【レポート】サーキットにおけるIT - ケーススタディ・2003年鈴鹿8耐(2)

○鈴鹿がインターネットライブ中継を行うわけ

さて実際に8月3日、8tailive.comにアクセスされた方はどの程度おられようか? 筆者も会場で何回か接続してみたほか、自宅でも奥さんがアクセスしてみたが、結果は「まるっきり繋がらず」。関係者によれば、ライブ中継を始めた直後からほぼフルキャパシティに近い状態になった模様で、レース終了までこの状態が続いたらしい。

鈴鹿サーキットに勤続26年目となる三原氏。一貫してレース畑を歩み、メインの業務はレースの誘致やレギュレーション・契約などの法的業務、スポンサーサイドとの折衝など。ITは完全に個人として勉強しながら、というお話だったが、深い知識をお持ちだった

冷静に考えれば、一対多数の同時配信が可能なTV中継に比べて、一対一通信がベースとなる現在のストリーミングのライブ中継では、どう考えてもストリーミングの分が悪いことは歴然としている。したがって配信能力はTVよりもはるかに劣るわけで、にもかかわらず、昨年に引き続き今年もライブ中継を(それも無料で)行うのはどういう理由か? このあたりを、鈴鹿サーキットランド モータースポーツ事業部 業務室長の三原哲夫氏に伺った。

そもそも鈴鹿サーキットに無線LANを設置したり、インターネットで配信したりという最大の目的は、鈴鹿サーキットに観客を呼び寄せるということが最大の目的だという。例えば鈴鹿8耐を例にとっても、最盛期には決勝当日だけで16万人もの観客が集まったのに対し、今年は決勝当日で7万2,000人。予選初日からの延べでも10万人をやっと超える程度。これは別に鈴鹿8耐だけでなく、2輪/4輪を含めたモータースポーツ全般にやや停滞気味なので、単に鈴鹿だけの問題ではないのだが、だからこそ鈴鹿への集客を増やすための工夫が必要とされる。つまり、「鈴鹿サーキットでしか得られないものを用意しないと、サーキットに足を運んでもらえない」ということになる。

実は無線LANは、こうしたことに関する遠大な布石の第一歩である。三原氏は、鈴鹿サーキットがさまざまな映像コンテンツを独自に蓄積し、これをサーキットで配信することを考えている。例えば観客がノートPCなりPDAなりを持ってサーキットにやってくると、贔屓のチームのピットの様子とか、特定のライダーの走行シーンとか、あるいは過去のレースにおける映像など、要するにこれまでメインスタンドのビジョンやTV中継などでは配信されてこなかった、さまざまな映像コンテンツにアクセスできることを目論んでいる。もちろんこれらはセーブしておいて、お土産として持って帰って自宅で楽しむなんてことも可能にするとの話だ。あるいは、今はレースリザルトの配信も限りなく手作業に近い方法で行われているが、これももっとスマートに配信するといったことも考えている。

第1コーナー裏では、8tailive.comとは別に、無線LANを使っての動画中継を実験していた

もちろんこれだけの規模のものとなると、一朝一夕に出来るものではない。例えば無線LANにしても、25台のアクセスポイントでカバーできるクライアントの数は多寡が知れている。大体現在の無線LANでは、同時利用チャネル数も限られているから、単純にアクセスポイントの数を増やせばいいというものでもない。このあたりは三原氏も良く理解しており、今年はあくまでも実験期間と割り切っている。機能的にはホットスポットの枠を出るものではないが、サーキットというこれまであまり想定されてこなかった地形で無線LANがどこまで実用的に使えるかとか、屋外に設置されたアクセスポイントの耐候性、あるいは無線LANのアンテナの特性など、貴重なフィールドデータの蓄積が行えているという。また、既に光ファイバー自体はコース全周にわたって敷設されているそうだ。もっともこれはカメラ映像を送るためで、それをそのままデータ転送に利用できるわけではないが。ただ、東コースに関してはデータ転送用の光ファイバーも敷設されているそうで、今後の展開を念頭においているらしい。

