東京大学ら、ペタクラスのスパコンを実現するプロセッサの開発に成功

    大塚実  [2006/11/07]

    東京大学と国立天文台は6日、開発中のスーパーコンピュータ「GRAPE-DR」で使用されるプロセッサの開発に成功したと発表した。1チップ当たり512GFlopsという演算性能を持つもので、GRAPE-DRはこれを約4,000個使用し、ピーク性能は2PFlopsとなる見込み。低コスト・省電力も特徴となるシステムで、2008年度の完成を目指している。

    開発されたプロセッサのES品。一般のCPUと同程度の大きさ

    こちらは実際のダイ。サイズは17mm角となっている

    「GRAPE-DR」は、東京大学、国立天文台、理化学研究所、NTTコミュニケーションズなどによる研究グループ(代表者:平木敬・東京大学情報理工学系研究科教授)が開発を進めている高速計算機。1チップに512個もの要素プロセッサを集積しているのが特徴で、GRAPE-DRではこれをPCのアクセラレータとして使用。4チップ搭載の拡張カード2枚が挿入されたPCを512台用いることで、合計2PFlopsのシステムを実現する。

    開発したチップを持つ平木敬・東京大学情報理工学系研究科教授

    チップ内には共有メモリも搭載。総トランジスタ数は約3億個となる

    基本アーキテクチャ。PCとの間にはFPGAの制御プロセッサを利用している

    GRAPE-DRのシステム構成。わずか40ラック程度で2PFlopsが実現するという

    2004年度に開発を始めた当時は、「世界最高速のスパコンになる」としていたが、「残念ながら世界の情勢は非常に厳しい」と平木教授。現在、TOP500リストで最速とされる米IBMのBlueGene/Lでもピーク性能はまだ367TFlopsだが、IBMやCrayも2008年前後でのペタフロップス実現を目指しており、GRAPE-DRが登場時に最速となれるかどうかは極めて微妙なところだ。

    今回、GRAPE-DRの中核となるチップの動作に成功したことで、平木教授は「予算上の問題はまだ残っているが、少なくとも我々は、ペタフロップスが実現するということを、もう具体的なスケジュールで考えられるようになった」とコメント。2008年度までに2PFlopsのシステムを構築する計画で、アクセラレータボード単体の販売も今後行われる予定だ。ボードの価格は「100万円以下にしたい」(平木教授)という。

    GRAPE-DRのプロジェクトは、文部科学省の科学技術振興調整費「分散共有型研究データ利用基盤の整備」により実施されているもの。総予算は5年間で約15億円とされ、10PFlopsを目標とする「京速計算機」の開発費が1,000億円になるとも言われているのに比べると、非常にコスト効率が良いと言えるだろう。

    ところで、これまでのGRAPE(GRAvity PipE)シリーズは、「天体シミュレーション向けの専用機」といった印象が強いが、GRAPE-DRはより汎用性が高いシステムとなっており、天体シミュレーション以外にも、ライフサイエンスやナノテクノロジーなど幅広い分野で利用が可能。ただし、メモリアクセスやネットワークがボトルネックとなる分野には向かないそうで、応用はアプリケーションにもよるようだ。

    GRAPE-DRが有効な分野、苦手な分野

    またLinpackも向いている計算の1つということで、当日の記者会見では、実際に製造されたチップによる動作デモも行われた。現状はまだ1チップによる動作のみで、ソフトウェア側のチューニングも進んでいない段階だが、最終的には実行効率は50%程度、つまりピーク性能2PFlopsのGRAPE-DRでは、1PFlops程度の実効性能となる見込み。Linpackによるベンチマークを採用しているTOP500リストにも申請する予定だ。

    デュアルOpteronのデモ機。拡張カードはPCI-Xインタフェースで、チップのクーリングファンはZalman製のものが使われていた

    Linpackを実行中という画面。C言語によるソフトウェア開発が可能で、現在、コンパイラの整備も進められているという

    チップの製造には台湾TSMCの90nm CMOSプロセスが使われており、実装のための設計は台湾Alchipが担当した。チップは500MHzで動いており、消費電力はピーク時60W、アイドル時30W程度に抑えられている。

    「予算が獲得できれば」という前提付きになるが、将来的に45nmプロセスで製造すれば、「2010年くらいには、1チップで3~4TFlopsのICを作ることができるようになる」と平木教授。「50億円で20~40PFlopsのシステムを構築できる。現在はそのスポンサーを探している最中」と述べ、資金面での支援を訴えた。

    開発したチップは、米国フロリダ州で11日(現地時間)より開催されるHPCに関する国際会議「SC06」にて公開される予定。

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