NTTドコモは、非接触ICチップを搭載した携帯電話「おサイフケータイ」と連携したクレジットカードサービス「DCMX」を提供開始すると発表した。まずは携帯電話端末でのみ利用可能で限度額が月々1万円までの「DCMX mini」を28日から提供、プラスチックカードも発行する「DCMX」の契約を5月下旬から受け付ける。
DCMXは、ドコモがおサイフケータイ向けに提供しているクレジット決済プラットフォーム「iD」を利用したサービス。クレジットカード各社はこのプラットフォームを使うことで、おサイフケータイをクレジットカードのように利用して決済を行うことができる。
EdyやモバイルSuicaといったおサイフケータイ向けの電子マネーは、あらかじめ利用するお金を入金しておく必要があるが、iDの場合は使った分だけカード利用料として後日請求される仕組みのため、事前に入金する手間が省け、実際に利用する際の料金不足も防げるといったメリットがある。
今回のDCMXは、ドコモ自身がクレジットカードブランドを立ち上げ、iDを使ってクレジット決済サービスを提供するものだ。
まず提供されるDCMX miniでは、小学生を除く12歳以上のドコモユーザーに対し、携帯電話からの3ステップという簡易な手順でサービスを利用可能にする。月々の限度額が1万円までと限定されており、プラスチックカードも提供されないため、その場ですぐにクレジットカードサービスが利用できるようになる。原則として、過去2カ月間の携帯電話料金滞納がなければ誰でも契約できる。
現在、ドコモのおサイフケータイの契約数は1,200万。4月28日のサービス開始時点で、それらの契約者に対して、月々で1200億円、年間では1兆4400億円の与信が行えることになる。ユーザー自身は、携帯電話の契約時にあらかじめ決めておいた4けたの暗証番号入力だけで契約が行えるため、クレジットカードを作成するという意識をしないで簡単に契約できる点が特徴だ。
もともとiDは1万円まではサインがいらないため、電子マネーのような感覚で専用のリーダー/ライターに携帯電話をかざすだけで決済が行える。利用した金額はドコモの月額利用料金とともに引き落とされ、明細書は専用のiアプリ経由で確認することができる。
サービスとしてはDCMX miniに加えDCMX、さらにDCMX GOLDの提供が決まっており、DCMX GOLDはDCMXよりもさらに充実させたサービスを用意する予定だが、現時点では提供開始は「できるだけ早く」(ドコモ執行役員・夏野剛氏)としか決まっていない。
DCMX miniはiモードやWebからの申し込みだけですぐに利用可能だが、DCMXは個人を証明する書面の送付が必要で、プラスチックカードも発行される。VISA/MasterCardの国際ブランドを選択可能なので、iDが使えない店舗や海外でも利用できる。限度額も20万円以上になり、リボ払いや分割払いにも対応、キャッシング機能も提供予定だ。利用額に応じてドコモの端末購入割引などで使える「ドコモポイント」もたまるほか、携帯電話の盗難、紛失時の補償や海外傷害保険など、「現在カード会社が提供しているサービスはカバーする」(同)。
携帯電話特有のセキュリティ機能としては携帯電話の遠隔ロック機能やICカードロック機能、一部端末ですでに提供されている指紋認証などの生体認証に加え、ドコモ側が遠隔ロックを行う「おまかせロック」機能も提供する。これは、ドコモのサービスセンターからユーザーの依頼で遠隔ロックできるサービスで、今後登場する端末は標準対応にする予定。また、指紋や顔認証といった生体認証を、今後の新端末では「基本的には搭載したい。大半の機種に入る」(同)という。
さらに、DCMX mini用のアプリについても、今後発売の端末では標準搭載していく方針で、ユーザーはダウンロードの手間も必要なく、アプリからすぐにminiの契約を行え、月々1万円までのクレジットサービスを利用できるようになる。アプリ上でminiからDCMXへのサービス変更も簡単に行える。
日銀が発表した3月の資金供給残高(マネタリーベース)によれば、1971年1月の公表開始以来初めて、硬貨の流通量が前年同月比でマイナスとなった。おサイフケータイを始めとした電子マネーが普及して少額決済に使われるようになったことも背景にあると見られており、こうした少額決済市場は約57兆円の市場規模に上るとドコモでは試算している。
