真夏の炎天下、ウェアラブルPCも8時間を「完走」した今年の鈴鹿8耐

      [2003/08/07]

    ピット支援情報システムのサーバー側画面
    7月31日~8月3日までの4日間、三重県・鈴鹿サーキットにて"鈴鹿8耐"こと「FIM2003世界耐久選手権シリーズ第6戦 "コカ・コーラ"鈴鹿8時間耐久ロードレース」が開催された。その鈴鹿8耐で、ウェアラブルコンピューティングの研究者、大阪大学大学院の塚本昌彦助教授を中心として開発された情報システムが、実際のレースデータをリアルタイムで利用しながらデモンストレーションされた。

    このシステムは、レース主催者から無線で送られてくる各チームのタイム情報を受信し、チーム名との対応付けや順位毎のソートなど加工を行った後、XMLに変換してサーバーに蓄積する。クライアント端末となるウェアラブルPCは、無線LANを通じてサーバーからXMLデータを取得し、グラフィカルなFlashコンテンツとしてHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に情報を表示する。

    ピットの軒先に設置したアンテナで受信する信号をシリアルデータに変換し、複数台用意されるサーバーに分配する。アンテナ側の同軸ケーブルがのばせなかったので、シリアル側で延長に延長を重ねるなど、設営には苦労の跡が見られた

    クライアントPCにはソニーの「バイオU PCG-U3」を利用する
    表示される情報は、ピットインのタイミング、自チームおよび順位が隣接するチームのタイムと周回数、インスタントメッセージ、コースマップ、気象情報といったもの。中でも重要なのがピットインのタイミング。天候の移り変わりやアクシデントの発生でレースのペースが変わると、燃費なども変化するので、ピットイン時期を前後にずらすといった作戦変更が必要になる。今回のシステムでは、燃費や給油量をサーバーへ入力することで、あと何周走行した後にピットインとなるか、それは現在のラップタイムだと何時何分頃になるかがリアルタイムに表示される。

    ワークスチーム(メーカー直属で運営されているチーム)など上位のチームは独自の情報システムを既に構築していることもあるが、多くのチームではピット内のホワイトボードにピットイン予定を書き込むなど、非常にシンプルな方法で情報共有が行われている。また、主催者から提供されるタイム情報も、レース終了後に結果の分析等の目的でログとして利用されるケースは多いが、このデータがレース中にリアルタイムで活用される例も少ないという。

    TEAM京都デザイン専門学校のマシンは本田技研工業のCBR954RR

    今年の鈴鹿8耐では、塚本氏を中心として結成された研究開発グループ「チームつかもと」が、XX-Formulaクラスに出場する「Spec-A ヤマモトレーシング」チームをサポートする予定だった。しかし残念ながら、ヤマモトレーシングは計時予選から先へ駒を進めることができず、決勝である8時間耐久レースでウェアラブル情報システムを実戦投入することができなかった。

    しかし、決勝進出を決めたJSB1000クラス「TEAM京都デザイン専門学校」のピットの一角を借りて、同チームのデータを利用したデモンストレーションが実施された。スタートから30分ほどはシステムが安定しない場面もあったが、それ以降はノートラブルで最後までレーススケジュールを表示し続けた(正確には、撤収準備のため稼働時間は7時間半程度だった)。

    TEAM京都デザイン専門学校のチーム監督も、試しにレース中にノートPCとHMDを装着。最初は「一体何だこれは?」という表情の監督だったが、意外に気に入ってもられた様子で、その後もウェアラブル情報システムを使用し続けた。やはり腰に付けたノートPCの重さは負担のようで、装着時間は約3時間が限界だったが、作業中でも常に情報を確認できるHMDの有用性は確認できたといえるのではないだろうか。実際に使用を開始してみると、ノートPCのディスプレイが開いてしまったり、ケーブルが抜けてしまったりという不具合があり、ガムテープでPCをグルグル巻きにして固定しなければならず、運用してみないとわからないノウハウも得ることができたようだ。

    監督がすぐにウェアラブルシステムを外してしまわないか心配だったが、初めてのHMDも意外に好評?!
    ヤマモトレーシング・レースクイーンのお二人、そしてNTT未来ねっと研究所の板生知子氏(中央)。HMDを着けたレースクイーンもさることながら、未来的なイメージの衣装に身を包んだ板生氏も注目を集めていた

    記者は今回の取材で初めてレース中のピットに足を踏み入れたが、ピットに入ってくる情報は想像していた以上に限られており、レースの最前線でありながらも、ここでレース全体の流れをつかむことは非常に難しいと感じた。ピットには2台のテレビが設置され、カメラ映像や順位表示の場内放送を受信していたが、狭いピット内でテレビ画面を十分に確認できる位置は少なく、まして、その一段後ろで様子を見守る取材陣や、パドックを訪れた一般客にとっては、チームが急に慌ただしくなったが何が起きているのかよく分からない、という状態がしばしば見られた。自宅でテレビ中継を見ている人々のほうが、レース全体を正確に把握していたかもしれない。レースの前線において、情報システムが活躍できる、大きな可能性があるのではないだろうか。

    テレビは解像度も低く、順位を確認するのも一苦労。後ろのほうからはほとんど読めない
    ピットイン中は黄緑色の帯で作業時間が表示される

    塚本氏によると、「仮面ライダー555 ホンダ」チームのサポートにもこのシステムを利用する計画があったという。今回の8耐では同チームが持つ既存の情報システムとの調整時間が取れなかったために実現できなかったが、既に存在するシステムのフロントエンドとしてウェアラブルPCを採用することで、情報システムを活用する幅を広げられるという一例だろう。

    子供たちからも(むしろ大人たちに?)人気だった「仮面ライダー555 ホンダ」チームは、序盤のトラブルで大きく順位を落としたものの、最後は10位にまで再び上りつめる見事な走り
    塚本氏らを囲む「仮面ライダー555 ホンダ」チームキャンペーンレディの衣装は、どことなくそのままウェアラブル機器に応用できそうな印象

    ピット内で何台ものコンピューターを広げ、HMDを装着する姿はPR効果も抜群だったようで、他のチームからの問い合わせもあったという。今回使用されたシステムはまだ発展途上で、これからさらに機能の追加や使いやすさの改善を図っていく。チームつかもとでは今後もレーシングチームのサポート活動を継続していく方針で、その他にもウェアラブルコンピューティングへの関心を高め、産業化につなげるためのさまざまな活動を計画しているという。

    レース前のパレードには本物(?)の仮面ライダーたちも登場
    8耐の見どころのひとつが、夕刻以降の点灯走行。急速に悪化する視界とは裏腹に、チェッカーフラッグを間近にしてスロットルはワイドオープンに

    鈴鹿8耐を締めくくる、勝者を称える花火。今年は「Team桜井ホンダ」生見友希雄・鎌田学組が優勝。プライベーターの優勝は21年ぶりという

    【レポート】ヒューマンインタフェース最前線(4) - ウェアラブルの未来と仮面ライダー
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/07/30/12.html

    ウェアラブルの伝道師がバイクレースに参戦?! - HMDで鈴鹿8耐をサポート
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/06/23/14.html

    鈴鹿8時間耐久ロードレース
    http://www.suzukacircuit.co.jp/8tai/

    大阪大学大学院情報科学研究科 塚本昌彦助教授
    http://www-nishio.ise.eng.osaka-u.ac.jp/~tuka/index-jp.html

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