【レポート】満1歳を迎えた地球シミュレータ - 日本科学未来館でシンポジウムが開催(2)

      [2003/06/20]

    ○ナノダイヤモンドなど、新素材の研究も

    今回のシンポジウムでは、講演のほかにも、地球シミュレータ(ES)を使った研究成果の発表も行われた。発表されたのは、「先進・創出」分野から2テーマ、「大気・海洋」分野から4テーマ、「固体地球」分野から4テーマ。ESというと、その名前のせいか地球モデルのシミュレーションが真っ先にイメージされるが、もちろんそれしかできない訳ではない。本レポートでは、世界最高速のスパコンとしての一面を強く発揮する「先進・創出」分野から、高度情報科学技術機構 計算科学技術第2部部長の中村寿氏による、「カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション」について紹介したい。

    カーボンナノチューブの種類。結合状態によって性質が異なる
    氏が行ったのは、新素材として様々な分野で応用が期待されているカーボンナノチューブ(CNT)の特性を検証するためのシミュレーション。CNTは、化学的に不活性で、強度は鉄の100倍、融点は3500度以上と優れた特性を多く持つ物質で、結合パターンの違いから「カイラル(螺旋)型」「アームチェア型」「ジグザグ型」など数種類が存在し、それぞれに異なった性質(半導体、金属、その中間、など)を持つ。氏によると、現状、大量生産の目処はついているそうで(ちなみに、値段は1kg当たり1万円程度ということだ)、これからは燃料電池、長寿命リチウム電池など、応用領域へ焦点が移ってきているという。このためには、性質を幅広く把握するとともに、新しい機能・新しい物質の開発などが必要で、そのための手段としてESが必要、というわけだ。

    なぜ他のスパコンでは難しいかというと、その膨大な計算量に原因がある。氏の計算モデルでは、原子1個あたり1億7,700万回の計算を行うが、これを粒子数分繰り返し、それが終わったら、今度は時間をΔt(時間刻み)だけ進めた次のタイムステップの計算を行っていく。粒子数が521個、タイムステップが8000ステップがあるとすると、これだけでもその計算量はなんと約738兆回。実際、氏が3年前にワークステーションを使って計算したところ122日も要したということだ。

    計算量の大きさ。1原子あたりの計算量×粒子数×タイムステップ数になる
    並列計算には、非並列な部分をできるだけ無くすのが重要。1%残っただけでも、並列計算には大きな影響がでる

    しかも、氏が必要とするのは更に大規模なシミュレーション。より「リアル」な結果を得るためにはどうしても規模の大きなシミュレーションが必要ということで、氏は今回、2万原子、1万ステップの計算モデルを用意。これで3京5,600兆回の計算という膨大な計算量になるが、PCで3年かかるというところ、ESの3,480プロセッサでわずか1.4時間で計算を終えることができたというから、改めてESの計算能力には驚くところだ。

    ESでの実行結果。計算の速さもすごいが、プログラムの最適化で非並列部が0.01%にまで抑えられているのはさすが
    今回検証した熱伝導モデルの計算結果。140nmまでの長さで計算した結果、熱伝導率は長さに依存することが確認できたという

    新素材のいろいろ。ナノダイヤモンドは、体積弾性率は天然ダイヤの40%、質量は同10%、バンドギャップは半導体的な0.5eVと、「硬くて軽くて電気も流れる」という
    また、氏は大規模シミュレーションによって、「素早く、真似のできないモノ作り」が実現できることも強調する。シミュレーションでは、実際に加工が難しく、実験ができないような物質でも、その特性を検証することができる。「仮想的なモノ作り」といったところだが、これにより、例えばCNT内にフラーレンが格納された「ピーポッド」や、CNTがダイヤモンド構造をとっている「スーパーダイヤモンド」、スーパージャングルジム構造の「ナノダイヤモンド」など、応用が期待される新素材の検証も、実験に先駆けて行うことができる。

    ナノテクノロジーは、現在、国がイニシアティブをとって積極的に力を入れている分野の1つだが、もちろん欧米でも研究が進んでいる。氏による分析では、現在、米国は実験研究が主流で、シミュレーションの利用も盛んだが、計算リソースが不足気味。欧州は理論は世界トップだが、自前の計算機が無いという。一方、日本は実験研究は世界トップレベル、計算リソースもESが世界トップということで、氏は実験と計算の協調が日本の強みになるはず、と期待する。しかし、米国は「ASCI Purple」「Blue Gene/L」など、ESを上回る性能のスパコンの開発を進めており、数年後には稼働を開始する。今のうちに差をつけておくというのが、競争を有利に進めるには重要なのかもしれない。

    米国ではこういったスパコンの開発が続いているが、日本ではESの次に来るものが見えてこないのが気がかりではある。どうも超高速のスパコンよりも、グリッド・コンピューティングに重点を移してきているようにも見えるのだが、いずれにしても、日本の技術競争力に、計算機が果たす役割はますます大きくなっていることだけは間違いないようだ。

    (大塚実)

    【レポート】満1歳を迎えた地球シミュレータ - 日本科学未来館でシンポジウムが開催(1)
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/06/20/08.html

    【レポート】地震の解明にも挑む、地球シミュレータの「GeoFEM」プロジェクト
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/01/21/06.html

    【レポート】TOP500に見るスパコンのトレンド(1) 世界1位はこの5年で演算性能27倍に
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/12/19/12.html

    【レポート】地球シミュレータは人類のパラダイムを変えるか? - NEC・HPC研究会(1)
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/07/04/07.html

    地球シミュレータセンター
    http://www.es.jamstec.go.jp/

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