これに対しクレジットカード市場は、ドコモによれば毎年2兆円以上の割合で利用が伸び続け、2005年には年間で29兆円を超える市場規模となっているが、その国の個人消費の指標となる民間最終消費支出から、クレジットカードでは購入できない住宅や車などを除いた金額と比べるとわずか9%の利用率に過ぎない。米国ではこれが24%で72兆円規模に達しており、仮に日本のクレジットカード利用率が米国規模にまで増えたとすると、日本でも72兆円規模の市場にふくれあがるという。
夏野氏は、少額決済市場がクレジットカードの「手がついていない市場」であり、JR東日本のSuicaやビットワレットのEdyといった電子マネーが進出しているものの「まだ取り切れていない」ことから、クレジットカードでの少額決済がさらに成長する余地が十分にあると見ている。
ドコモはオープンなプラットフォームとしてiDを提供しており、クレジットカード会社は自由に参入できるが、「少額決済市場にクレジットカードと携帯を組み合わせて本気でやろうとするところ(クレジットカード会社)がいない」(夏野氏)ため、ドコモは自らクレジットカードブランドを立ち上げ、市場に参入することにした。
iDは「VISA」や「MasterCard」といったクレジットカードのブランドと同じ位置づけだ。iDが利用できる店舗であれば、クレジットカード会社を問わずに利用が可能。ドコモは提携や出資を繰り返しており、現時点で三井住友カード、ユーシーカード、クレディセゾン、イオンクレジットカードサービスが発行業務を担当、ローソンやファミリーマート、イオン、日本コカ・コーラなどが店舗や自動販売機などで利用を可能にしていく。今後約32万台のiD利用可能端末(店舗のレジ、自販機など)が設置予定で、今年中には約10万台が設置される見込みだ。
「iモードの普及(1年半で対応端末1,000万台突破)を若干上回る」(同)おサイフケータイの普及と市場の成長、そして利用可能端末の拡大と「(少額決済市場におけるクレジットカード利用拡大の)下地が整ってきた」と夏野氏は現状を分析。さらにDCMXが通信と金融が融合したサービスであり、まったく新しい視点を持ち込んだサービスだと指摘する。
DCMXは、ドコモの社名と(DoCoMo)と「未知数」を意味する「X」を組み合わせたブランド名で、アートディレクターの水野学氏が考案した。ドコモは水野氏に対し、ブランディング戦略全体の統括を依頼し、水野氏は欧州の古くからある金融機関をイメージするなどしたロゴやロゴマークもデザインした。
「あまりクレジットカードはオシャレになっていない」(同)ため、カードや請求書のデザインにもこだわったほか、店舗に設置するリーダー/ライターのデザインを工業デザイナーの山中俊治氏に、リーダー/ライター利用時のサウンドを作曲家の小久保隆氏に、広告デザインをクリエーティブ・ディレクターの友原琢也氏とコピーライターの太田恵美氏にそれぞれ依頼。さらに新宿にDCMXやドコモ端末を紹介するショップ「DCMX SITE」を5月末に、表参道にDCMXのコンセプトを伝えるオープンカフェ「DCMX cafe」を28日にそれぞれオープンさせ、こちらもデザイナーの文田昭仁氏に依頼するという力の入れようで、「徹底的にデザインとコンセプトにこだわった、ドコモっぽくないサービス」(同)を目指した。
もともと夏野氏は、米Microsoftビル・ゲイツ会長の著作「Road Ahead」(1996)に記されていた「Wallet PC(おサイフPC)」というコンセプトを見て「これなら勝てる。携帯電話の方が早い」と考え、97年にドコモ入社時点にはすでにおサイフケータイとクレジットカードの連携を思い描いていたという。むしろ「これがやりたくてドコモに来た」。
そのためには携帯電話がインターネットに接続する必要があったことから「iモードを始めた」(同)。その後、昨年クレジットカード大手の三井住友カードに出資したのも今回のDCMX提供を前提としていたそうだ。「(入社から)10年でできるとは思わなかった」と夏野氏は話しつつ、「長期ビジョンがないと(DCMXのサービス提供には)たどり着かない」と長年の戦略が結実した点を強調する。
DCMX全体の契約者について「3年で1000万ぐらい」(同)が目標で、夏野氏はこの時点で「大手クレジットカード会社並み」に取扱高が達するとの見込みを示している。ちなみに、夏野氏は特に社名は挙げていないが、ドコモも出資した三井住友カードは、2004年度の取扱高が3兆5987億円に上っている。
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