タイピングソフト「特打シリーズ」や、その奇抜なテレビCMで知られるソースネクストは今年の2月、それまで5,000~7,000円で販売していた主力製品のほとんどを価格1,980円にする「コモディティ(日用品)化戦略」を打ち出した。国内の産業、商業のさまざまな局面で「大幅値下げ」が相次いでいるが、その潮流がパソコンソフト市場にもやってきた。発表から3カ月、新戦略の緒戦の様子と見通しを、同社・松田憲幸社長に聞いた。
新価格設定以来、販売数は2倍半になった。八重洲ブックセンター、丸善、文教堂、福屋書店など全国で450店舗の書店、TSUTAYA、イトーヨーカドー、イオンなどの一部店舗に販売網が広がった。同社のソフトを販売する書店は来年3月までには1,000店舗を超える。書店経由での販売比率は2003年度で10~20%になる見込みだ。この夏から秋にかけて、コンビニエンスストアにも商品を置く。いずれは、コンビニ経由の比率は30%程度にする予定だ。
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| ソースネクスト・松田憲幸社長 |
学習ソフト、地図など、ほぼ同様のコンテンツが、書籍、パソコンソフト、双方の媒体で流通している場合「『紙』の方を下回る価格にする。これがブレークポイントになる。牛丼の吉野家も、並一杯の値段を300円、290円、280円、250円などさまざまな価格でテストして、280円という価格を決めた。当社の場合も、昨年11月に「特単」を試験的に1,980円で販売したところ、それ以前の8倍の本数が売れた。いまのところ、1,980円のソフトは50タイトルだが、今年度中には100タイトルにまで増やす。今後は、本来、パソコンで扱ってこなかったものをこのシリーズに追加する」(松田社長)。
それにしても思い切った値下げだ。なぜこの価格が可能だったのか。「仮にあるソフトの開発に5,000万円かかったとして、このソフトはどれだけ売れるかを予測して、5,000本くらいだ、となれば、1本の単価が1万円では利益が出ないから1万5,000円にしよう、ということになる。これが従来の発想だった。今回の一連の製品は、まず価格ありき、最初から1,980円で売ろうと決めた。たとえば、開発費が1,000万円なら、5万本以上売れなければならない。これは1万本しか売れない、と思われるような製品は出さない。この価格帯のソフトは売れるタイトルに絞った」(同)という。
Xが価格、Yは販売本数、両者を掛け合わせたZが開発費、これが方程式だ。Xを1,980円に固定すると、開発費の多寡によって、販売すべき本数が決まってくる。「価格が4,980円で10万本売れているソフトがあるとすれば、1,980円なら20万本売れる、と読める。2003年度は、全体で500万本販売することを目標としている」(同)。
この戦略が進めば、ソフトの売上が上昇するとともに、販路の拡大で、これまでソフトを買わなかった層を発掘できる。そうなれば、市場全体の規模が伸張することが期待できる。松田社長は「日本国内のパソコンソフト市場はまだまだ規模が小さい。音楽CDの場合、年間2億枚が出ている。これに対してパソコンソフトは1,600万本、1/12か1/13程度しかない。すくなくともCDの1/3くらいにはなっていいはずだ」とみている。
現状では「個人でパソコンソフトを購入する層の大半は、仕事に関連する製品を選んでいる。趣味の領域に入るものは、はたしてどれだけ売れているか。この1,600万本には、OSも含まれているので、本来のアプリケーションは500~600万本くらいだろう。これらの分野は、音楽CDの1/30、1/40程度でいいとは到底思えない」(同)。そこで、「パソコンはこれまで、仕事の道具としての側面が強かった。それを転用できないか」(同)と考えている。まだ潜在的に、パソコンソフト化すれば、楽しいもの、おもしろいものが埋まっている鉱脈がある。
パソコンの安定性が向上して、使い勝手がよくなれば、ソフトも促進される。「パソコンのインフラができて10年、ソフト、コンテンツが快適に使える条件が整ってきた。高速道路の例をみてもわかるが、まずインフラ整備が重要になる。東名高速道路は開通して10年経過してから交通量も増加した。当初は不要論さえ囁かれた。だが、高速道路ができたから、富士山の近くまで早く見にいける。いろんなところにいける。おもしろいことができる。それなら自動車を買おうか、となる。IT産業でいえば、パソコンが高速道路、コンテンツが車にあたる」。2年後の2005年は、Windows 95が出てからちょうど10年になる。松田社長は、この年には、ソフト市場が飛躍的に伸びる、と予想している。
戦略価格の効果は如実に現れている。「コモディティ化」。この概念は、パソコンについては、10年ほど前から業界内で叫ばれてきた。価格、操作性、とっつきやすさ、など、家電並みになれば、パソコンはもっと普及するとされてきた。この10年、パソコンは数分の1の値段になった。依然、価格はまだ高い、といわれるが、操作性の向上も含め、消費者が入手しやすくなったのは、この10年間の出荷台数の推移が物語っている。93年度、パソコンの国内出荷台数は300万台に満たなかったが、2002年度は前年比減、とはいえ984万台だ。価格が下がれば販売量は拡大する。だが、コモディティ化には年月も経過も必要だ。松田社長も指摘するように、まさに10年はかかるようだ。
「ソフトの時代がくる」と松田社長は語る。かつて、ソフトはコンピュータハードについてくる「おまけ」扱いされていた。それが、パソコンの時代になり、ソフト抜きでは、パソコンはにっちもさっちもいかないことはいまや万人が認めるところだろうが、松田氏が指摘するとおり、買いやすい値段でいまの数倍の市場になってこそ、真のソフトの時代、ということになるのだろう。それがいつになるのか断言はできないが、近づいていることだけはたしかだ。
(大川淳)
ソースネクスト、デジタル地図を1,980円で発売、ゼンリンのデータを採用
ソフトも激安化、主力製品を1,980円で販売、ソースネクストが新戦略
ソースネクスト
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