韓国でいわゆる「インターネット実名制」を含む「情報通信網利用促進および情報保護等に関する法律」(以下、情報通信網法)が本格的に施行されることとなった。

情報通信部は27日、情報通信網法と、同法の施行令、施行規則が施行されると発表した。

今回施行される情報通信網法には、「制限的本人確認制」「情報接近臨時遮断措置制度」「名誉毀損紛争調整部の新設」といった3つの主要要素が含まれている。

制限的に本人確認制実施

制限的本人確認制は、1,150の公共機関と35の民間事業者によるWebサイトを対象に、制限的に適用される。民間事業者の選抜基準は1日のユニークユーザー数だ。ユニークユーザー数が30万以上の、NaverやDaumといった大型ポータルサイト16カ所、およびPandora.TV(動画共有サイト)やegloos(ブログ)などのユーザー製作コンテンツ共有サイトなど5カ所、そして1日のユニークユーザーが20万以上の、KBSや朝鮮日報などのインターネットメディア14カ所が選ばれている。

上記のWebサイト上でユーザーが書き込みを行うためには、まず韓国国民1人1人に与えられる「住民登録番号」などを入力して本人確認を行う必要がある。ここで本人と認証された場合には、ニックネームなどを利用しての書き込みが可能となる。

制限的本人確認制は、最近韓国で社会問題化している「アクプル("悪"と"Reply"をつなげた造語で、悪質な書き込みという意味)」に対する措置として、その効果が期待されている。

しかし27日以降にインターネットで見られる書き込みを見ると、状況は相変わらずとしか言いようがない。とくに最近はサッカーアジア杯や、アフガニスタンでの韓国人人質事件など、韓国にとって大きなニュースが相次いでいるため、書き込み量自体が増えている状態だ。多くの書き込みがあればあるほど、その内容も多様化するのは当然のことではあるが、気にくわない人物に対して攻撃したり揚げ足を取ったりするような意見が多いように見える。

まだ制度が開始されたばかりの現時点では、ユーザーたちの制度に対する理解度もいまひとつで、すぐに効果は期待できないのかもしれない。

"親北"書き込みなども規制

このほか施行される制度としては「情報接近臨時遮断措置制度」がある。これはアクプルによる被害者から被害通報があった場合、Webサイトの運営者が該当情報への接近を、30日間臨時で遮断できるというものだ。

また運営者はとくに被害者からの通報がない場合でも、利用者の権利を侵害するような内容の掲示物を自立的に遮断することも可能となる。

インターネットへの書き込みで制限されるのは、なにもアクプルだけではない。過度な北朝鮮政権支持などの内容を含む「親北掲示物」を始めとした不法情報に関しては、すべての掲示板の管理者や運営者が情報通信部の長官命令権の対象となった。

長官からの命令や指示が下される長官命令権はこれまで、電気通信事業者にのみ適用されていたため、たとえば非営利団体などによる親北書き込みに対して削除命令などを出せずにいた。今回からは長官命令があればすぐに削除する義務が生じる。

さらに情報通信事業法に基づいて設立された情報通信倫理委員会内には、名誉毀損紛争調整部を新設する。インターネット上のプライバシー侵害や名誉毀損など、権利侵害事件が発生した際、迅速な対応ができるようにするため設立されたものだ。こうした部の新設が必要なほど、昨今のインターネット名誉毀損事件は多くなっているとも見られる。

情報通信部では「インターネット事業者の社会的責任と、利用者の自己責任意識を高められる、多様な法制度の導入が切望されていたのであり、時代的要求であったともいえる」と、このような制度を施行した理由について述べている。

前述のアクプルの現状にも見るように、まだ大きく効果が現れているとはいえない状態だが、それだけに今後政府や事業者がこの制度の認知度を広めていくことが大切だといえる。