宇宙開発委員会(文部科学省)は29日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実現を目指す「次期固体ロケット」について、同委員会の推進部会から提出された事前評価結果を了承した。この事前評価では、次期固体ロケットの「開発研究」段階への移行が妥当と判断されており、実現へ向けて一歩前進した形だ。

29日に開催された「第27回宇宙開発委員会」。中央が松尾弘毅・宇宙開発委員会委員長

「次期固体ロケット」は、JAXAが研究を進めてきた3段式の小型ロケットで、昨年まで運用していたM-Vの後継機になる。従来のMシリーズ同様、全段で固体燃料を採用するが、1段目にH-IIA用の固体ロケットブースタ(SRB-A)を流用することで、コストを抑える。打上げ整備に非常に時間がかかったM-Vの反省を受けて、運用性の向上も図られている。

今回承認されたのは、推進部会(部会長:青江茂・宇宙開発委員会委員長代理)が審議を行ってきた次期固体ロケットプロジェクトに関する事前評価の結果だ。(1)プロジェクトの目的、(2)プロジェクトの目標、(3)開発方針、(4)実施体制--の各項目について、それぞれ事前評価が行われたもので、その結果については以下のように報告されている。

「(1)プロジェクトの目的」は、「小型衛星計画への対応および固体ロケットシステム技術の維持・向上」である。JAXAは「科学分野では小型衛星の需要も高い」としており、報告書では「M-Vを維持するよりも、次期固体ロケットで対応するほうが、ユーザーへの柔軟な対応や経費の観点から得策」と結論づけた。

また技術の維持という面では、「単に確立したロケットを使用し続けるだけでは、技術は陳腐化、空洞化していく」とし、「何らかの形の開発機会を用意することが不可欠」と判断された。M-Vの改良という選択肢も考慮されたが、これについては「M-Vは性能を追求してきた結果、改善の余地が少ない」として否定された。

「(2)プロジェクトの目標」については、軌道投入能力(地球周回軌道で1.2トン、太陽同期軌道で0.6トン)、打上げ費用(25~30億円)、機体製造期間(1年以下)、射場作業期間(7日)と、それぞれ具体的な数値目標があげられており、全て適切と判断された。打上げ費用については、「世界の固体ロケットと比肩しうる」と評価されている。

「(3)開発方針」は、(a)小型衛星への柔軟な対応、(b)信頼性向上、(c)コスト低減、(d)運用性向上--の4項目について示されている。(a)については、「多様な軌道への対応」「ペイロード搭載環境の緩和」「短期間・高頻度打上げへの対応」を実現するとしており、「固体ロケットの短所を克服しつつ、長所を伸ばす方針」と評価された。

また(d)の運用性向上については、搭載系のインテリジェント化や点検機能の自律化などが盛り込まれているが、「次期基幹ロケットなど我が国の次世代の輸送系にも適用可能」として、報告書はこれを高く評価。「単なる既存コンポーネントの組み合わせではなく、トータルとしてバランスの取れた高品質なシステムを目指している」とまとめた。

次期固体ロケットのイメージ(提供:JAXA)

JAXAでは、宇宙開発プロジェクトを「研究」「開発研究」「開発」「運用」の4段階に分類しており、次期固体ロケットはこれまで研究段階だった。今回、2つ目の開発研究段階への移行が認められたことから、今後はシステムの基本設計要求を固めるなど、実現に向けてより具体的で詳細な検討に入ることになる。

なお、開発研究で配慮すべきこととして、(1)固体ロケットの技術的・人的経験が適切に継承されていくこと、(2)搭載系のネットワーク化・自己診断機能等については標準化を念頭に開発すること、(3)新技術の採用では保守性や保全性についても設計要求を明確にすること、(4)JAXAのスタンダードに基づいた技術標準・技術管理・プログラム管理により開発を進めること--といった意見も提出された。