【MPF 2003 レポート】Efficeon、その全貌に迫る(1) - 単なる低消費電力機構ではない「LongRun2」

さて、コチラ(【MPF 2003 レポート】詳細が明らかになったEfficeon - 省電力面で本領を発揮)でも触れた通り、TransmetaはEfficeon TM8000の詳細をMPFで発表したわけだが、事前に配布されたテキストでは"Power Management: LongRun2 - Special Announcement to be made only Microprocessor Forum"と書かれているだけで、まったくその詳細が明らかにされていなかった。このLongRun2について、当日の講演の他に午後から開催された発表会と、更に翌日、TransmetaでDitzel氏に話を聞くことができたので、その内容をまとめてご報告したい(Photo01,02)

Photo01:Santa ClaraにあるTransmeta本社。実はこの2560の他、3990というビルにもTransmetaが入っており、最初間違えて3990の方に行ってしまった
Photo02:右手にEfficeonチップ、左手にCrusoeノート(筆者のLoox S80C)を持ってご満悦のDitzel氏

○LongRun2

まず、最初にLongRun2の導入の動機をご説明したい。ご存知の通り、プロセスルールの縮小に伴い、Leakage(漏れ電流)という新たな問題が発生しつつある。これは、例えば厚手の陶器の茶碗なら、中にお湯を入れても熱くはない。が、厚さをどんどん薄くしてゆくと熱が次第に漏れ出してしまい、しまいには手で持てなくなってしまうという様なものだ。

180nmプロセスあたりまではこの漏れ電流、殆ど問題にならなかった。つまりまだ十分厚かったという話なのだが、なにせプロセスルールの倍のスピードでトランジスタの小型化が行われている状態だから、130nmプロセスで問題になり始め、90nmプロセスでは大きな問題になってしまった。Intelが90nm世代のPrescott/Dothanを遅らせたのは、歩留まりの問題ではなく、この漏れ電流に伴う消費電力の大きさがネックになっていると言われており、Intelにとどまらず多くのファウンダリで様々な漏れ電流削減のための試みがなされている。

Photo03:2000年の頃もSubthreshhold leakageはあったわけだが、この頃はトランジスタ自体の駆動電圧や消費電力もかなり大きかったので、あまり問題になっていなかっただけである。
Photo04:とにかく消費電力を減らさないと、コア温度が原子炉並だの太陽表面だのという論外な状態になってしまう。大体、コンシューマ向けのCPUの消費電力が100Wという時点で、もうかなり問題な気がする

さて、この漏れ電流だが、トランジスタには様々な漏れ電流がありえる。Photo03はこれをまとめたものだが、現在問題になっているのはSubthreshold leakageと呼ばれる、ゲート酸化膜の下を電流が勝手に流れてしまう問題だ。ところが今後はゲート酸化膜自体からの漏れ電流(Gate leakage)や、ソース/ドレインからの漏れ電流(Junction leakage)も問題になってくる筈だ。実はこの漏れ電流が、ムーアの法則などに代表される今後のプロセス技術の進化の大きな妨げになる、という話はIntel自身も認めているほどで、これに向けた取り組みがいろいろなされているわけだが、短期的に90nm世代あたりから、これに対して真剣に取り組む必要が出てきた(Photo04)。

Leakage以外にも問題は出てきている。それが、スレッショルド電圧の揺らぎである(Photo05)。トランジスタに電圧を掛けてゆくと、ある電圧を超えるまでは全く電流が流れないが、これを超えると突然に流れ出す性質をもつ。この「ある電圧」をスレッショルド電圧と表現するわけだが、トランジスタの駆動電圧自体が高いときにはこの電圧が多少揺らいでも問題はなかった。ところが駆動電圧が低くなるに伴い、この電圧の揺らぎが非常に大きくなってきている。特にその揺らぎは、プロセスの微細化に伴って次第に大きくなる傾向にある。Photo05の右図がそうだが、例えば2002年の時点なら10%とかいうレベルで済んでいるが、どんどん揺らぎが大きくなり、2010年には50%近い所に達していることが判る。これを小さくしないことには、リーク電流は無駄に大きくなり、歩留まりは悪くなる一方である。たまたまであるが、2日目に基調講演を行ったAMDのFred Weber氏も同じ事に言及していた(Photo06)

Photo05:電圧は下がる一方だが、スレッショルド電圧の揺らぎはどんどん大きくなっており、揺らぎ幅が殆ど供給電圧一杯にまで広がってゆく事がわかる
Photo06:製造されたシリコンを集めて、動作電流と動作速度の関係をプロットしたもの。スレッショルドの揺らぎに起因して、漏れ電流の大きさがかなりばらつくため、歩留まりに大きな影響を与えている事が判る

というわけで、逆にいえばスレッショルド電圧の揺らぎを減らすことで、かなりリーク電流を減らせる可能性があるわけだ。LongRun2は、このスレッショルド電圧の制御を行うメカニズムである(Photo07)。具体的にどう制御するかというと、VIA C5Iの記事(【MPF 2003 レポート】Banias Busのサポートも追加されたVIA C5I )の最後に書いた「Probeを追加する」という技法に近いらしい(「さらにもう一工夫ある」とDitzel氏は言っていたが、それが何かは教えてもらえなかった)。

一般にスレッショルド電圧を上げると漏れ電流は減るが動作速度は遅くなり、逆にスレッショルド電圧を下げると速度は上がるが漏れ電流は増える。そこでLongRun2では、高速動作時にはスレッショルド電圧を下げ、一方低速動作時にはスレッショルド電圧を上げることでこれに対処している。その「上げ」とか「下げ」というのも、周波数テーブルにあわせて電圧を変えるという単純なものではなく、正フィードバックを掛けて最適な電圧になるよう、ダイナミックにコントロールするそうだ。

