【レポート】スーパーSINETを使った最先端研究 -素粒子/核融合/天文学の未来を変えるか?

      [2003/03/20]

    日本が誇る学術研究機関向けの超高速ネットワーク「スーパーSINET」。同ネットワークは10Gbpsのバックボーン回線を利用し、昨年1月の運用開始以来、すでに国内23機関が接続されているが、以前本誌でお伝えしたITBL計画などでも利用されるなど、学術研究分野の基幹インフラとして、すでになくてはならない存在となりつつある。19日、スーパーSINETに関する情報交換の場として「第二回スーパーSINETシンポジウム」が開催され、現状に関する報告や、現在進められている研究の紹介などが行われた。

    シンポジウムの冒頭、挨拶にたった国立情報学研究所長 末松安晴氏は、「各国が学術用ネットワークの高速化を競っているが、バックボーンが10Gbpsで運用されているのはスーパーSINET以外にはない」と述べ、この分野での日本のアドバンテージを強調するとともに、「このシンポジウムを通じて、様々な考えを発表し、活発な議論を行ってほしい」と、シンポジウムへの期待を述べた。

    ○スーパーSINETの現状

    スーパーSINET接続機関
    スーパーSINET推進協議会委員長 淺野正一郎氏より、スーパーSINETの現状について説明があった。スーパーSINETを使った研究には、「高エネルギー・核融合」「宇宙科学・天文学」「遺伝子情報解析」「ナノテクノロジー」「GRID」などの分野があり、それぞれの研究部会が同協議会内部に設けられている。従来、これらデータ量が膨大になる研究においては、実験/観測設備と研究室間での大量のデータのやりとりが難しかったが、通信回線が高速化されることにより、様々な問題が解決されると同時に、研究機関同士の連携も可能になると、スーパーSINETの意義を述べる。

    ネットワークには現在、北は北海道大学から南は九州大学まで、国内の大学・研究所など23機関が接続されており、昨年10月の時点で、ネットワークの総延長距離は6,000km、総通信容量は約300Gbpsにも達しているということだ。現状はデータ・グリッド的な利用がほとんどとのことだが、ITBLが利用し始めていることもあり、今後はコンピューティング・グリッドも徐々に増えていくことになるだろう。

    また、現在の23機関に加え、今年10月にはさらに5機関が接続される予定であるほか、今年4月より開始の「ナショナル・リサーチグリッド・イニシアティブ(National Research Grid Initiative:NAREGI)」でも活用されるとのことで、今後も利用がさらに拡大していくことになりそうだ。

    ○素粒子物理学とスーパーSINET

    実際の利用例として、各研究部会よりスーパーSINET関連の研究が紹介された。高エネルギー・核融合研究部会からは、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 素粒子原子核研究所の片山伸彦氏が登壇し、氏が現在研究している素粒子物理学とスーパーSINETについて説明した。

    素粒子物理学は、物質の最小構成要素である素粒子(クォークや電子・ニュートリノなど)や、それらと密接に関わる4つの力(重力・弱い力・電磁気力・強い力)などを研究する学問だ。こういったミクロな世界は目に見えないだけに、理論を実験で実証することが非常に重要となってくる。氏はそういった素粒子物理学とIT技術の関係について、実験結果の解析にIT技術は不可欠とした上で、現在のインターネット技術の基盤ともなっているWEB(World Wide Web)が欧州核物理学研究所(CERN)において開発されたこともあげ、「(素粒子物理学は)過去40年間、IT技術の発展に貢献してきた」と述べる。

    Belle検出器。画面中央下の人影から分かるとおり巨大なもの
    Belle実験での成果。物質と反物質の性質の違いを発見

    素粒子研究で扱うデータ量は膨大なもので、例えば氏が所属するKEKのKEKB加速器(世界最高輝度を持つ加速器で、現在世界記録を更新中)を使ったBelle実験では、数百万のセンサーが検出器に組み込まれており、データ量は0.5~3PB(ペタバイト)、データ処理は数~20テラフロップスにも達するという。スーパーSINETはこの実験において、実験データを保持するKEK計算科学センターと、共同研究先である名古屋大学(データ通信量:1TB/日)、東北大学(同 400GB/日・NFSでマウントして使用)などの各大学と接続しているほか、現在1Gbpsで接続されているBelle測定器との間も今年末には10Gbpsに更新する予定で、「既にBelleネットワークの大動脈」という状態にあるそうだ。

    氏は、スーパーSINETのような高速ネットワークで世界中の研究機関が接続されるようになれば、世界各地の研究者が時間的・空間的な制限を越えて新しい研究アイデアを実現できるようになり、新しい発見の可能性が飛躍的に増加する、と期待する。素粒子物理学では未だ解明されていないことも多く、こういった様々な取り組みにより、将来ノーベル賞クラスの発見がされることになるかもしれない。

    ○天文学でもスーパーSINET

    VLBIの概要図。基線とは、観測局間の距離のこと
    宇宙科学・天文学研究部会からは、国立天文台の川口則幸氏より、最近の研究成果などについて紹介された。氏が行っている観測は「超長基線電波干渉計(VLBI)」と呼ばれるもので、遠距離にある2つ以上の電波望遠鏡を使い、それら観測データの干渉縞などから天体の情報を得たり、電波の遅れ時間から観測局の位置を高精度に測定したりすることができるというものだ。

    その歴史は古く、氏によるとすでに「35年経過している技術」ということだが、ネットワークが発達していなかった時には、観測データをそれぞれの局で記録し、それを磁気テープで1カ所に運んで計算したという。それが近年のネットワークインフラの発達によりオンライン処理が可能となり、運用が容易になったほか、リアルタイムでの相関処理も可能になった。ただ、現在、ネットワーク接続を利用した観測は各国で行われているものの、主流はまだ256Mbps程度で、氏の研究のように4Gbpsという広帯域を使ったものでは、より制限の少ない観測が可能とのことだ。

    試験観測ネットワーク。三鷹-筑波間でスーパーSINETを利用
    同ネットワークで初めて観測したフリンジ(干渉縞)

    この研究では、宇宙科学研究所臼田64mアンテナと国土地理院筑波32mアンテナを利用しており、それぞれから三鷹の国立天文台解析研究棟へ4Gbpsのネットワークで接続されている。この三鷹-筑波間でスーパーSINETが利用されているとのことで、昨年11月より本格的に運用が開始されている。

    最近の成果としては、日本初の火星探査機「のぞみ」(来年1月に火星到着予定)の軌道決定や、待ち受けVLBI観測による「3C84」の通過検出に世界で初めて成功したことなどが紹介された。さらに、未確認天体の存在を明らかにしたという話まで飛び出したが、これについては「来週の天文学会で発表する予定なので、今日は控えさせていただく(笑)」とし、詳細については明らかにされなかった。

    (大塚実)

    【レポート】第二回PCクラスタシンポジウム - 試行段階から実用段階へ
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/02/25/07.html

    【レポート】ネット上に巨大な研究環境を実現させる「ITBL計画」(1)
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/02/18/05.html

    国立情報学研究所、10Gbpsの学術情報ネットワークを運用開始
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/01/10/18.html

    国立情報学研究所(NII)
    http://www.nii.ac.jp/index-j.html

    学術情報ネットワーク(SINET)
    http://www.sinet.ad.jp/

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