1984年の1月22日、NFL王者を決定するスーパーボウルで、Apple ComputerはMac発売を予告するCM「1984」を放映した。キャッチコピーを巧みに使って、ジョージ・オーウエルが「1984年」で描いた全体主義的な未来像に挑戦状を叩きつけている。そのカゲには巨人IBMの姿が見え隠れしており、その過激な内容と映像が全米の話題となった。その2日後の1月24日にMacintoshは発売された。
Mac誕生が重要なのは、簡単で誰でも使えるパソコン……"The Computer for the Rest of Us"(エキスパートのためだけではないコンピュータ)の登場を意味するからだ。そのため、発売日よりも、むしろ「1984」が公開された22日をMacのデビューと捉えている人が多く、この日、Apple本社があるベイエリアではMac誕生20周年を記念をするユーザーイベントが数多く開催された。
シリコンバレーにあるコンピュータ歴史博物館では、「Macintoshマーケティングストーリー:20年後に明かす真実とウソ」と題し、Macチームのマーケティングに関わったメンバーによるパネル討論会が開催された。参加したのはMike Murray氏、Mike Boich氏、Andy Cunningham氏、Joanna Hoffman氏、Guy Kawasaki氏、Steve Scheier氏の6人。
まず最初に1983年にハワイで開催したセールス会議におけるSteve Jobs氏の講演の録画ビデオが放映された。このときに初めてセールス陣に対して「1984」を披露。セールス会議の会場は大変な盛り上がりで、その反響に興奮し、Macの成功を確信したように親指を立てて応えるJobs氏が記録されている。
当時のMacチームのマーケティング担当者にとって、IBMというブランドネームの壁は予想以上に高かった。MacintoshとIBM-PCを並べて一般ユーザーテストを行った際、「どちらが使いやすいですか?」、「どちらがオフィスでの仕事を効率的にこなせると思いますか?」、「友達や家族にはどちらを勧めますか?」という質問にはほぼ全員が「Mac」に票を入れた。「パーティションの裏ではマーケティング担当や営業マンがガッツポーズをしていた」とMike Murray氏。ところが、その喜びも束の間、最後の「あなたはどちらを買いますか?」という質問には、ほとんどが「IBM」の名前を挙げた。当時、コンピュータは高価だっただけに、新興企業に対する消費者の不安感は簡単に払拭できるものではなかった。
この逆境を、逆にMacの追い風にしようとしたのが「1984」である。CMはAppleのアイディアではなく、同社が契約していた広告代理店Chiant/Datが企業広告のキャッチコピーとして企画したものだった。これを発展させたアイディアをJobs氏とマーケティングチームの全員が気に入り、9,600万人が観るスーパーボウルをターゲットにした広告にすることに決定。「ブレードランナー」で知られるRidley Scott監督を起用して製作された。
完成後、Jobs氏たちは取締役会に臨み、自信を持って「1984」を発表した。一部では机を叩いて絶賛する声もあったが、全体的にはきわめて不評。「本当にこれを放映する許可を、私たちからもらいたいのか?」と凄まれてからは、部屋中が重い空気に……。四苦八苦しながら説明し、なんとか放映許可を取り付けた。結果次第では、関係者全員の辞職を覚悟していたという。
幸いにも、CMに対する反響はすさまじいものだった。"スーパーボウルでしか放映しない"と決めていたが、あまりにも話題になりすぎて、翌日に三大ネットワーク局のニュースで取り上げられ、その中で"ニュース"として再放送されるというおまけもついた。そして数週間後、「今度はビクビクしながら取締役会に向かったが、ドアを開けた瞬間に大きな拍手で迎えられた」(Murray氏)。
Murray氏によると、発売直前、Macintoshを満載したトラックが警察に停車させられたことがあるそうだ。発売前だったので、「積荷はコンピュータです」としか答えられない。だが、荷台を一瞥した警察官が一言、「IBMをやっつけてやれ!!」と言って送り出してくれたという。
客席には、当時Macチームに参加していた人たちが20人以上集まっていた。パネルディスカッションの最後では、彼らも参加して、「教育市場でIBMを迎え撃ったときの苦労話」、「ローリングストーンズのミック・ジャガーの自宅にミック・バージョンを届けたときの裏話」などが次々と披露され、予定の2時間はアッという間に過ぎ去ってしまった。
20周年というと、Appleは1997年に設立20周年を記念したアニバーサリーモデルを発売している。パソコンに、テレビ/FMラジオチューナー、CDプレーヤーと音質のいいスピーカー、通信機能が凝縮されており、今にして思えば情報家電という今日のスタイルを先取りしたようなモデルだった。
今回は、これまでのところ記念モデルの発表もないし、22日にはApple主催による記念イベントも開催されなかった。ただし、1月に行われたMacworld San Francisco 2004では、Steve Jobs氏がMac20周年に当たる今年は「A Great Mac Year」になると宣言。Macプラットフォームにとって大きな成長の年になることは間違いない。
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