【IDF Spring 2003レポート】次期グラフィックスインタフェースとしてのPCI Express

次第に現実のものに近づいてゆくPCI Express。今回デモショーケースではNECがx4の動作デモを行っていたほか、基調講演の中ではIntel製のシリコンによる初の動作デモも示されるなど、着々と開発は進んでいる。で、最初に適用されるものは何か?という話だが、ディスクリートグラフィックがかなり急速に立ち上がる可能性が出てきた。現在、ディスクリートのグラフィックはAGPバスを利用して接続するのが一般的だが、これをx16(16bit幅)のPCI Expressで置き換えようという動きである。

○スペックは良いこと尽くめ

現在AGPバスはAGP 8Xに達しており、その転送速度は最大2.1GB/secに達している。ところがこの先に関して、AGPを更に高速化しよう(つまりAGP16X)という話は殆ど聞こえてきておらず、PCI Expressへ移行するという話である。AGPに関してイニシアティブを握っているIntelがPCI Expressへの移行を強く望んでいる以上、この流れ自体は不思議ではない。ちなみに両者のスペックを比較するとこんな具合になる。

名称 BaseClock バス幅 DataRate 帯域
AGP 1X 33MHz 32bit 66MHz 266MB/sec
AGP 2X 33MHz 32bit 133MHz 533MB/sec
AGP 4X 33MHz 32bit 266MHz 1.05GB/sec
AGP 8X 33MHz 32bit 533MHz 2.1GB/sec
PCI Express x1 2.5GHz 1bit双方向 2.5GHz 250MB/sec(500MB/sec)
PCI Express x2 2.5GHz 2bit双方向 2.5GHz 500MB/sec(1GB/sec)
PCI Express x4 2.5GHz 4bit双方向 2.5GHz 1GB/sec(2GB/sec)
PCI Express x8 2.5GHz 8bit双方向 2.5GHz 2GB/sec(4GB/sec)
PCI Express x16 2.5GHz 16bit双方向 2.5GHz 4GB/sec(8BB/sec)
(注:PCI ExpressはEmbedded Clockになっているので、10bit転送することで1Byteのデータが送られる)

Photo01:確かにグラフィック向けのバス幅を考えると、2004年あたりにPCI Expressが利用されるのは賢明な選択だろう

AGPはこれまで266MB/sec→533MB/sec→1.06GB/sec→2.1GB/secとスピードを上げてきたから、この後継になるものには4GB/sec程度のスピードは必要で、そうなるとx16のPCI Expressを採用するのはきわめてリーズナブルな選択ということになる(Photo01)。

Photo02:とりあえず最初は、North Bridge(Memory Bridge)とI/O Bridgeの間は独自リンクで接続されている。これがPCI Expressに置き換わるのはこの次の世代になるのかもしれない

この結果、PCの構成はこんな形(Photo02)になる。基本的には、従来ビデオカードがAGPバスに接続される形で特別扱いされていたのが、単にバス幅が広いだけで、通常のデバイスという形に戻った扱いだ。

これによるメリットとして、従来必要だったGARTドライバが不要になる他、パフォーマンスの向上やデザインコストの低下、レイアウトの柔軟性などメリットがあるとされている(Photo03)。詳細なスペックの違いをまとめたのがPhoto04である。ちなみに、既にプリシリコン(量産前の評価用チップ)を使った検証用テストベッドも存在することが明らかにされた(Photo05)。

Photo03:PCI Expressを利用することで、グラフィックカード→メモリ向けにも4GB/secの帯域が保証されることになった。それがどういう用途に効果あるか、という話はまた別だが 
Photo04:AGPは最初の世代で既に2xがあったので、4xが第2世代、8xが第3世代に相当する。基本的には、ほぼすべての項目でPCI Expressが優れている
Photo05:AGPバスの代わりにx16のPCI Expressコネクタを装備し、それとは別にx1のPCI Expressコネクタを装備する。ただ肝心のノースブリッジにあたるチップはまだ未搭載だ

