キーワードから連想によってアイデアが生まれてくる。脳にしかできなかったことを、Googleエンジンを使って行う環境ソフトMemorium。いまや一大ジャンルとなり始めたMemoriumを使ってみた。
○神秘なるMemorium
Memoriumはいくつか用意しておいたキーワードから連想によってアイデアが生まれてくる、という脳内の神秘的な動きを、人間の脳を煩わせることなく、画面の中でビジュアルに見せてくれるソフトウェアである。
インタフェース研究の第一人者として知られる慶応大学の安村通晃教授の研究室に所属する渡邊恵太氏がMemoriumを発表したのは、2002年の秋から冬にかけてであった。
「Memorium:眺めるインタフェースの提案とその試作」と題された論文とデモプログラムは、ヒューマンインタフェースシンポジウム2002、第10回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2002)で発表された。
渡邊氏のページを見ると、
これまで「見る」「覗き込む」といったツール的な情報提示をするコンピュータがほとんどであったが、本研究では「眺める」という知覚のあり方をコンセプトのインタフェースデザインの提案を行った。また、それに基づきメモの再活用としてメモを眺めて利用する環境、Memoriumを実装した
と、Memoriumのコンセプトが語られている。
コンピュータがあふれるように身の回りに存在するようになり、ノートや本はもとより、アルバム、ビデオデッキ、音楽プレイヤーなどを兼ね備えた、新しいメディアとして定着しつつあるのが昨今のコンピュータを取り巻く状況である。
○メディアとしてのコンピュータのもっと先に進む
いまこの記事はホテルで書いているのだが、書いている途中でしばしば、録画しておいたビデオを見て、メモと日記をつけ、写真の整理をしてからもういちど書き出す、というような使い方をしているのであった。
その豊富なコンピュータパワーを、ユーザーが能動的に使うには限界がある。人は常時オンの状態でいるわけではないから、PCを四六時中使い続けることはできないし、人間には限界があって、新しいインプットがないとアウトプットも枯渇してくるのだ。
人には新しい刺激が必要だ。たとえば、いつも見ているホームページはある程度限られてしまうだろうし、かなり能動的にならないと新しいページを探し出すようなエネルギーは持続しない。
一見すると無駄にコンピュータが動いている「ユーザーが能動的に使っていないとき」に、「受動的にコンピュータを活用しよう」という考えが、いわばMemoriumの核にはある。
「分類しない」「ぼんやりと眺める」というのがMemoriumの特徴だが、人の脳のなかでも、ぼんやりと頭を使っているときというのは、こういう風にいろいろなものごとが浮かんでは消え、消えてはまた浮かんで、関連する物事が結びついて新しい物事に発展していくものだ。
ジョン・エルスナー、ロジャー・カーディナル編/高山宏、富山美子、浜口稔訳の『蒐集』(研究社)には、ロンドンの蒐集家ロバート・オウピーの話が出てくる。ロバート・オウピーは、蒐集にあたってカタログはつくらない、という。
「すべてをそれ自身が目録であるかのように保管する、それがわたしの基本方針なんです。そんなわけで、山のように一千箱あるとしても、ひとつひとつにラベルが付いているので、中身が何かわかるし、会社名や銘柄のことがなかに書いてあったりしますから、ある意味でこれが目録になっているんです。箱がどこにあるかわかっている限りは、目録なんて必要ありません」(ジョン・エルスナー、ロジャー・カーディナル編/高山宏、富山美子、浜口稔訳 1998年 『蒐集』 研究社)。
Memoriumでは、カードがあれば中身は直接触れ、カードは自動的に表示されるのでどこに保管されているかなどという瑣末なことに煩わされる必要がない。
MemoriumのバックではGoogleが動いている。つまり、世界中の知識を自分の脳、すなわち自分のコンピュータのなかに自動的に取り込んでくれるのだ。
単に、ぼんやり眺めるだけなら、従来からスクリーンセーバーがあるが、スクリーンセーバーはそこからはなにかを新たには生み出さない。完全に受動的になってしまって、能動的になりにくい。Memoriumでは、自動で新しいページを提示してくれ、気になったところにはアクセスできるところがぜんぜん違う。
「人が物や書物を収集するのは、心理学的には幼児退行的な行為であるが、全世界を一つところに集め分類することは世界を知ることでもある」(『一つ目小僧と瓢箪 性と犠牲のフォークロア』 2001年 新曜社 p.470)
と民俗学者の飯島吉晴氏は述べているが、Memoriumのもたらす万能感はこのあたりに根があるのかもしれない。
あるいはまた、「つれづれなるままに、日ぐらし硯に向ひて、心に移り行くよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、怪しうこそ物狂ほしけれ」という吉田兼好の『徒然草』の「心に移り行くよしなしごと」をそこはかとなく見ているような気がする。
さらにはまた、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくにごとし」という鴨長明の『方丈記』の「うたかたが消え、結び」ていくのを見ているような感じでもある。
(美崎薫)
【レビュー】21世紀的徒然草ソフト「Memorium」(2) Memoriumを使い始める
に続きます。
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