「もし、私がApple社長になっていたら?」マイクロソフト古川氏がMacを語る

    大川淳  [2004/06/19]

    マイクロソフトは、Macintosh版Officeの最新版「Microsoft Office 2004 for Mac」シリーズの発売を記念して、販売開始当日の6月18日、アップルストア銀座で発売記念イベントを開催した。同社の古川享執行役最高技術責任者兼米マイクロソフト副社長が「マッキントッシュとマッキントッシュ プラットフォーム向けソフト開発に関する20年を振り返る」と題し講演、「アップルコンピュータとマイクロソフトはよきパートナーとして発展してきた」と語るとともに、アップル(日本法人)の社長就任寸前までいったことがある、との秘話を明かした。

    マイクロソフト 執行役最高技術責任者 古川享氏

    Office 2004 for Mac

    マイクロソフトとアップルの関係は、Macが登場した1984年以前にさかのぼるという。「マイクロソフトは、MultiplanとMS ChartをMacのデビューに合わせて稼動させようとしており、開発部門に1台のMacが持ち込まれていた。開発チームの部屋には鍵がかけられていたのだが、夜中、西和彦氏(アスキー創業者)といっしょにこっそり鍵を開けた。初めてMacをみたのはこのときだった。基盤がむき出しで、マウスがつながっていたが、鳥肌が立つほど感動した」。このように、マイクロソフトはMac試作機を預かって、最初の製品からつきあいがあった。

    古川氏は、日本のMacユーザーの草分けだ。「Macが発売された日、サンフランシスコですぐに買って、東京に持って帰った。当時は雑誌編集をしていたので、記事にしようと考えていた。そのころの状況を考えると、アップル日本法人にさえ1台届いていたかどうか。私は、日本で最初のMac個人ユーザーとして、5人の中に入っているのでは。これがMy First Macで、いまも笹塚のオフィスの部屋においてある」

    先日、古川氏はある記者に「アップルストアに講演にいく」と話したところ「敵陣に乗り込むのか」といわれた。だが古川氏は、それは誤解だと述べる。「アップルとマイクロソフトは互いに刺激しあってきた。反目しあってきたわけではない。OS、アプリケーションのレベルで、切磋琢磨してきた。Excelを投入したときも、(PC版の)Multiplanとは違うものを創ろうと考えた」。

    当時のMultiplanには、日本市場向け製品にだけ罫線機能があった。米国では縦横の罫線を引く慣習がなかったからだ。しかし、この日本版特有の機能は、米国版Excelにも埋め込まれるようになる。それがMacで稼動した。古川氏は「日本の文化がExcelとMacを介して米国の文化にも影響を与えた」と語る。

    実は、古川氏にはアップルコンピュータ日本法人の社長になれるかもしれないチャンスがあった。86年にマイクロソフト(日本法人)の社長になる寸前、ビル・ゲイツ氏と大喧嘩して「お前なんか嫌いだ」といわれ、2年間シアトルに行くことも許されなかったという。その間、古川氏はUNIXの研究をしたり、ワープロソフトに取り組んだりしていた。すると、アップルから社長にならないかとの話がもちかけられ、当時のジョン・スカリー会長の面接を受けた。そこで古川氏は「クリーム色のMacをアップルから、銀色のMacをソニーから出したい。それをやらせてくれるなら、社長になる」と発言した。スカリー会長からは「お前には、Macを売らせてやるだけだ」といわれ、この話は流れたという。だが「私がアップルの社長になっていたら、後のWindowsのシェアはいまのようになっていなかっただろう」と笑う。

    古川氏は「Macのカルチャーを支持してきた」と強調する。「Macに対して負けたくない、もっと良いものを創ろうとの、健全な競争心もあった。あるときはMacに学び、ユーザーのために良い環境をつくってきた」のであり、敵対心はない。このごろユビキタス社会のことが語られることが多いが「デジタル家電ができればパソコンやWindowsはいらなくなるというようなことではない。互いに異なったもの同士がネットワークでつながり、それらが相互作用しあうのがユビキタス社会だ。これを共働、共生、ともに働き、ともに生きるということだと表現している」

    最後に古川氏は「アップルやMacとも共働、共生してきた。Macユーザーの方も、これからいっしょにみこしを担いでいこう」と結んだ。

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