【レポート】ケータイでも衛星通信が? - NASDAのi-Spaceワークショップ

      [2003/09/08]

    宇宙開発事業団(NASDA)は5日、東京都江東区の日本科学未来館において「i-Spaceワークショップ2003 -WINDSが拓く新たなアプリケーションの可能性-」を開催した。今回のワークショップでは、2002年度の「i-Spaceパイロット実験」の成果発表のほか、パネルディスカッションなどが行われた。

    ○i-Spaceとは?

    宇宙インフラの利用イメージ
    講演内容をレポートする前に、まず同事業団が提唱する「i-Space」について紹介したい。現在、有線(光ファイバ/電話線など)や無線(携帯電話/PHS/無線LANなど)を使ったITインフラが一般的に利用されているが、次なる一歩として考えられるのが、通信衛星を使って実現される「宇宙インフラ」。政府の「e-Japan重点計画」でも、「2005年までに超高速インターネット衛星を打ち上げて実証実験を行い、2010年を目途に実用化する」ことがあげられており、それを受け、同事業団が推進しているプロジェクトが「i-Space」となっている。

    既に、通信衛星を利用した電話や、インターネットサービスなども実用化されているが、端末の携帯性の悪さや、通信速度の遅さなどの問題が存在している。こういった問題を解決し、宇宙インフラを支える衛星として開発が進められているのが、「技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)」「超高速インターネット衛星(WINDS)」「準天頂衛星システム」といった衛星群だ。ETS-VIIIとWINDSはどちらも3トン級と、世界最大級の静止衛星。基盤技術の開発・研究という位置付けだが、ETS-VIIIでは携帯電話並みの大きさの端末で衛星との直接通信を、WINDSでは最大1.2Gbpsという超高速通信を目指している。

    「技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)」
    「超高速インターネット衛星(WINDS)」

    衛星通信で必要なアンテナサイズの移り変わり。衛星側は大きく、地上設備では小さく
    当初、衛星との通信には大きなパラボラアンテナが必要だったが、年々、衛星の電波出力の向上、アンテナ技術の進歩などにより、地上で必要なアンテナのサイズは縮小傾向にある。それでもまだ受信に数十cmといった大きさが必要だったが、これを普通の携帯電話だけで通信を可能とするため、考え出されたのがETS-VIIIの巨大なアンテナだ。同衛星では、衛星からの下り回線だけでなく、携帯電話からの電波も受信する必要性から、なんと大きさ19×17mという、テニスコートと面積がほぼ等しいアンテナを2面搭載。これにより、携帯電話で直接、衛星と通信を行い、データ通信や音声通話が可能になるという。

    このアンテナはモリブデンのメッシュで作られており、電波をほぼ100%キャッチ。正六角形のモジュールが各14個連結して構成しているが、打ち上げ時には折りたたまれ、直径1m、長さ4mで収納される。同衛星では、今後の衛星で利用が期待されるこの大型展開アンテナ技術や、GPSと連携した衛星測位システムの基盤技術、なども開発目的とされている。同衛星は、2004年度に打ち上げられる予定。

    一方WINDSは、企業向けには最大1.2Gbpsの双方向通信、一般家庭には直径45cm程度のアンテナ利用で最大155Mbps(受信)/6Mbps(送信)、といった高速通信の達成を目指しており、これにより、地上の有線/無線インターネット網との補完が期待されている。地上のインフラは事故・災害などにより回線の断絶が考えられるが、衛星は地上の出来事とは完全に無関係。この2つを補完すれば、現在より丈夫な、災害に強いネットワークが実現できるというわけで、国内のみでなく、アジア・太平洋地域に対しても、機能の提供が可能だという。また、衛星での超高速通信が実現されれば、離島や山間地など、これまでブロードバンドサービスが提供されてこなかった地域にも導入が可能で、デジタルデバイドの解消も期待される。同衛星は、2005年度に打ち上げを予定している。

