PCという言葉にはビジネスの響きが多分にあった。ワープロソフトで文書を作成、表計算ソフトで会計処理……という感じの利用スタイルが最も一般的であり、PCでゲームや音楽、マルチメディアを楽しむと言ってもピンとこない人が多かったのは、それほど昔のことではない。
その一因として、90年代半ばのMicrosoftを振りかえると、まだWindows向けマルチメディアAPIの環境整備に手を染めたばかりだったという事情がある。1996年に登場した「DirectX Version 3.0」でマルチメディアへの道は開かれたものの、複数ウィンドウのスムーズなビデオ再生などはまだまだ厳しい状況だった。
しかしながら、こうした状況を一気に打開するとの期待を集め、流星のように市場に登場したOSがある。米Beの「BeOS」である。1995年の「BeBOX」発表後、1998年にはIntel CPU上で動く「BeOS Release 3」を投入した。とりわけ、2000年に発表された無償ダウンロード版「BeOS 5 Personal Edition」は、提供開始から1カ月で100万件のダウンロードを記録し、その後も世界各地でユーザーによる支持が拡大する。日本でも、日本語フォントと漢字変換システムを標準搭載した対応ソフトウェアが発売され、大きな話題となった。
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| Zetaのデスクトップ |
BeOSは、Windowsが不得意としていたストリーミングなど、大量データの高速処理が求められるマルチメディア分野に適している。カーネルやスレッドのシステムが高いパフォーマンスをもっているため、QuickTimeの動画を複数再生しながら、さらにオーディオファイルを再生するといったマルチタスクもスムーズに行えた。
マルチメディア関連のプログラムは、リアルタイムスレッドとして明示的に優先順位が指定されるため、他のアプリケーションより常に上に位置付けて動作。このため、ビデオやサウンド関連処理もコマ落ちせず、リアルタイム再生/編集が行えるようになっている。また、OSの機能を複数のサーバモジュールに分けることで並列度をアップし、マルチCPU環境でシステムの並列度がアップすればするほど、BeOS自体のパフォーマンスがアップするといった特徴的な機能をもっている。
インストールすると、BeOSはWindows上にファイルとして保存され、デスクトップにできるアイコンをダブルクリックするだけで瞬時に起動。終了後は自動的にWindowsが再起動するというシンプルな操作方法も人気を呼び、オーディオやビデオなどの分野では、WindowsやLinuxを圧倒して、絶大な威力を示すのでは……とまで言われたBeOSだが、2001年8月に突如として、Beは同社の知的および技術資産を米Palmに売却するとの発表を行う。その後、昨年春には会社の解散手続きを取り、市場から完全に姿を消している。
惜しまれつつ消えていったBeOS。しかしながら、BeOSを「Zeta」という新ブランドにパワーアップし、復活を目指す企業がある。ドイツはStuttgartにて、10名の有志が集まって設立したyellowTABである。今回は、発売が間近に迫るZetaと、yellowTABの開発ストーリーにスポットを当ててみたい。
○「BeOS New Generation」から「Zeta」へ
BeOSは、決してその製品価値が落ちたゆえに消え去ったのではないと、yellowTABは明言する。むしろ、その優れた製品を活かしきるビジネスモデルの欠如ゆえに、Beは業務停止を余儀なくされたのであり、販売ルートを確立し、収益性の高いビジネスを展開するなら、新市場の開拓も夢ではないとのコンセプトに基づいて、yellowTABは設立された。
ここで、Beがたどった変転する経営ビジョンを振りかえっておきたい。同社は、米Apple Computerで副社長を務めたJean-Louis Gassee氏によって創設されている。当初は、米AT&Tの「Habit」というRISC型CPUを使ったハードウェアの開発を手がけるものの、後にPowerPCをベースにしたハードウェアBeBOXの開発に移行し、そこで誕生したOSは、Apple ComputerのPowerMacへ移植されている。続いて、同社は方針を転換し、AT互換機のIntelベースにOSを移植して、Windowsに対抗するマルチメディアOSとして活路を開こうとする。
しかしながら、すでにOS市場で圧倒的優位を誇るWindowsの壁は厚く、最終的に同社はインターネット家電向けのOS「BeIA」の開発に進む。そして、BeIAを中心としたビジネスに集中する目的で、PC向けのデスクトップOSを無償配布することを決定。前述のBeOS 5 Personal Editionの発表に至っている。
この決定は、BeOSを広く市場に普及させる大きなメリットがあったものの、yellowTABは、これがBeを会社解散に追い込む「Big Mistake」となり、致命的な過ちを犯したと分析している。Beは、BeOS 5 Personal Editionと同時提供する形で、対応アプリケーションやサービスをバンドルした「BeOS 5 Pro Edition」パッケージソフトをUS69.99ドルで発売。しかしながら、大半のユーザーは無料ダウンロード版のBeOSを好み、パッケージ販売は振るわない。そして、頼みのインターネット家電の市場は思うように拡大せず、事業は行き詰まってしまうのである。
とはいえ、この時点でPalmに買収され、BeOSに終止符が打たれる前に、yellowTABはBeから無期限のライセンスを取得。BeOSのソースコードをベースに、正統な後継OSの開発に取り組んできたと主張する。これまで長きに渡って、その活動の全容は明らかにされていなかったものの、当初は次期バージョン「BeOS 6」となる「BeOS NG(New Generation)」として復活を目指していたが、現在は新ブランド名「Zeta」に改称された製品の発売が間近に迫り、同社も市場へのアピール姿勢を強めている。
(湯木進悟)
【レポート】帰ってきたBeOS! 日本語対応「Zeta」デビューで再び新風(2)
へ続きます
米Be、今月自主解散へ - Microsoftとの訴訟は継続
今度はOS市場で訴訟ヒートアップ - 「BeOS」「BeIA」のBe、Microsoftを提訴
Be Inc.が知的財産をPalmに売却
yellowTAB
http://www.yellowtab.com/
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