2003年2月、上海交通大学の陳進教授らが2年余りにわたる研究を経て、中国で初めて自ら知的所有権を有する高性能DSP(デジタル信号処理装置)チップ「漢芯1号」の研究開発に成功、中国における集積回路産業のコア技術開発で歴史的な一歩を記したと報道された。
当時の報道では、「漢芯1号」は外国からの同類輸入品を代替し得るものとして、通信設備、デジタルカメラ、テレビ会議、情報セキュリティ、携帯電話、情報家電などの分野に広く応用することができるとされていた。
さらに、上海市科学委員会が主宰した当時の技術成果鑑定結果においても、「漢芯1号」及び関連するデザインと応用開発プラットフォームは国際的にも先端水準に達しているとみなされた。その後、性能面でさらに優れた「漢芯2号」、「漢芯3号」、「漢芯4号」も続々登場したとされている。
ところが、2005年末から「漢芯」シリーズに対し、その「成果」の真実性へ疑問の声が上がってきた。折しも隣の韓国では、ソウル大学教授・黄禹錫氏によるねつ造事件が発覚し、大きな話題になっていた頃である。中国国内では、陳進氏が中国版黄禹錫氏ではないか、という疑惑が取りざたされるようになっていた。
こうした背景のなか、上海交通大学は12日、内外を騒がせてきた「漢芯」シリーズDSPチップ偽造疑惑に対する調査結果と処分を発表したのであった。
調査結果では、同校微電子学院院長の要職にあった陳進氏が「漢芯」シリーズを研究開発する過程において、「厳重な偽造と詐欺行為」が存在しており、ねつ造した研究成果で鑑定機構を騙し、上海交通大学、地方政府、中央政府関係部門、マスコミ、ならびに社会大衆の評価と国からの巨額な研究資金を騙し取ったとしている。上海交通大学は同校の関連規定に則り、陳進氏を同大学微電子学院院長の職から解任、教授の職務資格を取り消し、教授の任用契約も解除する処分を決定した。
2005年12月以降、漢芯科技総経理でもある陳進氏の「漢芯」シリーズの研究成果ねつ造疑惑に関する摘発報告に基づき、速やかに初歩的な調査を実施。その後、この事件の複雑さを考慮しながら、上海交通大学の依頼により、中国の関係部門が全面的な調査と検証をおこなってきた。
翌年の2006年1月28日、科学技術部、教育部並びに上海市政府は専門家連合調査チームを組み、本格的な取り調べを始めた。専門家連合調査チームは「客観公正」と「科学尊重」の精神に立ちつつ、事実に基づいて真実を求めたとされている。摘発者が提供した証拠内容に対しても、摘発者、当事者、関係者などの面談を慎重に実施し、技術関連資料の検討、関係技術文献との対比検証、「漢芯」チップに関するプレゼンテーション内容の検証、関連映像資料の検証などをおこない、「漢芯1号」から「漢芯4号」まで、DSPチップにおける設計プロセスと性能指標に関する全面的な調査を実施した。そしてこのほど、科学技術部と教育部が、上海交通大学に対して専門家連合調査チームが下した調査結果を手交したのだった。
調査では、陳進氏をはじめとする「漢芯」研究開発チームが開発した「漢芯1号」が208ピンのパッケージ形式で組み立てられたDSPであり、そのチップの設計構造そのものが簡単なため、単独で指紋識別やMP3再生などの複雑な機能を実行することができないとしている。
しかし、上海で当時開催された記者会見の席上、陳進氏らは、宣伝効果を強化するために「漢芯1号」のプレゼンテーションにおいて、「漢芯」というマークを付けてあった144ピンのパッケージ形式で組立がなされたチップを使用した。この144ピンのICサンプルは、鑑定対象であった208ピンの「漢芯1号」ではなかったのである。調査によれば、当時の漢芯科技はいかなる144ピンパッケージ形式のチップをも開発しておらず、この一点においても、偽造詐欺の事実が認められたとされている。
一方「漢芯2号」は、他社の委託を受けて開発したカスタム品のDSP(Soft IP Core)であった。漢芯科技はたしかに設計を担いはしたが、コア技術を獲得することはなかった。さらに「漢芯3号」は「漢芯2号」に対するごく単純な機能付加に過ぎないとされており、技術面では「漢芯2号」と同レベル。「漢芯2号」と同じく、必要な周辺回路のサポートがないため、独立した応用はできないという。「漢芯3号」は、漢芯科技が称したような「世界的に最先端のDSPデザイン水準に達している」といったものではなく、これは明らかに事実を誇張したものだと断じられた。「漢芯4号」は、他社のCPUを使ったシングルコアDSP(SoC)であり、「漢芯」を内包してもいない。しかし漢芯科技は中央政府の関係部門に、「漢芯4号」がデュアルコアDSPであると陳述している。これも誇大と詐欺にあたると判断された。
上述の調査結論に基づき、上海交通大学は陳進氏らの行為を科学技術研究者、教育担当者としての基本である誠実信用の堅持と、行為準則に反する悪質な学術腐敗と結論づけた。今回のねつ造事件に関する厳しい処分が、現在の中国学術界に充満しているとされる事実の誇張に基づくいたずらな利益追求、あるいは、とかく「腐敗」問題が取りざたされる教育界にどのような影響を与えるか――今後の状況推移が注目される。
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