【情報処理学会レポート】ウェアラブル 招待講演(2) - ウェアラブル×ユビキタス=Mixed Reality?

      [2003/03/28]

    次に、キヤノンの田村秀行氏による「複合現実型情報強化環境―モバイル、ウェアラブル、ユビキタスの次にくるもの―」では、複合現実感(=Mixed Reality:MR)に関する講演が行われた。

    キヤノンのMRシステム開発センター所長田村秀行氏

    現在キヤノンのMRシステム開発センター所長である田村氏は、1997年~2001年、MRシステム研究所取締役を兼務し、「複合現実感研究プロジェクト」を率いた実績を持っているMR研究における第一人者。

    MRとは、その名の通り、仮想世界のデータを現実世界に融和させ、体験者の目の前にリアルタイムでシームレスに提示させるというもの。

    仮想世界を現実世界に融合させるというと、真っ先にCG合成映画を思い出す人がいるかも知れない。実際、ハリウッドや日本の実写映画でCGを使用していない作品はほとんど存在しない。映画「ジュラシックパーク」などは最もわかりやすい例だろう。

    しかし今回のテーマであるMRは、それとは完全に異なるものだ。映画が、監督の意図した通りにしか見ることのできない一方的な映像であるのに対し、MRは、自分が見たい方向から自由にリアルタイムに見ることができるという特徴を持っている。

    そして仮想と現実を融合させるツールとして、キヤノンでは、光学シースルーHMDとビデオシースルーHMDを開発している。

    光学シースルーHMDとは、従来の視野が閉じられたHMDとは異なり、現実の景色を見ることができ、かつ現実の景色に、リアルタイムに生成し融合させた仮想の映像を併せて見ることができるという装置で、ビデオシースルーHMDとは、現実の景色をCCDカメラで捉え、その画像と仮想をコンピュータを使って融合し、装着しているユーザーに見せるという装置だ。ゆえに光学シースルーHMDは、網膜の上で現実と仮想を合成していることになる。

    しかし田村氏は、仮想の映像を現実の世界にリアルタイムに融合させるためには、大きな3つの問題をクリアしなければならないとしている。それは1.空間的ずれの解消、2.画質的ずれの解消、3.時間的ずれの解消である。

    空間ずれとは、現実と仮想との位置に関するずれを指す。それを解消する位置合わせの手段として、ジャイロやGPSのほか磁気センサや超音波センサを使うなど、複数の方法が考えられている。

    また、画質的ずれとは、例えば仮想物体を現実空間へ置いた場合、影のつけ方や現実空間の映り込みなどがうまく行われていないため、違和感を感じてしまうというもの。

    時間的ずれとは、現実の世界の仮想のデータを融合させる際にどうしても発生してしまうデータ処理時間によるタイムラグのこと。

    MRはさまざまな分野での応用が想定されるが、例えば実際に、映画撮影の現場に導入するといったことも考えられているという。現在、映画を撮影する際、前述の通りCGが多用されているため、例えば、俳優は、頭の中で想像したモンスターなどを相手に演技をしなければならない。しかし、HMDをつけて目の前のCGを見ながらリハーサルを行なうことで、より感情移入ができるため、演技がしやすくなる。また、監督やカメラマン側も、CGと合成した実映像をリアルタイムに確認できるようになる。もちろんサウンドなどのミックスも可能だ。

    一方、MRを取り巻く状況も年々変化している。現在、最も研究が進んでいるのが日本で、欧米はそれに追従している状況だ。また、田村氏は、当初、医療・福祉、防災などの分野での導入を主に想定していたが、現在は、エンタテインメントや展示分野からの引き合いが強いという。

    展示分野への応用を考えた場合のメリットやポイントとしては、次のようなことが挙げられる。

    ・人だかりや街並み、自然景観を借景できる
    ・CGで描けない造形物の本物感を圧倒できる
    ・目の前に実物大の仮想物を登場させられる
    ・目の前に超常現象を演出することができる
    ・限られた体験者だけが複合現実を堪能できる
    ・体験者以外も合成シーンを客観視できる

    このように、現実と仮想のバランスは演出者の腕次第であるため、田村氏は、「MRはクリエーターやアーティストにイマジネーションを与える技術である」という。

    講演では、展示物への応用例として、2001年3月15日にパシフィコ横浜で開催されたMR技術の評価イベント「MiRai-01」で展示された「今そこにあるMRカー」(http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/01/07/12.html)などが紹介された。

    今後、MRで注意すべき点として、HMDに関する解像度や視野角、装着感といった問題、位置姿勢センサの性能や価格により行動範囲が制限されることなどを挙げている。特に屋内で使用する場合は比較的簡単だが、屋外やワイヤレスでの使用は当分先のことになりそうとのこと。

    また、MRにとってHMDは必要かという点に関しては、本当はなしで済ませたいがこれに勝るソリューションが今のところ見つかっていないという。しかしながら、今後、各社がHMDの開発を行っていけば、装着感は必ず向上していくと予測される。

    田村氏は、近い将来、至るところにIT環境が整備されたユビキタス社会では、現実の世界が電子的な情報で強化された「情報強化環境」、特にMRで快適な生活空間を実現できる「複合現実型情報強化環境」が提供されていくだろうとし、講演を締めくくった。

    (山田久美 k-yamada@pc.mycom.co.jp)

    ウェアラブル 招待講演(1) - ザイブナー ウェアラブルPCのビジネス展開
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/03/28/13.html

    情報処理学会レポート
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/special/2003/03/27/01.html

    情報処理学会
    http://www.ipsj.or.jp/

    キヤノン MRシステム開発センター
    http://www.mr-system.com/canon-mr/

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