【レポート】日本認知科学会特別講演 「将棋と認知科学」(2)

  [2003/06/10]

○局面の記憶実験はよくある局面とランダムな局面で大きな差

続いて登場したのが、プロ棋士やアマ上級者と初心者で、将棋の局面の記憶力にどのような差があるかを測定した実験の結果。プロ棋士が何年も前の対局の棋譜を寸分違わず覚えていて、局面を再現したりする様子をテレビ番組等でご覧になったことのある方も多いと思うが、実際のところどの程度差がつくものなのだろうか。

というわけで、今回の実験では実際の対局でもよくあるような局面(今回はプロの実戦譜を使用)と、コンピュータが完全にランダムに駒を動かした局面の2通りについて、それぞれ3秒間盤面を被験者に見せた後、その盤面をどの程度再現できるかを調べた結果、プロの実戦譜については初心者と中級者(アマ高段者)・上級者(プロ八段)の間で大きな差がついた。おもしろいのは、中級者と上級者では40手ぐらいの局面までは正解率に差がないのに対し、その後、中級者の正解率が急激に落ちる点。これについて松原氏は「40手あたりというのはいわゆる序盤戦が終了するあたりであり、プロはその後の中盤の展開についてもある程度定跡としてパターンを覚えているのに対し、アマはそこまでのパターンを覚えていないからではないか」と分析した。

プロの棋譜を使った記憶実験の正解率
 ランダム問題の場合の正解率

一方、完全にランダムな局面においては、初心者・中級者・上級者のいずれも正解率は50%以下となり、手数による差もほとんどつかなかった。このことから、記憶力の差は絶対的な能力の差ではなく、過去に同じような局面を経験したかどうかという要素による差が大きいのではないか、という見解を松原氏は示した。

これについては羽生氏も会場との質疑応答の中で、多面指し(1人が多人数相手に同時に将棋を指すこと)の際の経験談として「個々の対局についていちいち何の手を指したかは覚えていないが、盤面を見ればこれは自分が指した手かそうでないか(相手がズルをして駒を動かしたか)すぐにわかる」と述べており、自分がよく指すような局面については普段から見慣れているために覚えやすい、という側面が少なからずあるものと見られる。

○プロは形勢判断や時間配分をどうしている?

ところで、コンピュータ将棋の作者がよく苦しむ問題の1つに、思考に使える持ち時間の配分がある。コンピュータ将棋世界選手権のルールでは「思考時間が25分を超えると負け」となっており、持ち時間が切れても秒読みルールがあるプロの将棋に比べ時間の管理にシビアさが要求されるため、若干事情が異なる部分はあるが、プロはそのあたりをどうしているのだろうか。

羽生氏は時間配分について「圧倒的に形勢がよくなってしまえば(すぐ次に指す手が見つかるので)持ち時間は関係なくなる」と述べた上で「基本的には形勢を良くできそうだと思えば長い時間考えるが、"まだ先は長そうだ"と思うと早めに指して時間を残すということはあると思う」「早く有利にしてしまえば次が楽になる」と述べ、序盤・中盤に長めに時間を使う傾向があることを示した。ただ一方で「オセロや囲碁などと違い、将棋は必ずしも終盤の局面が収束に向かうとは限らないため、私でも(時間配分に)迷うときはある」と述べ、プロでも時間配分は難しい問題であることを明かしている。

また、思考時間の中でどの程度の時間を形勢判断に割いているかについては、「判断自体はほぼ直感的に行う」「次の一手の候補を考えて、不利な手がなければ有利だと考える」と述べ、あまり形勢判断自体には時間はかからないことを示した。一方で「プラスになりそうな手が見つからないときには、ただ将棋盤を眺めるだけで思考停止することもよくある」とも述べており、このあたりは「不利になればなるほど時間を使う」傾向があると言えるかもしれない。

○コンピュータ将棋の今後の可能性は?

 羽生氏と「激指」の対局画面

最後に話題に上ったのが、今後コンピュータ将棋がどこまで強くなるのかという話題。これについて羽生氏は「基本的に弱くなることはないから、いずれはプロレベルまでは強くなるだろう」「"ソフトが進歩しなくてもハードが進歩することによって強くなる" ということもあるだろう」と、少なくともプロ四段レベル程度までは強くなるだろうという見解を示したが、プロの名人クラスを負かせるレベルまで到達するかどうかについては明言を避けた。

また今回の対談にあわせて、事前に羽生氏と昨年のコンピュータ将棋選手権の優勝ソフト「激指」が平手で対局を行った結果(結果は当然羽生氏の圧勝)も披露され、羽生氏は対局した感想として「若干戦略ミスは見られるが、個々の手については明らかに変な手というのは見られなかった」「簡単には崩れないという印象を受けた」と述べた。これを踏まえて今後のコンピュータ将棋については「粘り強い、相手に決め手を与えないという方向で強くなっていくのではないか」との見解も示していた。なお羽生氏は「攻めに比べると、受けはあらかじめ相手が攻撃してくる手がわかりやすい分、部分的な解析が可能なのでコンピュータ将棋に向いているかもしれない」という指摘もしている。

ちなみにコンピュータ将棋がプロ並み、あるいはプロを超えて強くなった場合にプロ棋士という存在はどうなるのか、という質問に対しては「別に将棋自体の魅力が薄れるわけではないし、全ての可能性を解析するのは(冒頭で松原氏が述べたように)ほぼ不可能なわけだから、プロ棋士という存在が不要になることはない」と述べ、コンピュータ将棋とプロ棋士とは十分に共存可能であるという姿勢を明らかにした。

(佐藤晃洋)

【レポート】日本認知科学会特別講演 「将棋と認知科学」(1)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/06/10/09.html

【レポート】コンピュータ将棋選手権(1) - IS将棋(東大将棋)2年ぶりの栄冠
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/05/06/29.html

【インタビュー】コンピュータ将棋世界一、「激指」開発者インタビュー(1)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/05/17/26.html

日本認知科学会
http://www.jcss.gr.jp/



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