2007年7月27日(現地時間)に欧州委員会(European Commission:EC)が、米インテルに対し「市場支配的地位を濫用し、不当な排除行為を行った」として、欧州競争法違反を認定する「異議告知書:Statement of Objection(SO)」を送付したことを受け、米AMDは、「独占」を巡る、米インテルとの一連の係争の経緯について、米AMDの法務部門の責任者であるTom McCoy法務担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP) 兼 最高総務責任者が来日して説明した。国内でも日本AMDは、インテル日本法人を提訴している。

米AMDのTom McCoy法務担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント 兼 最高総務責任者

ECはこれまで、米インテルが反競争的行為をしてきたかどうかについて調査を進めてきており、その結果として、以下の点を、AMDに対する排除行為であるとしている。インテルは、各パソコンメーカーに対し、自社製CPUを全面的に、あるいはその需要の大半を占める数量を採用することを条件に、巨額のリベートを提供した。多くのパソコンメーカーに対し、これら各社が予定していた、AMD製CPUを搭載した製品の発売を延期または中止させるため、資金提供を行った。AMD製CPUを搭載するサーバー製品に対抗するため、重要な顧客に対し、平均すると原価割れとなる価格で、自社製CPUを提供した。

日本国内でも、2005年3月に日本の公正取引委員会(公取委)がインテル日本法人に対し、排除勧告をしており、McCoy EVPは「日本の公取委の排除勧告は、勇敢な判断だった。それが正しかったことは、今回、ECが異議告知書を出したことが証明している。インテル日本法人は、公取委の排除勧告に応諾していた。米インテルの反競争的行為は世界各地で問題になっている。革新を促進させず、エンドユーザー、一般消費者に選択肢を与えず、価値を享受できなくさせるようなことが問題だといわれている。ECは、日本の公取委に追随するような判断を下した。世界の2大独禁当局が、同じような考え方を示した」と話す。また、韓国でも2005年、公正取引委員会が同国独禁法違反の疑いでインテルの同国法人に関連資料提出を求め、2006年には、立ち入り調査を実施したことなどを紹介した。

McCoy氏は「AMDのシェアは、技術水準の優劣にかかわらず、上昇と下降を繰り返しているが、20%を超えない。ハードメーカーやコンピュータ業界全体が、インテルの独占に影響を受けている。インテルのリターンは高いが、ビジネス全般をコントロールしており、ハードメーカーの利幅は薄くなっている。この10年、インテルとAMDの競争状況をみると、AMDの方が先に優れた技術を投入している。3DNow!、動作周波数がギガヘルツのプロセッサ、64ビットアーキテクチャー、統合型メモリコントローラー、ネイティブのデュアルコアなどだ」と主張した。

また「日本市場ではAMDは大きな成功を収め、2002年には(最高で)26%のシェアを獲得した。だが、(2004年には)11%に落ち込んでいる。これは、インテルが独占的な立場を利用して、AMDを締め出そうとしたからだ。インテルはリベートを導入して、ハードメーカーがAMDと取引しようとすると、ペナルティのように、価格を高くするというようなやり方をしていた。このような行為は、反トラスト法のある、どの先進国でも、違法であることは間違いないだろう」と述べ、インテルを厳しく批判した。

さらに、「この10年で、消費者側の受けるべき利益が600億ドル、インテルに移行した」とMcCoy氏は指摘した。経済・金融分野のコンサルティング企業であるERS Groupのディレクター、Michael A. Williams博士が発表した経済分析結果報告書調査によれば、「1996-2006年の期間、マイクロプロセッサの製造販売市場で、インテルが享受した市場独占による利益は600億ドル以上に上る」という。日本AMD側の弁護士、米山一弥氏は「この算定は、大きな意味をもつ。ただ、日本では、まず、侵害論--どのような行為があったかを明らかにし、損害論--その行為から生じた損害はいくらか、というような流れになる。いまは侵害論の段階だが、今後、損害論で、この算定は訴訟に影響を及ぼす」としている。

米山一弥弁護士

AMD対インテルの係争の国内での動向を時系列的にみると、次のようになる。2004年4月、公取委が、インテル日本法人に対し、独占禁止法違反の疑いで、立ち入り検査を実施。2005年3月、公取委、同社に排除勧告。同社は、勧告に応諾する意向を示したが、独禁法違反をしたとは認めないと主張。4月に、日本AMD、東京高裁/地裁に、同社を相手取った、損害賠償請求訴訟を提起。6月に訴状を提出。9月、インテル、答弁書を提出、日本AMDが、請求原因として、不法行為であると考えている事実について、すべて否認した。11月、AMD、第1回の準備書面(民事訴訟の口頭弁論での主張を記した文書)を提出、「排除勧告に応諾しながら、請求の原因となる事実を否認するのは矛盾している」とした。

その後、2006年-2007年にかけて、日本AMDは、公取委から提出された証拠などに基づき、請求の原因の事実について詳細に明らかにしていった。インテルは2006年11月、公取委が提出した証拠には、営業秘密が含まれているなどの理由で、訴訟記録の閲覧制限を申し立てたが、2007年5月に、準備書面を提出、請求の原因に対し具体的に反論した。日本AMDの吉沢俊介取締役は「今後、AMDの提出した請求原因を基盤に、内容について丁々発止の議論になる」と語る。一方、東京高裁は、地裁での争点整理にある程度めどが立てば、地裁に提出された資料を高裁でも扱い、並行審理が行われる見通しで「高裁は地裁の成り行きをみている」(吉沢取締役)状況だ。

日本AMDの吉沢俊介取締役