【IDF Fall 2003レポート】明暗を分けた"Prescott"と"Dothan"

既に山下氏のレポート(デジタルホーム基調講演、ゲーマー向けP4 Extreme Edition発表 及び モバイル基調講演 - ディスプレイの消費電力を抑える「855GME」登場 )にもあるとおり、IntelはPrescottの投入を延期し、代わりにXeon MPと同じく2MBのL3キャッシュを搭載した「Intel Pentium 4 Extreme Edition」を投入する。その一方、モバイルに関してはDothanプロセッサのデモが行われており、発売は第4四半期から開始されることが明らかにされている。なぜこんなにも異なる状況になったのだろうか?

(Photo01)Pentium 4 Extreme Editionロゴ。これが登場したのはLouis Burns氏の基調講演なのだが、後でIntelから入手した基調講演のpdfファイルからは、このロゴが消えている。なぜ?
どうもPrescottに関しては、緘口令が敷かれているがごとく口が堅く、何人かの担当者に聞いても要領を得ない。ただ、少なくとも今年いっぱいは発売されず、下手をすると来年の春モデルにも間に合わない可能性が出てきている様だ。やはり問題はリーク電流に起因する消費電力とTDPの大きさの様で、既にIntelは90nmプロセスの改良を始めていた筈だが、それが間に合わなかった、ということだろう。

90nmプロセスのTDPが予想以上に大きいことが騒ぎになり始めたのは今年6月過ぎの事で、この時点でIntelはプロセスの改良を始めていると(非公式ながら)伝えていたわけだが、130nmプロセスですらウェハ投入から出力まで1カ月以上(2カ月近いらしい)掛かる状況だから、90nmプロセスだとさらに長いことが予想される。おそらくは2カ月を超えて3カ月に近いところだろうか? つまり仮に6月から改良を始めたとして、その結果が見えるのは9月頭ということになる。もちろん3カ月を無為に待っている訳ではなく、さまざまなパターンのダイをどんどん投入してゆくことで、さまざまな改良を施してゆくわけだが、この時期での突然の変更は、こうした工夫が無駄に終わったことを暗に示しているのではないだろうか。

直前の話では、Prescottの3.2GHzは既存のFMB1で動くほか、2.8/3GHzのPrescottをそれぞれ(FMB1マザーボード向けに)投入し、一方3.4GHz以上はFMB1.5対応のマザーボードで動かすという事になっていた筈だが、その話もご破算になった様に見える。つまり、FMB1.5でも収まりがつかないほどに消費電力が増えてしまった可能性がある。このあたり、真相は完全に藪の中(口の噤み具合を見ると、よほどとんでもない事らしい)になっているが。

実はこれ、今年のProduct Showcaseでも見受けられた。通常、Product Showcaseでは未発表の新製品が平気でデモ用機材として使われている。例えば今年の場合、Lindenhurstチップセット(Intel Xeon DP用の、DDR-IIとPCI Expressをサポートしたチップセット)搭載マザーはいたるところで見かけたのだが、Grantsdale(Prescott用のDDR-IIとPCI Expressをサポートしたチップセット)搭載マザーは、ついに1枚も見かけることがなかった。このこと自体、Prescottの方向性に深刻な影響が出ていることを暗に示しているともいえる。

さて、そうなるとIntelとして困るのがAthlon 64対応ということになる。既存のPentium 4 3.2GHzはAthlon XPに対しては優位を保てる様だが、今後登場するAthlon 64に対して優位を保つのが困難なのは容易に想像がつく。しかもこのところ、AMDの130nm SOIプロセスはきわめて好調である。Speed Yieldがかなり改善されたという話は過去の記事にも書いたが、従って少しでもギャップを埋めておかないと、過去の二の舞になってしまうという事になる。今回のPentium 4 Extreme Editionの投入は、まさしくこのためにあると言って良い。

