米Microsoftの知的財産戦略が変化してきている。今まで、特許や著作権、商標、企業秘密などを適宜活用してきたが、企業間で協調して知財を利用する方が得策と判断、クロスライセンスを中心とした知財戦略へと方向転換している。
「Microsoftは、常に知財を重視している」。こう語るのは、来日した米Microsoft知的財産担当コーポレートバイスプレジデント兼副顧問弁護士のMarchall Phelps氏。Phelps氏は、28年間にわたりIBMで知財関連を担当、2003年5月から現職に就いた。2つの巨大IT企業の知財戦略をよく知る人物で、今回、日本企業との協力関係を強化するために来日、1週間の日程で話し合いを行ったそうだ。
Phelps氏は、Microsoftを「知財をベースにしてできた会社」と評する。しかし90年代半ばまで、同社は特許を所有していなかった。それが現在、3,500件の特許を保有、7,000件近い特許を申請中であり、さらに今後3,000の特許を申請していく予定だという(いずれも米国)。この数についてPhelps氏は、「日本の大手IT企業に比べるとたいしたことないが、分野が集中している(ためにこの程度の数)。この(OSなどに限定した特許取得の)流れはこのままいく」と述べる。
知財獲得のために行っている施策が、業界最大という年70億ドルにも及ぶ研究開発投資。そしてここで得られた知財について、商品への開発に生かすとともに、Cisco Systems、IBM、HP、SGI、Xerox、SAP、Siemens、富士通といった大手企業とクロスライセンス契約を締結。互いの知財を相互に利用することで、「技術の範囲を広げられ、技術革新が進み、エコシステムもうまく回る」(Phelps氏)という効果があるそうだ。「クロスライセンスは、他社とつきあう最もいい方法だ」(Phelps氏)。
そうしたMicrosoftの戦略は、昨年12月3日に発表された新しい知財ポリシーで明言されている。これは、同社の知財をいろいろな企業や学術機関などにライセンスしていき、新たな協業の展開、連携の強化などを図るものだ。フォント表示のためのClearTypeテクノロジー、ファイルシステムのFAT(File Allocation Table)、XMLスキーマといったライセンスプログラムが発表されたほか、今年2月にOEMメーカーに対して自社の技術がMicrosoft製品に存在しても訴訟を起こさない、などといったことを定めたNAP(Non-Assertion of Patents: 特許権非主張条項)を削除。これに対しては、NAPを定めた93年当時、特許を保有していなかったMicrosoftにとっては意味のある条項だった、とするが、現在では時代遅れになった、などと削除理由を語る。
クロスライセンスにすればNAPは不要、とPhelps氏は述べ、今後は積極的にクロスライセンスの締結を目指す。広い範囲でのライセンス締結を考えているということで、FATのようなプログラム的な部分のライセンスについて、今後2カ月で4~5の発表を行うそうだ。
また国内では日本法人が、(1)国内での研究開発の強化(2)すでに進めている大学と連携の拡大(3)標準化団体で主要な役割を果たすための活動(4)知財が日本の競争力にどの程度影響を与えているかの研究(5)知財に関する主要企業との意見交換--といった活動を進めている。特に(4)は、知財戦略をどのように強化していけば日本の経済が強くなるか、という研究に対する支援を行う、ということで、6月には正式発表する見込みだという。
「Microsoftは成長し、成熟した役割を果たそうとしている。今まで直面してきた(知財にかかわる)問題は、若い会社が急速に成長したからだ」。Phelps氏はそう述べ、過去のIBMも同じ問題を抱えていた、と指摘する。IBMがそうした問題に直面したとき、そして現在もMicrosoftで知財を担当するPhelps氏は、「映画の続きを見ているようだ」と表現。IBMでの経験をMicrosoftでの業務で役立てることができると話した。
知財に関するMicrosoftの戦略について、Phelps氏がそう変えたのか、という問いに対してPhelps氏は、「それは分からない。しかし、Bill Gates会長やSteve Ballmer社長が私の考えに賛同しなければMicrosoftに入社することもなく、今ここでこのような話をすることもなかった」と語り、現在の戦略がPhelps氏の考えに沿ったものであることを示唆した。
Phelps氏は、国内企業が所有する知財について高く評価するほか、日本経済の立ち直りとあわせ、今後研究開発投資が増大していく、という予測を示す。国内企業とも広くクロスライセンス契約を締結しようと話を進めているというPhelps氏は、交渉を行っている企業名や企業数については明らかにしなかったが、「(国内の)大手IT企業と言われて頭に思い浮かぶような企業と話し合いを行っている」とし、複数の著名なIT企業と契約締結に向けた交渉を行っていることを明らかにした。
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