情報処理推進機構(IPA)のさまざまな取り組みと成果を発表する「IPAX 2007」が28日から29日の2日間、東京都文京区の東京ドームシティ・プリズムホールで開かれた。2日目となった29日の特別講演では、セールスフォース・ドットコム社長兼米Salesforce.com上級副社長の宇陀栄次氏が「実用期を迎えたSaaS ~事例を通じたユーザメリットとROIのご紹介~」と題して講演。「ITの世界でも"所有から利用へ"の流れが加速している」とし、SaaS市場が需要の高まりとともに規模を拡大していくと予測した。

宇陀氏は冒頭で、携帯電話やブロードバンドを例に、新しい技術・サービスは最初こそ伸び悩んでも、どこかのタイミングでブレークスルーすれば短期間で利用が広がると指摘。SaaS市場もそうした段階に達しつつあるとの認識を示した。宇陀氏は、特に日本市場の伸びが著しいとし、ユーザ数が毎年60%の伸びで増加していると説明、「日本市場は米国に次ぎ世界で2番目の市場となっている」と述べた。

また、決められたアプリケーションを複数人が利用することでコストメリットを追求する従来のASPサービスと異なり、SaaSは顧客から新しい要求が出てきた時もカスタマイズされたサービスを構築できると強調。「SaaSは実用期を迎えた」として、最終的には数万ユーザが利用するとの見通しを示した。

実際の使用環境を再現して行われたセールスフォース・ドットコムのSaaSサービスのデモ画面

また、SaaS市場の急速な拡大の背景として、宇陀氏はITの世界で"所有から利用へ"という流れが加速していることを指摘。都心で自社ビルや持ち家に代わり賃貸が主流になっていることや、自家用車ではなくタクシーやバスを利用することなどを例にあげ、「すでに他の産業で行われていることが、ITの世界でも広がりつつある」との認識を示した。

さらに、「ITを自己投資した場合の損益分岐点は投資後27カ月だが、SaaSなら3~6カ月が損益分岐点。また、不動産の場合は所有していれば投資対象の値上がりも期待できるが、ITの場合は所有したものの資産価値は劣化する。こうした点から、SaaSの経営的価値が理解されてきている」(宇陀氏)と、"所有から利用へ"の流れの意義を述べた。

宇陀氏によれば、三菱UFJ信託銀行が600ライセンスを導入し、最終的には数千ライセンスに達する見込みだという。また、10月に民営化を控える郵政公社も、金融商品販売法などに対応するため5,000ライセンスを導入するなど、同社サービスの需要は着実に拡大している。

「所有から利用へ」の流れを説明するセールスフォース・ドットコム社長の宇陀栄次氏

また、10人規模の配管設備会社が同社のサービスを利用し、受注をもらさない体制をとったことで営業利益の伸びが30%以上となった事例や、不動産会社がモデルルーム来場者の個人情報やアンケート情報を一元管理するサービスを導入して売り上げを伸ばした例など、大手企業だけでなく中小企業の導入事例を紹介。「企業の規模や地域による区別のないサービスを提供するのがこれからのITサービスのポイント」と強調した。

今後の展開については、「顧客の要求やアイデアによって、どんどん新しいサービスが生まれてくるのが我々の事業の特徴。さまざまなアイデアに応じて新しい機能が発展していく"アイデア融合型"のサービスをこれからも展開していきたい」と述べ、講演をしめくくった。

尚、宇陀氏の講演の途中には、同社執行役員でセールスエンジニアリング本部長の新井成幸氏により、企業が実際にサービスを利用する場合と同じ環境のもと、同社サービスのデモが行われ、多くの聴講者が熱心に見入っていた。