世界最速のコンピュータを決める「Top500 List」の最新版が6月27日(米国時間)に公開された。これは、現在ドイツのドレスデンで開催されているISC(International Supercomputing Conference)で発表されたもので、毎年6月と11月の年2回、今回で29回目のTop500更新となる。

今年もIBMのBlueGene/Lが首位、トップ3は100TFLOPS超へ

今回のランキングでも、やはりトップは米エネルギー省ローレンスリバモア研究所に設置されたIBMのBlueGene/Lとなった。スコアは前回同様の280.6TFLOPSで、引き続き2位以下を2倍以上引き離している。

今回健闘したのは前回10位だった米エネルギー省オークリッジ国立研究所のCray Jaguar(XT4/XT3)で、大幅な機能強化を経て2位のポジションを得た。3位には、前回から1つ順位を落としたサンディア国立研究所のCray Red Stormがランクインしている。JaguarとRed Stormのスコアはそれぞれ101.7TFLOPSと101.4TFLOPSで、今回のランキングではトップ3までのスーパーコンピュータが100TFLOPSの壁を越えた。後述するが、来年以降に向けてすでにPFLOPS(ペタフロップス)の領域が見えてきており、スーパーコンピュータも新時代へと移りつつある様子がうかがえる。

4位には、前回まで3位だったトーマスワトソン研究センターのIBM BGWが、5位にはブルックヘブン国立研究所のIBM New York Blueが新規ランクインしている。両システムともにIBMのeServer Blue Gene Solutionの流れを汲むもので、2・3位のCrayシステムがAMDのOpteronをベースとしたものであるのに対し、こちらはIBMのPowerPCプロセッサがベースとなっている。

そのほか、7位のレンセラー工科大学CCNIのIBM Blue Gene Solutionシステム、8位のNCSAのDell Abeシステム、10位のドイツ - ライプニッツ研究センターのSGI HLRB-IIが新規ランクインとなっている。前回5位だったバルセロナスーパーコンピューティングセンターのIBM MareStormが9位までランクダウンしており、6位以下だったシステムは軒並みトップ10圏外となった。日本最速のコンピュータとなる東京工業大学GSICセンターのTSUBAME Grid Cluster(NEC/Sun)は、今回のランキングでは14位。

ランク 導入先 コンピュータ(ベンダ) スコア(TFLOPS)
1 DOE/NNSA/LLNL BlueGene/L(IBM) 280.6
2 Oak Ridge National Laboratory Jaguar(Cray) 101.7
3 NNSA/Sandia National Laboratories Red Storm(Cray) 101.4
4 Thomas J. Watson Research Center BGW(IBM) 91.3
5 Stony Brook/BNL - New York Center for Computional Sciences New York Blue(IBM) 82.2
6 DOE/NNSA/LLNL ASC Purple(IBM) 75.8
7 Rensselaer Polytechnic Institute - Computional Center for Nanotechnology Innovations eServer Blue Gene Solution(IBM) 73.0
8 NCSA Abe(Dell) 62.7
9 Barcelona Supercomputing Center MareNostrum(IBM) 62.6
10 Leibniz Rechenzentrum HLRB-II(SGI) 56.5


PFLOPSの領域も見えてきたスーパーコンピュータの世界

Top500のリスト全体を見渡してわかるトレンドは、パフォーマンスに対する要求が急激に増加している点だ。例えば今回500位にランクインしたシステムは、わずか半年前に発表されたリストで216位のポジションに位置していたものだ。前回までであればTop500のリストに入るにはLinpackのベンチで2.737TFLOPSのスコアを維持していればよかったが、現在では4.005TFLOPSまでハードルが上がっている。つまり半年で1.5倍もパフォーマンス要求が上がったことになり、この分野での技術革新のスピードをよく表しているといえる。Top500の主催団体によれば、これは15年のランキングの歴史の中でも最も大きな上昇率だという。

こうしたパフォーマンス要求の上昇は、各社から発表される最新システムからもうかがえる。例えば26日には米Sun Microsystemsが「Sun Constellation System」を発表しており、スーパーコンピュータ分野への本格参入を表明した。同社によれば、Constellationは当初からTFLOPSの1000倍にあたるPFLOPS(ペタフロップス)の領域を視野に入れており、現在トップのBlueGene/Lを凌駕するパフォーマンスのシステムが今年中にも稼働を開始するという。一方でターゲットにされたIBMも、すぐさま反撃に打って出ている。

米IBMは27日(現地時間)、BlueGene/Lの後継となる「Blue Gene/P」を発表した。Blue Gene/Pはわずか2ラックのシステムで20.9TFLOPSのLinpackスコアを出しており、現在公開されているTop500リストの31位にランクインしている。Blue Gene/Pはスケールアウト可能な設計で、最大構成時で3PFLOPSのパフォーマンスに到達可能だとIBMでは述べている。このような形で、2008年にはベンダー各社によるPFLOPSシステム開発競争が激化することになりそうだ。

Top500をベンダー別に分析すると、IBMとHewlett-Packard(HP)の台頭が目立つ。IBMはリスト全体のパフォーマンスで41.9%を占有し、トップ10にも多くのシステムをランクインさせている。だが、総システム数では40.6%のシェアを持つHPに軍配が上がる。システム数におけるIBMのシェアは38.4%で2位、前回のTop500の47.2%から数字を落としている。

プロセッサ別ではIntelベースシステムの57.8%が首位、次いでAMD Opteronの21%とx86系プロセッサだけで8割近いシェアを占めている。Intelが前回の52.5%からシェアを伸ばす一方で、逆にAMDは22%からわずかにシェアを落とすなど、Intelプロセッサの採用例が増えているのも今回のランキングの特徴。例えば8位にランクインしたDellのAbeでは、IntelのクァッドコアXeon "Clovertown"を採用しており、こうした新型製品の登場がプロセッサ採用のトレンドに影響を与えている可能性がある。Top500掲載システム全体でいえばデュアルコア・プロセッサが最大勢力であり、最も採用率の伸びが高かったのはIntelのXeon "Woodcrest"になる。

またシステム構成のトレンドでは、クラスター型が最も主流なアーキテクチャとなり、全体の74.6%のシェアを占める。インターコネクトの技術としてはInfiniBandが急成長しているものの、依然としてギガビット・イーサネットのほうが主流のようだ。