    ○i-Spaceパイロット実験

    このように期待されるi-Spaceだが、上記の試験衛星が運用を開始する前に、既存の衛星を使い、既にパイロット実験が開始されている。パイロット実験は、宇宙インフラが実際にどのように役立つのかを確認するために実施されるもので、2002年度には8件の研究テーマが採択された。今回、それぞれ担当者から成果の発表が行われたが、本レポートではその中から、防災をテーマにした2件について、紹介してみたい。

    通信総合研究所とダイヤモンド エア サービスの共同実験「衛星を活用した災害情報ネットワーク実験(衛星航空通信によるリアルタイムデータ伝送)」は、広域災害時に、航空機に搭載したカメラで現地の全体状況を速やかに把握する、というもの。実験は、航空機の位置特定にGPSシステムを利用し、通信にはKaバンド衛星が使用された。

    システム構成
    位置特定の考え方。地形の3Dデータがないと、正しく計算できない

    カメラからの情報を有効に活用するには、まずその画像がどの地点を映し出しているのか、正確な位置情報が必要となる。それには、航空機の位置のほか、高度、カメラの角度などの正確なデータが必要となるが、それだけではまだ正確に画像の位置判断はできない。実際の地形には山などの起伏が存在するためで、同実験ではシステムに3次元地図を持たせることでこれに対応、カメラの視線がどの地点で地表に達するのか計算し、正しい位置を特定する仕組みを持たせた。

    「静止画モザイク」の画面。このように、電子地図上に実際の撮影画像が貼り付けられていく
    データは防災センターで処理され、インターネット経由で画像を見ることができるほか、カメラからの画像を電子地図上に貼り付けていく「静止画モザイク」生成システムなどの応用が可能で、実際にデモも紹介された。ただし、誤差に関してはまだ平均157m程度と大きく、今後の改善が必要とした。この誤差は、主に計算処理時間の遅れ(約1秒)に起因するもので、今後、改良により約80m程度改善が可能だという。

    次は、アジア防災センターによる「衛星を活用した災害情報ネットワーク実験(海外の遠隔被災地実験)」。このテーマでは、人が持ち運べるハンディカメラの画像を元に、被災地の状況を把握する。前述の航空機カメラがマクロ的とすると、こちらはミクロレベルでの状況把握と言うことができるだろう。

    システム構成
    衛星通信用の可搬型IP-VSATは現地で組み立てる

    現場の画像を見て、専門家が指示を出す
    大地震などの際には、現場に車で入って行けないようなケースも考えられ、最終的には人間が一番、どんな状況にも対応できるのかもしれない。このシステムでは、ズーム機能も持つカメラをヘルメットに搭載、背中にはGPSユニット、OFDMアンテナ、バッテリなどを搭載する可搬型のユニットを背負う。地上の通信設備、電源は一切利用する必要がないので、災害で地上の通信インフラが打撃を受けている状況下においても、問題なく被災地の画像を災害対策本部に伝送できるほか、専門家からの指示を受けることもできるというわけだ。

    衛星はSuperbird B2が利用され、実際に東海地震を想定した総合防災訓練(静岡県御前崎)などで実験が行われたという。その結果、被災中心部の情報収集を行う手段として有効であることが確認できたほか、今後の課題として、通信機材の軽量化や防水・耐振性の強化、撮影者の安全性の確保など、過酷な環境下で実用となるような改良が必要という評価が得られたということだ。

    (大塚実)

    通信衛星実験計画、平成14年度の「i-Spaceパイロット実験テーマ」が選定
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/09/30/23.html

    衛星インターネットでタイでもブロードバンド - 周辺国にもサービス拡大へ
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/07/05/21.html

    ADSLエリア外でもOK - 衛星インターネットなら、低価格ブロードバンド体験
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/04/16/15.html

    宇宙開発事業団、有珠山周辺の衛星写真をインターネットで公開
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2000/04/03/08.html

    i-Space
    http://oss1.tksc.nasda.go.jp/smpc/i-Space/

    ETS-VIII
    http://www.nasda.go.jp/projects/sat/ets8/

    WINDS
    http://www.nasda.go.jp/projects/sat/winds/

    宇宙開発事業団(NASDA)
    http://www.nasda.go.jp/

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