情報処理学会・2日目からは、「IPv6ビジネス展開」と題された特別セッションの模様をお伝えする。同セッションでは日立製作所・松下電工・NTTから、IPv6の応用事例として昨今期待と注目を集めている「RFID(Radio Frequency Identification System)」や「センサネット」などの説明が行われたほか、Mobile IPv6のフレームワークをどのように実システムに応用するか、といったアイデアの解説なども行われた。
○IPv6の最大のメリットは「情報収集の容易さ」?
今回のセッションに登場した4人のパネリストのうち、3人が揃って挙げたのが「IPv6を使うことにより、多量のセンサ等から情報を集めることが容易になり、そこから新しいサービスの可能性が開ける」といった趣旨の内容だった。
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| 日立製作所の神牧秀樹氏 |
トップバッターとなった日立製作所の神牧秀樹氏は、RFIDが2006年には世界規模で約6,000億円程度まで市場が拡大するだろうという予測を示した上で、RFIDにIPv6を使うメリット・デメリットを説明した。メリットは何と言っても大量のIPアドレスを個々のRFIDに対して付与することができる点。またRFIDのホスト機器(RFIDリーダーなど)におけるハード・ソフトの開発においても、既にIPv6プロトコルをハードウェア実装したチップが多数存在することに加え、汎用OSとしてLinuxが存在するために新規に開発が必要な部分が非常に少なくて済む点も重要な利点として挙がっていた。
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| 日立製作所の矢野和男氏 |
また同じく日立の矢野和男氏は、能動的に動作するセンサによりアドホック型のネットワークを構成し、最終的にはそこから得られたデータを元に自律制御を可能にする「センサネット」の説明を行ったが、IPv6を採用するメリットとして前述の神牧氏とほぼ同趣旨の内容を述べた。
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| 松下電工の藤原憲明氏 |
そしてこのセンサネットの応用例ともいえる「ビルオートメーション」を取り上げたのが、松下電工の藤原憲明氏。同社では平成12年度から大阪・門真市の本社第二別館において、ビル内に約1,200個のセンサを設置してIPv4によりデータを収集し、そのデータを元にビル内の空調や照明・ブラインドなどを統合的に制御し消費電力の低減を図る実証実験を行っているが、同氏によれば同システムだけで約18%の省エネ効果を得ることができたという。同社では今後このシステムをIPv6化して一般に提供していく予定ということで、まずは手始めに来月10日にオープンする同社東京本社ビル(汐留)をIPv6ビル化していく意向を示した。
○IPv6を導入するにあたってのハードルも多数存在
しかしIPv6をこれらのシステムに導入していくには、現実にはまだまだ乗り越えなければならない障害が多数存在する。それはいったいどのようなものなのだろうか。
まず神牧氏が挙げたのは、RFIDのメモリ量やCPU性能が非常に貧弱なため、IPv6の処理を行わせるには現状ではまだ性能不足な部分がある点。例えばメモリ容量一つ取っても現在のRFIDでは最小128bitしかないケースがあるが、IPv6ではアドレス長だけで128bit使ってしまうことを考えると、IPv6の利用には何らかの対策が不可欠。またセキュリティの確保の面でも、IPv6ではIPsecが最初からプロトコル内部にビルトインされているもののIPsecの処理はかなり重い処理となるため、RFIDに搭載できるCPUのレベル(せいぜい4~8bit)を考えるとIPsecを簡略化するなり別の仕組みを使うなりする必要がある、と同氏は指摘した。
また矢野氏は、センサネットにおいて特に重要な「電池寿命」という問題を考えると、IPv6の処理を行うのには消費電力がまだまだ大きすぎ、当面は独自プロトコルを使わざるを得ないだろうとの見解を示した。同氏は無線通信プロトコルにも言及し、センサネットで必要とされる「数Mbps程度の速度の伝送を10mW程度の消費電力で実現する」プロトコルに該当するものがちょうど存在しない(ZigbeeやBluetoothでは遅すぎ、UWBほどの速度は必要ない)ことも問題として挙げた。
藤原氏が言及したのは「既存プロトコルとの共存」の問題。例えばビルオートメーションの世界では既に「BACnet」「LON(Local Operating Network)」といった業界独自の標準プロトコルが存在するため、これらのプロトコルに対応する既存システムを安価にIPv6化できるようにならないと現実の導入は厳しいのだとか。このような問題は様々な分野で見られることから、同社ではEMIT(Embedded Micro Internetworking Technology)という技術を使って様々なデバイスをIPv6対応させるべく開発を行っているが、今のところまだコスト面がネックになっているという。
○Mobile IPv6のBinding Updateを認証に利用
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| NTTネットワークサービスシステム研究所の高木康志氏 |
4人目のパネリストとして登場したNTTネットワークサービスシステム研究所の高木康志氏は、他の3人のパネリストとはやや異なる視点として、Mobile IPv6の仕組みを使ったビジネスへの応用例をいくつか挙げた。これまでMobile IPv6というと「移動透過性」の部分に着目した話題が一般的だったが、今回の説明で筆者が新しいと感じたのは、Mobile IPの基本的な仕組みである「Binding Update」をIPsecと組み合わせてユーザ認証に使う考え方。
元々Mobile IPv6では、移動端末がネットに接続したりIPアドレスが変わったりした場合に新しいIPアドレス情報をHome Agent(HA)に対して通知する(=Binding Update)ことで、外部からHA宛てに送られてきたパケットを移動端末に転送することができ移動透過性が確保されているが、全く関係ない第三者が勝手にBinding Updateを送っても受け付けないようにするため、Binding Updateを行う際にはIPsecによる認証・暗号化を行うことができる。この際に例えばISP側でHAを用意しておき、移動端末がネットに接続した際に自動的にBinding Updateを利用した認証を行ってしまえば、ユーザがいちいちID・パスワードを入力しなくても安全にISPが提供するサービスを利用できるようになるはず、というのが同氏の考え方だ。
同様に企業内にHAを設置しておけば、移動端末からネットに接続するだけで自動的にHAとの間にIPsecによるVPNセッションが張られ、機密データなどのやり取りを安全に行うこともできるし、家庭内にHAがあれば外出先から家電製品をコントロールする際の認証の手間が省けるなど、応用範囲は非常に広範囲に及ぶ。技術自体は以前からあったものの組み合わせだが、この提案を見ると考え方一つでまだまだIPv6の応用範囲は広がる可能性が十分にあると考えさせられた。
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| 司会を務めた東京大学の江崎浩氏 |
ちなみに今回の4人のパネリストは、RFID・センサネット・Mobile IPといずれも無線や移動体通信関連の分野を扱っているせいか、司会を務めた東京大学の江崎浩氏からは「どうも無線技術が鍵になりそうだ」といったコメントも聞かれた。特にRFIDやセンサネットではチップのリソース制限が非常に厳しいこともあり、同氏は「セキュリティに対するリアリティのあるイメージがまだ持てない」とも述べており、今後この分野では限られた計算資源や消費電力でいかにIPv6を実装していくかがポイントとなるといった雰囲気が伺えた。
(佐藤晃洋)
情報処理学会レポート
情報処理学会
http://www.ipsj.or.jp/
日立製作所
http://www.hitachi.co.jp/
松下電工
NTTネットワークサービスシステム研究所
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