日本IBMは19日、SOAアプリケーション開発を簡略化する新ソフトウェア群「IBM WebSphere Business Services Fabric V6.0.2(以下、WebSphere BSF)」を発表した。最大の特徴は「ビジネス・サービス」と呼ばれる新たな概念を導入し、SOAにおけると理想と現実のギャップを埋めようとしている点。サービス連携に必要なインタフェースをGUI画面で宣言的に記述できるほか、各種業界向けの標準テンプレートも用意されており、SOAアプリケーション開発における大きな障壁となっていたサービス粒度の設計作業も比較的容易に行えるという。

日本IBM WebSphere事業部長 山下晶夫氏

日本IBM WebSphere事業部長の山下晶夫氏は、SOAの普及が遅れている原因として、「サービスを適切な粒度で設計できる人員の不足」「サービスを組み合わせるミドルウェア環境の複雑さ」などを挙げる。BPELやESBといった技術が登場し、基盤部分は整備されつつあるが、ビジネス・プロセスを実装に落とし込むうえでは粒度の設計やインタフェースの定義などで高度なスキルが求められる。こうした点が足枷となり、SOAの採用に踏み切れない企業が多いという。

このような現状を改善すべく、日本IBMが投入する新製品がWebSphere BSFである。

WebSphere BSFでは、新たに「ビジネス・サービス」という概念を導入している。ビジネス・サービスとは、例えば「クレジットのチェック」「口座開設」というようにビジネス関係者の視点でまとめたサービスのことで、「レガシーアプリケーション」「パッケージアプリケーション」「既存のインフラ」「外部システム」などに存在する、IT資産としての"サービス"にWebサービスや業界標準(WS-I、ACORD、HIPPA、HL7など)を適用して作成することになる。

ビジネス・サービスの概念図

保険医療におけるビジネス・サービスの例(コンポジット・ビジネス・サービスとして切り出している)

ビジネス・サービスを作成する際には、サービスを適切な粒度で切り分けたり、各サービスのインタフェースを合わせたりといった作業が必要になるが、WebSphere BSFでは業種別のテンプレートを提供しているため、分析/設計に頭を悩ませるようなことはない。また、サービスを組み合わせて作成したビジネス・サービスに対しては、アクセス権限などのビジネス・ポリシーを設定しなければならないが、この点に関しても「Composition Studio」という開発ツールが用意されており、GUI画面で一連の定義作業を終えられる。

各種のサービスを組み合わせてビジネス・サービスを具現化するのは、WebSphere BSFの「Dynamic Assembler」と呼ばれる機能だ。Dynamic Assemblerは、リポジトリに格納されたビジネス・ポリシーを実行時に参照し、エンドポイントを動的に選択してビジネス・サービスを構築する。動的に行えるため、業務の変更に対しても柔軟に対応することが可能だ。

また、WebSphere BSFには、運用やガバナンスについても対応機能が用意されている。SOAでは、さまざまな部署が所有するシステムを統合するケースが多いため、運用コストの負担元やサービス変更の承認者を設定/管理するのが難しい。しかし、WebSphere BSFでは、ビジネス・ポリシーに負担部署/承認者を設定することができるうえ、「Governace Manager」や「Performance Manager」といった機能により、ビジネス・サービスの変更履歴の表示や承認/否認の管理、利用状況/性能の表示、課金管理なども行える。

国内の販売は今回が初めてとなるが、米国では多くの導入実績があり、開発コスト/期間を削減した事例が多数報告されている。山下氏によると、同製品を使うことでSOAアプリケーションの開発期間は「最大で約70%も削減できる」(山下氏)という。

なお、WebSphere BSFの価格は以下のとおり。

製品名 内容 価格
IBM WebSphere Business Services Fabric Tools Pack V6.0.2 ビジネス・サービスのモデリング/開発/テスト環境 2,074,000円(1ユーザーあたり)
IBM WebSphere Business Services Fabric Foundation Pack V6.0.2 ビジネス・サービスの実行/管理環境 33,605,000円(1CPUあたり)
IBM Banking Payments Pack for WebSphere Business Services Fabric 銀行の決済業務用テンプレート 42,900,000円(1パッケージあたり)
IBM Insurance P&C Pack for WebSphere Business Services Fabric 保険企業の損害保険業務用テンプレート
IBM Healthcare Payer Pack for WebSphere Business Services Fabric 医療保険企業の支払プロセス用テンプレート
IBM Telecom Operations Pack for WebSphere Business Services Fabric 通信企業の請求、フルフィルメント、および保証業務用テンプレート

販売開始は20日から。2007年はIBMの開発プロジェクトを中心に適用し、2008年から大規模な販路拡大を目指すという。