日本IBMは6日、ビジネスクリティカルなアプリケーション向け基本ミドルウェア「WebSphere Extended Deployment」の最新版となるバージョン6.1の出荷を開始した。「WebSphere Extended Deployment v6.1(以下、XDv6.1)」は、仮想化を利用することでアプリケーションサーバの資源最適化を実現する製品。

日本IBM WebSphereマーケティング・マネージャ 渡辺隆氏

近年ではビジネスにおけるWebアプリケーションの重要性が高まり、JavaによるWebアプリケーションが大規模な基幹システムにおいても利用されるようになってきた。日本IBMでWebSphereマーケティング・マネージャを務める渡辺隆氏は、「増加するトランザクションへの対応やサービスレベルの向上、運用管理スタッフの充実など、今後ITに対するさらなる投資が必要となる。その中でビジネスにおける競争優位性を確保するためには、このIT投資を最適化することで十分なコスト削減図らなければならない」と指摘する。XDv6.1では、アプリケーションサーバの仮想化を行うことで、サーバ台数の削減や運用管理コストの最適化を実現するという。

同氏は、現状の"ビジネス・クリティカル"アプリケーションの主な課題として次の3点を挙げている。

  • アプリケーションサーバ単位での最適化(サーバ群全体として最適化されていない)
  • データへの高速アクセスにアプリケーションサーバが耐えられない
  • 混在環境による管理の複雑さ

XDv6.1では、これらの問題を解決するために以下の3種類の機能を提供する。

  • Operations Optimization - 仮想化によるインフラの最適化やインテリジェントなワークロード管理、環境対応型の管理機能の提供
  • Data Grid - 高速/高機能なキャッシュ技術による高速データアクセスの実現
  • Compute Grid - 複雑な計算処理の実現

従来のXDではこれらの機能を全てセットにして販売されていたが、v6.1からはそれぞれ個別のアプリケーションとしても購入できるようになっている。

「Operations Optimization」では、アプリケーション・レイヤーにおいてリクエストの割り振り制御やIT資源の仮想化を行うことにより、アプリケーション運用環境を最適化するという。具体的には、アプリケーションに対するリクエストをユーザ層や業務などで優先度別に処理し、サーバ負荷に応じて流量を制御する。サーバの負荷が増加した場合に、空いているサーバを探して動的にアプリケーションを配備し、負荷を分散させるといったことも可能だ。

また、割り振り制御の活用によってサービスを止めずにアプリケーションの更新やサーバ保守が行える"Non-Stopサービス"も実現している。アプリケーションサーバの監視機能によって障害を未然に検知し、然るべき処置を実行することもできる。XDの特徴は、上記のような機能をアプリケーション単位ではなくIT資源全体で統合的に実現できる点である。

さらに、v6.1からはWebSphere以外のアプリケーションサーバが混在した環境においても、上記の最適化が実現できるようになった。標準でサポートされるのはBEA WebLogic、JBoss AS、Apache Tomcatなどで、その他のベンダーから提供されるアプリケーションサーバに関してはテンプレートのカスタマイズによってサポートされる。XDv6.1のOperations Optimizationは、従来アプリケーション単位で個別に行ってきた最適化をひとつ上のレイヤーで実現することにより、IT資源全体を一体化・自動化された環境で運用する。

「Data Grid」では、分散オブジェクトキャッシュの利用による高速なデータアクセスを提供する。Webアプリケーションのパフォーマンスの低下は、データベースアクセスがボトルネックとなって発生するケースが極めて多いという。そこでXDではデータを複数のアプリケーションサーバのメモリ上にキャッシュすることで、データアクセス時の負荷を分散させる。データはパーティション単位で分散化することによって競合を回避し、XDは処理リクエストを各パーティションにルーティングする。

この分散キャッシュはアプリケーションサーバの提供するサービスに関係なく、サーバマシンのメモリを間借りする形で行われるという。これによって余っているリソースを有効に活用することが可能になり、システムの応答性能を大幅に改善できる。

「Compute Grid」では、先進のJava環境によって本格的なバッチ処理を可能にする。現状、メインフレームでは大規模バッチによって業務処理を行っているケースが多い。一方で新規アプリケーションはそのほとんどが分散系のオンライン・アプリケーションとして稼働している。このような二分化は運用保守のコストを増大させているばかりでなく、バッチ業務とオンライン業務の連携も困難にしている。

XDを利用すれば、分散系のWebアプリケーションサーバ環境をバッチのエンジンとして活用することができるという。さらにOperations Optimizationと併用することによって、オンライン業務とバッチ業務双方を処理し、リソースを自動的に配置することも可能となる。

その他、XDv6.1では従来のバージョンに対して運用/保守作業の大幅な簡素化も実現しているという。具体的には、アプリケーションサーバに対するXDコンポーネントの導入や修正パッチの適用が、1台のXDマシンからリモートで行えるようになった。同時に、導入や修正適用の履歴管理も可能になっている。

IBMでは現在"製品がビジネスに対してどのような価値をもたらすのか"という点を重視したソリューションの提供を行っている。今回発表のあったXDv6.1は、金融や通信、物流、サービス業など、リアルタイムなビジネス・クリティカル・アプリケーションを導入している企業を対象として販売されるという。「WebSphere XD」フルパッケージの他、用途に応じて「WebSphere XD Operations Optimization」、「WebSphere XD Data Grid」、「WebSphere XD Compute Grid」を単体で導入することができる。