もうひとつの理由は、言ってみれば「設備の先鋭化」である。例えば現在メディアセンターには500人分の席が用意され、1席にはひとつ、必ず電話回線が用意される(通常の電話とISDNのどちらも可能)。あるいは各ピットにはラップモニターや実況映像を配信する複数台のモニターが用意されるといったことはなされている。が、これらはF1世界選手権を主催するFIAやMotoGPを主催するFIMと鈴鹿サーキットが契約するにあたって、Standard Ruleとして向こうから要求されるもので、したがって、F1なりMotoGPなりを開催するサーキットならばどこでも必ず設置しているものである。言ってみれば「最低限の設備」でしかない。が、三原氏はもっと先を見ている。

鈴鹿8耐の場合、1時間おきにその時点での順位が発表されるが、その発表方式は何と「紙」。メディアセンターの壁で、順位を印刷した紙が配布されるので、これを持ってきてもう一度PCに打ち込むといった光景が毎時間ごとに見受けられる。しかもこの紙の発表は1時間程度遅れて出てくることがほとんどなので、どうかするとメディアセンター天井から吊り下げられているラップモニターを睨みながら、手でメモを取ってPCに打ち込むという、最先端から程遠い光景が展開されている。

これはピットでも同じことである。こちらでもちょっと触れられている話だが、Spec-A ヤマモトレーシングチームの予選落ちを受け、急遽TEAM京都デザイン専門学校のサポートを行ったチームつかもとであるが、仮面ライダー555ホンダチームのサポートは「既存のデータシステムとの接続が間に合わなかった」ということで中止せざるを得なかった。ところでこの「既存のデータシステム」とは何かというと、それは例えば現在の順位とかラップチャートを入力して蓄えるシステムだったりするわけで、そもそも鈴鹿サーキットから出てくる情報がアナログであることが問題だったりする。(これがデジタルデータとして出てくれば、少なくともラップ情報の表示に関してはチームつかもとのシステムがそのまま使えた筈である)

こうした部分について、積極的に新しいものを取り入れてゆこう、というのが三原氏の考えである。それは、単にどこかのサーキットが先鞭を付けているから、というわけではなく、「やる以上は最高峰にトライしたい」(三原氏)という意気込みである。氏によれば、例えば鈴鹿サーキットがある仕組みを取り入れて、それが良いものだと認知されたら、翌年にはさまざまな団体がそれを取り入れることが多いそうである。予選の上位20チームのライダー40人が、完全コースクリアーの状況で1ラップだけ走行して最終ポジションを決めるスペシャルステージ、元はといえばやはり三原氏が考案して鈴鹿8耐に取り入れたものだそうだが、まずFIM World SuperbikeがSuperPoleという名称でそれを取り込み、今ではF1までが予選にワンラップの仕組みを取り込んでいる。同様に、鈴鹿がもし先鋭的なデータ処理・配信の仕組みを実現した場合、翌年あたりFIAやFIMが、そうした仕組みをStandard Ruleに盛り込む事も十分考えられるという。つまり、FIAやFIMといった外部団体の主導にしたがってサーキットの設備を整えてゆくのではなく、逆にこうした外部団体に提案してゆくようなアプローチを考えているという話である。

【レポート】サーキットにおけるIT - ケーススタディ・2003年鈴鹿8耐(3)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/09/06/21.html
へ続きます

(大原雄介)

鈴鹿8耐の観戦にはノートPCを持っていこう - 無線LANでライブ映像を配信
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/07/14/05.html

鈴鹿8時間耐久ロードレース
http://www.suzukacircuit.co.jp/8tai/

インテル
http://www.intel.co.jp/

日本ヒューレット・パッカード
http://www.hp.com/jp/

マイクロソフト
http://www.microsoft.com/japan/



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