○実は色々な制約が……

さて、例えばレイアウトの柔軟性に関しては、従来のAGPバスが等長配線を実現するためにずいぶん苦労していたのは周知の事実なので、一見PCI Expressが有利に見える(Photo06)。ところが、PCI ExpressはDifferential(差分:2本の信号線を使って1つの信号を送る方式)なので、この2本に関しては完全に長さが一致しないといけない。また、ビア(基盤上の端子)と信号線の取り付け角度も対称になることが望ましいといった制限がある(Photo07)。また、2.5GHzという高い周波数の信号を通す関係で、確かに既存のFR-4(一般的な基盤の材質)を使った4層基盤で作成はできるものの、その配線の断面積や周囲の構造には細かい制限がつく(Photo08)。

Photo06:AGPはパラレルバスなので、配線による遅延が信号線同士で異なるとまともに動作しない。その結果、無理やり配線を折り曲げて長さを合わせることになる。PCI Expressはシリアルバスなので、x16であっても各々の遅延時間が異なっていて構わない(コントローラ側で吸収できる) 
Photo07:別のプレゼンテーションでは、右下の様な折り曲げ配線をする場合の寸法の定義があったが、かなり半径を大きくとらないといけないことになっている
Photo08:一応4層でOKとしながらも、「配線をより大きくした6層以上がBetter」というコメントがあるあたり、なかなか敷居が高いことをうかがわせる

電源に関しても同様だ。PCI Expressでは+3.3Vと+12Vの両方が供給される一方、+5Vの供給がなくなってしまった(Photo09)。供給能力では+3.3Vが10W、+12Vが50Wで合計60Wとなり、これは既存のAGPに比べてずっと大きくなるから一見供給は楽なのだが、実際にはビデオカードでは各種の電圧を必要とするから、結局ビデオカード上に電源回路を用意してこれらの電圧を作り出してやらねばならない(Photo10)。ハイエンドのビデオカードは既にこれを行っているが、今で言えばGeForce4 MXクラスのものでも電源回路の搭載が必要になるわけで、これはビデオカードベンダーにとってあまり嬉しくはないだろう(Photo10)。マザーボード側にとっても、+12Vラインを最低限の電圧降下で供給する必要があるとしているが、既存のPentium 4や、AMDでもAthlon 64系はいずれもCPUへの電力供給に+12Vラインを使う。したがって、内部の配線ではここに引きずられないよう、12Vラインを分ける必要がある訳で、ちょっと設計が面倒になりそうだ。

Photo09:発熱は電流に比例するから、電圧を上げる方が供給は容易になる。したがって考え方としては、+5V→+12Vに上げることは正しい 
Photo10:ATIのプレゼンテーションより。ディスプレイ信号に5Vが必要なため、わざわざ5Vを作らないといけない。これを避ける場合、アナログVGA出力をやめて(アナログ無しの)DVI出力にする必要がある

ちなみにビデオカード側からすれば、既存のAGPはどんなに大きくても42W程度しか供給されなかったから、上限が60Wになるのは喜ばしいというスライドを用意していたが(Photo11)、セッションが始まる前に用意されていたスライド(Photo12)では、この先を考えると、こんなものでは全然足りないという予測が出ているなど、ちょっと先行きの難しさを感じさせた。

Photo11:ここだけ読むと「PCI Expressは将来のハイエンドビデオカードにも最適」とか読める訳だが…… 
Photo12:セッション直前に差し替えられた幻のスライドその1。高速化に伴い、グラフィックコアとメモリの消費電力が急激に上がるため、来年後半には60Wでも足りなくなると予測されている。ちなみに来年前半にちょっと減るのは、130nmプロセスに移行するR400で、2006年後半に150Wを超えるのは順序から行けばR700になる、と気が付いたのは一緒にセッションを受けた後藤 弘茂氏である。氏の記事にもそのあたりの話が詳しい

