NTTは18日、特殊な結晶を用いて光を自在に曲げることができる現象を発見、それを利用した光ビームスキャナの開発に成功したと発表した。「KTN結晶」と呼ばれる誘電率の高い物質にレーザー光を通し、電圧を加えることで進行方向を制御した。将来的には、携帯電話に搭載可能なプロジェクタや、ハンディタイプのレーザープリンタなども期待できるという。
"スキャナ"というと、一般には書類をイメージとしてPCに取り込む装置を想像するが、ここでいう"スキャナ"とは、光ビームをスキャン(走査)する装置のことだ。つまり光の方向を自在に変えることができる装置のことで、レーザープリンタやコピー機などでは広く利用されている技術である。従来の可動ミラーを使ったシステムと比較すると、KTN結晶では機械的な可動部がないので、非常に高速な動作が可能になるという特徴がある。
KTN結晶とは、カリウム(K)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、酸素(O)から成る透明な光学結晶。光デバイス材料として高い性能を持つことは以前から知られていたが、結晶成長が難しく、これまで実用化されてこなかった。NTTフォトニクス研究所はこの作製技術について研究を進め、世界で初めて実用的な大きさである40mm角結晶の作製に成功、2003年9月に成果を発表している。
今回発表した現象は、同研究所の研究員である中村孝一郎博士が2004年、実験中に偶然発見したものだという。KTN結晶に電圧を加え、光の強度を変える実験をしていたが、「真っ直ぐ光が進む前提でやっていたが、どうもおかしい」と気付き、調べたところ、光が動いていることが分かった。その後、この現象の原理を理論・実験の両面から探求し、「電流の注入により、屈折率のグラデーションが誘起されている」ことを突き止めた。
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NTTフォトニクス研究所の中村孝一郎博士 |
KTN結晶は、非常に誘電率が大きく、高い電気光学効果(EO効果、電圧をかけることで屈折率が変化する現象)を持つ物質である。従来、こういったEO結晶は絶縁体と考えられていたが、電圧を加えることで電子が注入され、電界に傾斜が生じることが分かった。電界の強さで屈折率は変化するので、結晶内部で屈折率はグラデーション状になり、そのため坂道をボールが転がるように、光は曲がって進むことになる。
従来、光ビームスキャナには、可動ミラーは広角だが低速、EOスキャナは高速だが狭角という「ある種のトレードオフ」(中村博士)が存在していたが、KTNスキャナはこれを両立するという。現在最も広く利用されている可動ミラーと比較すると、体積は1/100以下、動作速度は100倍以上と、小型化・高速化が可能。中村博士は「あくまでイメージ」としつつも、将来的には「携帯電話に入るプロジェクタ」や「デジカメから写真を印刷できるレーザープリンタ」も実現できるかもしれないとコメントした。
コストに関しては、「数百円のレベルでチップができるのでは」(同社)とのことで、従来の可動ミラーなどとは価格競争力のある製品が実現できる見通し。様々な製品分野での応用が期待されており、今後はスキャナ単体での試作機を2年以内に開発し、システム化での展開は5年を目途に考えているそうだ。
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