遠藤功氏

ビジネスフォーラム主催で、25 - 27日に行われた「事例にみる"見える化/改善活動"実践セミナー~仕組み(ノウハウ)から真の企業DNA(現場革新力)へ~」。初日の第1回目は、「見える化による組織革新の本質」と題して、学識関係者や企業の経営担当者らによる講演会が開かれた。

まずはトップバッターとして、早稲田大学大学院教授で、欧州最大の戦略コンサルティング会社ローランド・ベルガーの日本法人会長でもある遠藤功氏が登壇。「見える化の本質 - 仕組みから組織能力への転換-」と題した基調講演を行った。

重要なのは"見える化"の先にある実行能力

2005年10月に著書『見える化』を発刊した遠藤氏。以降1年半を経た現在までに、企業のみならず、教育関係者や病院関係者など、さまざまな問い合わせが寄せられ、自身もいろいろな現場を視察したという。そんななかで遠藤氏が今回の講演で改めて強調したのは、"見える化"は一過性の取り組みではないということだ。"見える化"というのは、組織内の体質改善、構造改革で、最低10年取り組まなければ大きな成果は得られないと言い切る。また、"見える化"の次のステップこそが重要であり、「"見える化"を実行して、組織の問題点が見えていながら、何もやらなければ見えないのと同じ。見えないほうがいい」とまで斬り捨て、"見える化"の先にある実行能力への転換の必要性を語った。

遠藤氏は、経営を考える際の3つの要素は、「ビジョン(リーダーシップ)」を頂点として、競争戦略、オペレーション(現場)がピラミッド型に積み重なる3つの要素を挙げた。頂点となるビジョンは企業の存在意義や理念、創業の想いなど、「なぜこの会社は存在するのか(Why)」にあたる要素だ。そして、その下に続く競争戦略とは、「何を具体的な価値として生み出していくのか(What)」にあたり、組織がどの土俵、分野でトップを目指すかを絞り込む、いわゆる"選択と集中"を意味する。

最後に、土台となるオペレーションは、「どのように価値を生み出していくのか(How)」にあたり、その上層部にある、ビジョンや競争戦略を現場が理解し、いかに実行していくかを指しているという。遠藤氏によると、これら3つの要素の整合性が取れている会社が強い企業だという。しかしながら、昨今の日本企業は、最下層の現場の力に格差が生まれている現状を指摘した。また、その上で、成果を創出するのはあくまで現場であり、競争力は企業活動のオペレーションの現場に埋め込まれていると教示し、現場力の重要性を述べた。

さらに、現場力が活かされた経営事例として、日本最北の動物園ながら、年間304万人が来園し、上野動物園を抜いて2006年の来園者数日本一となった北海道の旭山動物園の例を紹介。同動物園は、「少子化、施設の老朽化、エキノコックス病などにより、1995年に来園者数が28万人に落ち込み、閉園の危機に陥ったものの、いかに動物本来の動きを引き出し来園者に見てもらうか」というコンセプトのもと、"行動展示"を実施し、その後の大ブレークにつながった。この発想は「その動物を一番知っているのは担当飼育員だ」と現場を尊重し、意見を取り入れることで、復活へ導いた園長の手腕を高く評価した。

現場力の敵は"組織の壁"

また遠藤氏は、「どんな優良企業でさえも問題は山積みだ」とした上で、現場力とは「自ら問題を発見し、自ら解決する現場」と解説。現場の従業員が自分たちが業績向上を担っているという当事者意識がカギを握ると説明した。

さらに、「なぜ"見える化"なのか?」の問いに対して、「発見されない問題は永遠に解決されない」とし、問題発見が問題解決の第一歩であり、それを効果的に行うための仕組みが"見える化"だと定義した。

しかしながら同氏は、現場力の最大の敵は"組織の壁"にあると指摘する。というのも、組織というのは部門、現場と本社といった部分最適の"たこつぼ状態"の集合体であり、ただ"見える化"しただけでは問題解決にはつながらないからだという。つまり、つぼ割りをして、問題解決するのはあくまで人間であり、組織内のインフラをひとつにするのと同時に、対話の密度を高める人間系の"つなぐ化"が必要だという。

これに加え遠藤氏は、"見える化"の先の最後のプロセスとして"粘る化"を提唱。しかしながら、よい取り組みを始めても長続きしない会社が多いことを指摘し、対称的に優良企業として成長を続けるトヨタの本質的な強みは「しつこく、あきらめない」という"粘る化"だと分析し、「トヨタに強みがあるとすれば、地味に真面目にコツコツやるだけだよ」という、トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長の言葉を紹介した。さらに、理想のない現実主義からは飛躍は生まれないと述べ、「夢の"見える化"」こそが現場力を推進する機動力になると、今回の基調講演を締めくくった。