これにより、(これもVIA C5Iの記事で触れたが)スタンバイ状態における消費電力を144mW→2mWと、実に70分の1にすることが可能になったというのがLongRun2のウリである(Photo08)。しかしながら、そうなると「スタンバイ中はともかく、動作時の消費電力削減にならないのでは?」という疑問が沸くわけだが、これを聞いてみたところ「そもそもLongRun2は単にリーク電流を減らすだけではなく、製品のばらつきを減らす事にものすごく効果がある」という返事が返ってきた。もう一度Photo06をごらんいただきたいのだが、例えばここの例だと周波数で1.0~1.5GHz、動作電流は1.5A~10Aまでと、非常に幅広い。設計をするとき、最良値は1.3GHz/2A程度を想定できるが、最悪値は1.5GHz/10Aとなる。このばらつきの理由の1つがスレッショルド電圧である事は先ほども述べた通りだが、LongRun2を使う事で、例えば1.3GHz動作の電圧を2A~3Aの範囲は無理にせよ、2A~5A位のレンジまで狭める事が可能になった、という事が大きいのだという。「Best CaseとWorst Caseの差を、LongRun2を使う事でぐんと縮める事が出来た。これはスピードの向上にもなるし、Yieldの向上にもつながる」のだそうだ。

そんなに優れたLongRun2をなぜ当初の製品では搭載しないかというと、「実はまだテストが終わっていないんだ」という答えが。LongRun2の回路自体は既にもう搭載しているが、LongRun2を使うためには「ほんのちょっとだけ」プロセスコントロールの変更が必要なのだという。ちなみにプロセス技術自体は全く同じなのだそうで。そういう訳で、当初の製品は(回路こそ搭載しているものの)まだLongRun2を使えない状態で、これが利用できるのは今後の製品からという事になるそうだ。

Photo07:LongRun2の簡単なまとめ。ここでは漏れ電流の削減にテーマが絞られている
Photo08:ただし、当初のEfficeonプロセッサにはLongRun2が搭載されない。理由は後述

ちなみにLongRun2は、プロセス技術と回路技術、ソフトウェアの3つが揃って初めて実現できたそうである。ソフトウェアというのは、このLongRun2のコントロールはCMS側で行っているからだそうで、詳細は教えてもらえなかったが、ヒントの1つとしてコア内部の温度センサーを利用して、温度による補正も掛けているそうである。もう1つ気になるのは、このLongRun2が特定のファウンダリに依存するものかだ。なにせ当初はTSMCの130nmプロセスを使うが、その後は富士通の90nmに移行する事がアナウンスされているからだ。これについては「多分殆どのファウンダリで問題なく製造できると思う。勿論様々なノウハウは必要とするが、特定のファウンダリに依存した方法ではないからだ」という返事が返ってきた。

○90nmプロセスの製造に富士通が選定された訳

さて、90nmプロセスの話である。Efficeonの話題の1つは、富士通の90nmプロセスを使う事だ。こちら(Transmeta、90nm Efficeonのファウンダリパートナーに富士通を選択)で報じられた通り、同社のあきる野技術センターで量産を開始する。案外知られていない話ではあるが、あきる野技術センターのプロセス技術は世界でも有数の技術力を誇っている。が、その一方で大規模な量産経験はない(主な量産製品は同社のSPARC64シリーズのみ)という不安要素もある。

これについて聞いたところ、「我々は世界中の全てのファウンダリを検討してみた。この結果、90nmをもっともすばやく立ち上げられ、かつ高速なトランジスタを提供できるのは富士通だという結論に達した」との事。勿論、IBMの90nmプロセスやTSCM/UMCの110nmプロセスも検討したそうで、「ただ誤解のないように言っておけば、別にEfficeonは全量、富士通で作るというわけではない。今後のビジネスの展開によって需要が増えて、富士通だけでは生産しきれない様なら別のファウンダリでも生産する可能性はある」と含みを持たせた返答が返ってきた。

量産に関しても「SPARC64 V/VIに比べれば、我々のプロセッサはかなり小さいから、SPARC64が量産できるなら大丈夫」だそうである(ちなみにSPARC64 VIは今回のMPFで発表されたものだが、90nmプロセスを使ってのダイサイズは388平方mmに及ぶ)。なお、あきる野技術センターのCS100Aのスケジュールによれば、マスクデータの受付はすでに始まっているが、量産は2004年第3四半期からとなっている。おそらくこのタイミングでEfficeonの量産も始まるだろうが、いくらなんでもいきなり量産はありえないから第3四半期はせいぜいサンプリングで、量産品が出てくるのは2004年第4四半期の、それも遅めの時期だろう。来年の冬モデルにぎりぎり間に合うか、といった所ではないかと思われる。

なお、前回の記事(【MPF 2003 レポート】詳細が明らかになったEfficeon - 省電力面で本領を発揮 )のPhoto15の製造を行うファウンダリはどこか、については「いろいろ検討中」という事で一切教えてもらえなかった。

(大原雄介)

【MPF 2003 レポート】Efficeon、その全貌に迫る(2) - I/Oも高速化されたCMS
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/10/20/17.html
に続きます。

【MPF 2003 レポート】詳細が明らかになったEfficeon - 省電力面で本領を発揮
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/10/16/19.html

Transmeta
http://www.transmeta.com/

MicroProcessor Forum
http://www.mdronline.com/mpf/



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