Intelは先日、3.06GHz/1MB L3キャッシュのXeon DPを投入しており、またXeon MPは2.8GHz/2MB L3キャッシュの製品が出荷されているが、このXeon MPのコアをそのまま転用したのがExtreme Editionという事になるようだ。ただコア自体は既存のNorthwoodと変わらず、単にL3キャッシュを増量しただけだから、メモリアクセスの多いアプリケーション、あるいはHyper-Threadingが効果的に動作するアプリケーションでは性能が向上しそうだが、それ以外のケースではあまり性能に影響はないだろう。これでどこまでAthlon 64と対決できるかはちょっと微妙なところだが、「何もしないよりもマシ」といったところだろう。

ただこれでもっと気になるのは「次はどうするか」である。つまりAthlon 64が順調に性能を上げていった場合、Pentium 4 Extreme Editionでは性能的に追従できない恐れが強い。既存のNorthwoodコアは3.2GHzが動作の上限とされているから、Extreme Editionに関してもこれ以上の高クロック化は難しいと思われる。可能性としてあるのは、(1)来年第1四半期に投入予定の、4MB L3キャッシュ搭載Xeon MPのコアを流用した3.2GHz駆動の製品を投入する、(2)無理やり3.4GHz動作のNorthwoodを投入する、(3)何もしないで指をくわえて見ている--のいずれかということになる。

大体四半期毎に新製品の投入を予定するIntelの慣習からすると、一番ありそうなのは4MB L3キャッシュを搭載した製品を"Extreme Edition 2"とか言って投入することだが、1MB L3キャッシュ搭載のXeon DPですら1億トランジスタを超えている訳で、ここに4MBも突っ込んだら総トランジスタ数は2億5千万を超えてしまう。となるとダイ面積の大きさが問題になってくる訳だが、加えて、消費電力の問題も出てくる。こちらでもちょっと触れた通り、Pentium 4 3.20GHz Extreme EditionのTDPは93.9W。ただのPentium 4 3.20GHzのTDPは82Wだから、つまり2MBのL3キャッシュのお陰でTDPが12Wも上がってしまった計算だ。すでにPrescott FMB1のスペック(最大93W)をオーバーしているというのに、この先更に12WもTDPが増えたら、どう考えても現行のマザーボードでは動くとは思えない。ということで、実際にはこの可能性もなさそうだ。

(Photo02)Banias(左)とDothan(右)の動作デモ。複数のアプリケーションを順次実行させ、処理時間の差を見せるもの。体感ではDothanが1割以上(2割弱程度?)高速だった
さて、では同じプロセスを使ったDothanがなぜ問題なく出荷できたか? こちらについても関係者の口は堅いのだが、生産が順調ということもあってか、幾分口が緩かった(笑)。

最大の理由は、「Aggressive Clock Gating」にあるらしい。つまり不要ブロックを徹底的にとめる(単にクロック供給をとめるだけではなく、電源供給自体もとめる)から、リーク電流に伴う消費電力の増加が問題にならなかった、という事の様だ。動作中の消費電力は、コアのシュリンクに伴ってむしろ低下しているから、トータルとして性能を上げてもさして消費電力は増えないということらしい。実際、BaniasとDothanを比較した場合、TDPに関してはまったく同じ、Average Powerに関してはむしろDothanの方がやや下回っている、というあたりがこれを裏付けている。

ちなみに性能に関してDothanがBaniasを凌駕している点として、(1)大容量L2キャッシュ(1MB→2MB):メモリアクセスの頻度が減り、キャッシュミスに起因する性能低下が減少した、(2)データプリフェッチの改良:さらに効率的にデータプリフェッチが出来るようになった、(3)レジスタ利用方式の改良:レジスタリネーミングの方式を改良し、複数のデータサイズが混在する環境でのレジスタの利用率が改善された--の3つが挙げられている。CPUのパイプライン構造そのものは大きく変わっていない様だが、基調講演のデモでは処理速度の大幅な向上を紹介しており、もう少し詳細が知りたいところだ。ただ残念ながら、今年のMicroProcessor Forumでは特に講演の予定はないそうで、その機会を得ることはできないようだ。

(大原雄介)

IDF Fall 2003レポート
http://pcweb.mycom.co.jp/news/special/2003/09/17/01.html

Intel Developer Forum
http://www.intel.com/idf/us/fall2003/



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