HSPA通信機能を搭載したルーターを手に説明するEricsson上席副社長兼CEO上席顧問のJan Uddenfeldt氏

日本エリクソンは11日、報道関係者・アナリストなどを対象にしたセミナーを都内で開催し、来日したEricsson本社の幹部が、同社の推進するW-CDMA方式の高速化技術「HSPA」や、次世代の携帯電話方式「LTE(Long Term Evolution)」について今後の展望を示した。日本でも事業化が検討される無線ブロードバンド技術のWiMAXや、同社のライバルにあたるCDMA2000陣営の次世代方式など、他の無線アクセス技術を強く意識した内容の説明が相次いだ。

Ericssonは携帯電話基地局など通信設備の世界的な大手ベンダーで、日本の携帯電話事業者にもW-CDMA方式の通信設備を納入している。セミナーでは始めに上席副社長兼CEO上席顧問のJan Uddenfeldt(ヤン・ウッデンフェルト)氏が、同社の注力する技術について戦略的な観点から説明し、続いてセールス&マーケティング部 Government&Industry RelationsディレクターのMikael Halen(ミカエル・ハレン)氏が無線ブロードバンド市場の世界的な潮流と今後について同社の見方を話した。

HSPAの速度はWiMAXに遜色なく、コストも安い

Uddenfeldt氏は、HSPA(下り方向のHSDPAおよび上り方向のHSUPAの総称)は今後も2009年にかけて64QAM変調方式やMIMOなどさまざまな新技術を追加することで、高速化および周波数利用効率の向上を図るとし、技術デモンストレーションではすでに下り40Mbps程度の通信を実現していることを紹介した。「HSPA Evolution」と呼ばれるこの技術を利用すれば、WiMAXの性能と同等かそれ以上のパフォーマンスを得られるとし、仮に今後WiMAXのサービス展開が本格化しても「WiMAXはHSPAがすでに実現しているものを提供する」に過ぎず、また現在のW-CDMAネットワークで既に使われている技術がベースとなるためコストも安く済むので、WiMAXよりも有利で普及の見込みがあることを強調した。

「HSPA Evolution」ではWiMAXに劣らない通信速度を提供し、元々移動体通信のために開発された技術のためカバレッジの面でも有利との主張

同社ではノートPC内蔵用の通信モジュールや、HSPAによるインターネット接続機能を搭載したルーターなども開発している。このルーターは、DSLやケーブル/光接続が利用できない地域でも、HSPAのサービスエリアであれば携帯電話回線を利用してブロードバンド接続を可能にするもので、DSLモデムなどの代わりに家庭やオフィスに設置することを想定している。

PCI Express接続のMini Cardスロットに対応したHSPA通信モジュール。ノートPCなどに内蔵することで、下り最大3.6Mbps(規格上の理論値)の通信が可能になる

HSPAは第3世代携帯電話であるW-CDMAの拡張技術だが、同社では第4世代に相当するLTEの開発にも数年前から取り組んでおり、既にプロトタイプの試験を開始し、今年2月の3GSM World Congress 2007では144Mbpsの通信デモも披露している。同社では2009年前半にLTEの商用運用を開始できるよう準備を進めているといい、現在W-CDMA方式を採用している携帯電話事業者は、将来的に順次LTEへ移行していくと考えられる。

そしてUddenfeldt氏は、第3世代ではW-CDMA方式と互換性のないCDMA2000方式を採用しながら、次世代の方式としてはLTEに関心を示している事業者が複数存在する、とアピールした。米QUALCOMMを中心としたCDMA2000陣営は、次世代の接続方式としてUMB(Ultra Mobile Broadband)の開発を進めているが、同氏は、第2世代のGSM方式から移行する事業者の多いW-CDMAのほうが第3世代ではシェアを伸ばし、プラットフォームとしてよりグローバルに展開するため、それの後継にあたるLTEを選択したほうが、結果としてUMBよりも低コストかつ国際的にサービスを提供できると主張する。

IEEE802.16e規格のWiMAXはHSPAなど第3世代携帯電話と同等のパフォーマンスで、第4世代のLTEに相当する速度はIEEE802.16mを待たなければならず、またCDMA2000(1X/EV-DO)採用事業者もLTEを検討していると説明する

データ通信の急増により、携帯電話トラフィックは6年で10倍に

Ericssonセールス&マーケティング部 Government&Industry RelationsディレクターのMikael Halen氏

Halen氏は、オーストリアでは既にブロードバンド市場の25%は第3世代携帯電話が担っているという例を紹介し、ブロードバンド接続は今後数年のうちに固定網より移動網を利用したものが多くなるとの見方を示した。今後無線ブロードバンドへの加入は数億人規模に達するとし、調査会社Strategy Analyticsの予測によれば、2010年にはそのうち71%の契約者がHSPAによる接続を利用するという。この予測では、モバイルWiMAXは同2.5%にとどまっている。

ブロードバンド接続の加入件数は今後数年中に移動が固定を上回るとの予測

今後移動体通信の方式ではW-CDMA/HSPAが大きく伸びるとの予測。資料の出典は同社およびGartnerとされている

Strategy Analyticsの予測による、2010年の無線ブロードバンドの方式別シェア。HSPAが71%、CDMA2000の高速化方式であるEV-DOが24%、モバイルWiMAXはわずか2.5%と予測している

加えて、データ通信の料金定額制が導入されて初めて加入者は積極的に高速データ通信を使うようになるというデータを示し、HSPAの設備がただ整備されるだけでは無線ブロードバンドの利用は進まず、魅力的な料金体系などの環境がそろうことが重要であるとした。

ある事業者の例では、料金定額制を導入した直後にHSPAの利用(黄線)が急増し、従来方式のデータ通信(赤線)からの移行が進んだ。紫線は音声通話のトラフィック

同社の予測では、移動体通信における音声通話のトラフィックは今後も増大し続けるが、データ通信はそれを上回る勢いで急速に需要が増え、2010年にはインターネット接続や動画などのデータトラフィックが音声トラフィックを上回り、2012年には全トラフィックが2006年の10倍にも達するとしている。このため、無線ブロードバンドのためにさらに広い周波数帯域が必要になるだろうとHalen氏は指摘する。

音声の需要も引き続き増えるが、データ通信の需要はそれ以上に伸びる。2012年に移動体通信の全トラフィックは2006年の10倍になると予測している

日本でも携帯電話利用の拡大と加入者の増加によって、事業者にとっては基地局容量の確保が深刻な問題となっている。Halen氏は、小型基地局をピンポイントに設置したり、既存のセルを分割・再設計することでも容量は確保できるが、根本的な解決には周波数帯域の拡大が最も有効としたほか、LTEのような新方式は周波数利用効率の向上にも貢献できるので、その意味でも同社の次世代技術は日本市場で重要な役割を果たせると述べた。