更に激しかったのが放熱対策である。PCI Expressでは、カード周辺の温度を現在の55~65℃から50℃まで下げることが要求されている。これはボード上の信号の伝達特性が変わる事を恐れての事と思われる(マザーボードに使われるFR-4という材質は、「耐熱特性が4番目に良い材質」という意味で、従ってFR-3とかFR-2にすればより温度は上げられると思うが、今度はコストが跳ね上がる)が、この結果、必ずカードに冷却風を当てる事が求められるようになった(Photo13)。実際サンプルレイアウトでは、ものすごい構造が求められており、既存のATXケースそのままでは通用しない場合も出てきそうだ(Photo14)。

Photo13:"-May require air directed to graphics; ducting"なんてさらっと書いてあるが、要するにGeForce FXのFXFlowの様なエアダクトが必要という話である 
Photo14:右側のエアフローに注目。外気を背面ファンから吸気し、CPUを経て各カードモジュールと電源、それに前面ファン(!)から排気するという仕組みが必要という話だ。前面ファンをひっくり返すくらいで済めばいいのだが、大体カードの背面からどうやって排気するのか?とか色々課題は多そうだ

またリテンションモジュールについての言及もあった。AGPでは250gを超えるカードは(公式には)サポートされず、一方PCI Expressは450gまで行けるので大丈夫、というのがセッションで示されたスライドだ(Photo15)。ところがこれにも隠されたスライドがあり、まずIntelは現在450gを超える重量に耐えるリテンションモジュールをPCI SIGに提案しており、これでカバーできるという話を書いている(Photo16)のに対し、ATIでは(おそらくIntelの提案している)リテンションモジュールをビデオカードに使うのは非常に困難であり、カード各々が独自のリテンションモジュールを用意する必要があるだろう、と見事に見解がぶつかっている(Photo17)。

Photo15:都合の悪い話が綺麗に消えてしまった最終的なスライド 
Photo16:RMというのはRetention Moduleの略と思われる
Photo17:ALL-IN-WONDER RADEONを例に、Intel方式らしいリテンションモジュールが使えないことをアピールするATIのスライド。大体ALL-IN-WONDER RADEONやらnVIDIAでもGeForce FXなどは現状でも軽く450gをぶっちぎっている訳で、もう少し考える必要がある。またAGPも、独自にラッチ機構を用意したものは少なくない訳で、現状のPCI Expressのスペックは下手をするとAGPにすら劣ることになりそうだ

○というわけで

スライドが3枚も挿し変わった理由はわかりやすい。IntelとATIで全然見解が違うなんて様を見せては(特に普及に向けての展望を示している際には)具合が悪いのは当然だし、特に消費電力に関しては、R700あたりまでの消費電力の展望が見えてしまうのはATIにとっても都合は悪いだろう。とはいえ、おかげでまだまだ不協和音というか、解決すべき課題が残っている事が明らかになったのは(偶然とはいえ)大きな収穫だった。このあたりが今後どう収束してゆくか、が気になるところだ。特にぐんぐん増える消費電力や放熱対策も気になるし、2006年にビデオカードの消費電力が150Wにも達する際、CPUやその他の消費電力がどの程度になっているのか?その時点の電源には一体どの程度の容量が要求されるのか?とか、ちょっとだけ先行きが怖くなるものを感じたのが正直な筆者の感想だ。

(大原雄介)

【News Special】IDFレポート
http://pcweb.mycom.co.jp/news/special/2003/02/08/02.html

PCMCIA、PCカードの新仕様「NEWCARD」を策定へ、対応製品は2004年に登場
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/02/20/27.html

米インテル、PCI Express技術の製品計画と導入支援プログラム発表
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/02/20/18.html

米インテル
http://www.intel.com/

PCI-SIG
http://www.pcisig.com/



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