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| 大阪大学大学院情報科学研究科 塚本昌彦助教授 |
ウェアラブルコンピューティングの研究者として知られる塚本氏だが、ウェアラブル技術の有力な応用分野として、エンタテインメントソフトに注目しているという。この日は情報科学の観点から、現在あるいは近い将来ゲームソフトの上で実現できることは何か、逆に当面実現できそうにないことは何かについて考察が行われた。
○人工知能的なアプローチは難しい
セッションの前半では、現在のコンピューター技術で実現することが難しいと考えられる要素が取り上げられた。塚本氏は冒頭で、「キャラクターの知的な行動」「自然言語処理」「ユーザーの自由な行動」「リアルで美しいグラフィックス」「ネットワーク上での人とのコミュニケーション」「いつでもどこでも遊べる」など、制作者がゲームの大枠をデザインする際に盛り込もうとする技術的な項目を列挙した。これらのうち前半に挙げられた項目、一言で言うなれば「人工知能」に関連する技術については、最新のコンピューター科学をもってしても実現が難しいという。
塚本氏は人工知能研究の歴史を振り返り、人工知能には数十年間の研究の歴史があるにもかかわらず、まだ一般の人々が求めるレベルには至っていないとする。その例のひとつとして、「マシンは、あらゆる可能性を記述しないと予期せぬ出来事には対応できないが、そうすると考慮すべきことが無限になってしまい行動ができない」、つまり、何か行うときにどこまでその影響があるかという枠を決定できない「フレーム問題」が挙げられた。塚本氏はそのほかにも、いくつかの地点と経路が与えられたとき、全ての地点を1回ずつ通り、かつ始点と終点が一致するルートが存在するか否かを求める「ハミルトン閉路問題」の高速な解法が見つかっていないことなど、情報科学分野での有名な難題を例示し、コンピューターに知的な問題解決をさせることの難しさを説明した。
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人工知能技術を応用してゲームのキャラクターに学習や感情表現といった能力を持たせようとしても、少なくともここ1~2年の間では不可能であり、現在は演出の工夫などで「キャラクターに感情がある」などとプレイヤーに思い込ませるしかないという。音声認識や画像認識といった技術については、用途を限れば実用に耐えうるものも出てきたが、塚本氏によれば「過度の期待は禁物」という。そういった技術の開発までをゲーム製作のプロジェクトに盛り込んでしまうと、技術が完成しないためにプロジェクト全体の進行が大幅に遅れてしまう可能性があるからだ。ゲームの中で人工知能に関する技術を使いたい場合は、既に存在する技術のシーズ(種)を探してそれをプロジェクトの中に取り入れるべきで、もしシーズが見つからなければそのアイデアはあきらめたほうが良い、と塚本氏は述べる。また「学術誌には成功例がたくさん載っているが、本にはうまくいった技術しか載らないのでそれは当然。人工知能技術は10年、20年といった比較的長期のスパンで進歩していくもの」と述べ、研究動向の見極め方についても注意を促した。
○コンピューターの自然な進化形は「モバイル」「ウェアラブル」「ユビキタス」
それでは、新しいコンピューター技術によってこれまでにない楽しさを提供するには、どのようなアプローチがあるのだろうか。塚本氏は「コンピューター技術の5年先、10年先は見えないというが、そうでもないというのが私の持論」と話し、コンピューター技術は急速に進化してきたものの、あっと驚く変化を遂げたわけではなく、ハードウェアが小型軽量になり、大量の処理を高速に行えるようになったという点では、一貫してごく自然な成長の道だったと主張する。その成長の結果実現したのが「モバイル」および「マルチメディア」であり、新たな利用スタイルとして生まれてきたのが「ウェアラブル」そして「ユビキタス」であるという。
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塚本氏は「通信・コンピューター業界の多くの人は、『ユビキタス』というと情報提供サービスだと思っているようだが、今のところ本命はエンタテインメントだろう。通信回線を利用した情報提供サービスは昔から数々提案されてきたが、多くは失敗に終わった。情報提供は必要なようで、実はそんなに必要ではない」と話す。携帯電話の情報サービスも、最初はニュースやチケット予約、モバイルバンキングといった実用コンテンツを打ち出していたが「普及の起爆剤となったのは着信メロディと待ち受け画面の配信で、エンタテインメント分野の成功があったからこそ、当初考えられていたような情報提供ビジネスが可能になった」と説明する。
