電話RFIDリーダー 既存の携帯電話端末の内部に、モバイルRFIDリーダーチップを装着し、いつでもどこでも携帯電話およびRFIDサービスを受けられるようにした製品で、2008年に商用化予定。
デジタルTV/放送 地上波DMB 高速(最高300Km/h)の移動中でも、最大7インチの画面で鮮明な画質のデジタルTVと、CDレベルのオーディオおよび多様なマルチメディアデータサービスを提供する、移動放送受信システムおよび端末。2005年から商用サービスを開始。
広帯域/ホームネットワーク FTTH 光ケーブルを利用し、1Gbpsクラスの通信環境を提供する技術で、2007年下半期に商用化。
デジタルコンテンツ デジタルアクター 実際(人間)の俳優と同一レベルの、コンピュータグラフィックによるデジタル俳優を利用。実際の俳優にはできない高レベルな動きや群集などを製作できる技術。「中天」「韓半島」「ホロビッツのために」など、実際上映された映画で適用された。
知能型ロボット 国民ロボット ネットワークを通じてサーバーと連結された、低価格のサービスロボットを開発。2006年に家庭および公共の場を対象に、試験サービスを実施した。2007年実用化予定。

次世代移動通信は、モバイルWiMAXをベースとした韓国の通信方式WiBroや、HSDPAなどを指している。現在WiBroは、10月に開かれるITU(国際電気通信連合)の無線通信総会で、IMT-2000への採択案として議論される予定で、韓国でもWiBroを国際標準にと総力戦を行っているところだ。

またW-CDMA/HSDPAは、現在SK TelecomとKTFという2つの携帯電話事業者が激しいサービス競争を繰り広げている最中だ。この競争で市場も盛り上がっており、とくにKTFは9月に加入者が200万人を突破するなど好調ぶりを見せる。この勢いで「年内に加入者が400万人を突破する」(情報通信部)との予想が出ている。

「デジタルTV/放送」の分野で効果があったのは地上波DMB(日本で言うワンセグ)だ。当初はソウルおよび主要都市でしか見られなかった地上波DMBは、8月に韓国全土での視聴へ向けた地域拡大を開始。年内にも対応地域は全国の50%以上となる。これとともに加入者も8月時点で600万人を突破している。海外への技術輸出も盛んで、中国やドイツ、バチカン、イタリア、ガーナなどと地上波DMB技術導入の契約を締結し、本放送へ向けた支援を行っている。

RFID/USN(Ubiquitous Sensor Network:RFIDによる情報をリアルタイムで活用できるようにするために構築されるネットワーク)に関しては現在、携帯電話でRFIDチップを読み取り物品の情報を得られるようにする「モバイルRFID」の試験サービスが、書店や大型スーパーなどで行われている。これを受けて2008年には商用化サービスを行い、本格的な市場拡大に乗り出す予定だ。

一方、「今後も続けて推進すべき課題」としては「次世代移動通信」「デジタルコンテンツ」「デジタルTV/放送」「IT部品」「ソフトウェアフラッグシップ」「IT融合」が挙げられた。

情報通信部による、IT839戦略の「今後も続けて推進すべき課題」
分野 今後の重要推進課題 主要内容
次世代移動通信 IMT-Advanced技術 移動時のデータ転送速度が、現在商用化されているW-CDMAの約50倍に達する100Mbpsに対応。HDTVクラスの大容量マルチメディアコンテンツの転送が可能な技術を開発し、2010年に国際標準を確保する予定。
デジタルコンテンツ デジタル生命体技術 動植物、妖精、怪物など、想像上のキャラクターを実写レベルで製作するソフトウェア技術を開発。
デジタルTV/放送 無眼鏡3D DMB放送技術 眼鏡をかけずとも自然な3D立体映像を見られる、3D DMB放送技術の開発。
IT部品 携帯端末用プロジェクション入出力装置 携帯端末の入出力の限界を克服するため、レーザープロジェクションキーボードを通じた入力装置および出力装置を開発。
ソフトウェアフラッグシップ 航空エンベデッドソフトウェア/IDC用サーバー 航空機飛行運転プログラムとOSの開発。大容量動画のインターネットサービスを、低コストで提供できるサーバーを開発。
IT融合 ユビキタス健康管理用システム ユビキタス環境で、肥満やストレスなど健康状態の測定。癌や慢性疾患、生活環境における有害物質の監視などを携帯機器でできる、健康モニタリングシステムを開発。

中でも特にデジタルTV/放送には力が入っている。世界的に見た場合、DVB-HやMediaFLOなどDMBの対抗技術は多い。情報通信部ではこれらとの競争を大きく意識しており「モバイル放送分野において、DMB技術の世界化を積極推進することで合意した」と意気込んでいる。

ところで、IT839戦略の推進課程において多くの新技術も開発された。情報通信部によると、IT839推進により獲得した国際特許の数は計111。中でもMPEGなどの画像関連技術や、W-CDMA、WiBroなどの通信関連技術の特許が目立つ。

また2004年以降の特許獲得が急増していることから、情報通信部では「こうした成果による今後の波及効果はさらに大きくなるだろう」と予想している。またこれら国際特許から今後得られると見込まれるロイヤリティも、3億3,830万米ドルにも達すると予想した。

IT839戦略によって得た、分野別の国際特許数と予想ロイヤリティ
区分 特許数(件) 予想ロイヤリティ(100万米ドル)
W-CDMA 23 169.5
MPEG 25 79.8
WiBro 21 47.8
DMB 7 9.8
その他 35 31.4
合計 111 338.3

2002年以降の国際特許数の推移

韓国のみならず国際市場を視野に入れた韓国の技術開発は、着実に成果を見せ始めているようだ。こうして国際特許の取得や国際標準への採択を増やし、ロイヤリティでの収益を増やしたいというのが、韓国の最終的な狙いであるようだ。