塚本氏がウェアラブル技術の応用法として、エンタテインメントにこだわる理由もまさに同じで、「将来はウェアラブル版の情報サービスが始まるかもしれないが、まずは面白おかしく楽しめるソフトで若者の心をつかむ必要がある」と力説する。しかも、ウェアラブルでのエンタテインメントは、家庭用ゲームのようなインドアレジャーではなく、アウトドア指向だという。例えば、周りの風景にバーチャルなペットを合成してHMDに映し出すといったソフトで、海や山が好きなペットがそこへ連れていってほしいとユーザーにせがむとか、北海道にしか生息しない種類のキャラクターがいるとか、ビデオゲームでありながら実世界を舞台にした楽しさを提供することができる。ウェアラブル機器を身につけて行う、画面に各種指示が出る「電脳鬼ごっこ」や、仮想的な宝探し、ケガの心配がないバーチャル射撃などが実現すれば、子供たちがもっと外で遊ぶようになるかもしれない。
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| この写真に合成されたギターを本物と見間違う人はいないが、ゲームであればこのレベルで問題ない |
○ウェアラブルエンタテインメントのアイデア例
セッションでは、ウェアラブル・ユビキタス技術を使ったエンタテインメントの例として、塚本氏のアイデアがいくつか披露された。
<その1>「昨日こんなことがあってね」
カメラを装着して生活し、日中の行動を映像として蓄積する。次の日、恋人や友達と話をするとき、その映像をHMDで共有しながら会話を楽しむ。「これが若者の間で流行れば、1日の映像を撮っていない人=イケてない人になる」(塚本氏)
<その2>「生活内BGM・効果音」
テレビ番組や映画では音が演出の中心的役割を果たしているのに、我々の日常生活ではほとんど音が利用されていない。プレゼンテーション中にここぞという場所で「ジャジャーン」と音を出したり、日常会話の中でクイズ番組の効果音を利用したりして、話を盛り上げる。
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<その3>「演奏ジョギング・散歩」
音楽に合わせて操作をするゲームのように、ジョギングや散歩のステップにあわせて音が出る。つらい運動も楽しくできるようになる。「これが当たり前になった時代には『昔の人はつらいジョギングによく耐えていたねぇ』と言われるようになる」(塚本氏)
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| 「常時音声解析+自動WWW検索」 |
○家庭用ゲームはなくなる?
まとめとして塚本氏は「いつもの予言」を紹介しながら、「子供たちが家にこもって、テレビの前でじっとゲームをしているという光景は、将来人類史上を振り返ったときに『不健康な世代を生み出した』という汚点になるかもしれない。逆に、アウトドアで何かを楽しむということは、人間とは何たるかの本質と合致するような気がする」と話し、「5年後には子供から大人までが電脳鬼ごっこに熱中する世の中を皆さんで作りましょう」と、聴衆のゲーム開発者たちに呼びかけた。そして最後に「家庭用ゲームは20年以内になくなる……かも?」と、物議をかもしそうな予言を付け加え、セッションを締めくくった。
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ウェアラブルの大ブレイクを約束する「いつもの予言」。聴衆の笑いを誘ってもいたが、最後の行が表示されると会場は静まり返った |
近い将来の人々がみなHMDを装着するようになるのか、そして家庭用ゲームは本当に消滅するのか、予言が当たるのか否かはわからない。しかし、エンタテインメントの分野で何かヒット作が登場すれば、ウェアラブル・ユビキタス機器の普及に大きな弾みがつくのは間違いないだろう。
携帯電話でのゲームやPDAでの映画鑑賞が可能になったいま、私たちは既にエンタテインメントコンテンツを身につけていると捉えることもでき、エンタテインメントが私たちの生活のすき間を満たすように浸透し始めている。この間まで子供たちは「ゲームは1日1時間」などと注意されていたが、みんなが電脳鬼ごっこで遊ぶようになれば、ゲームのプレイ時間という考え方そのものも変わってくるのかもしれない。
(日高彰)
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