【レポート】人間-コンピュータの共存、そしてコンピュータを着る暮らし - PAGE2003講演

日本印刷技術協会は5日より3日間の日程で、印刷関連産業の展示やセミナーなどを行う総合イベント「PAGE2003」を開催した。初日には「大転換するメディア環境」をテーマに、明治大学理工学部情報科学科 理工学部長の向殿政男氏と、大阪大学大学院情報科学研究科助教授の塚本昌彦氏が基調講演を行った。

○「人に迫るコンピュータ」

明治大学理工学部 向殿政男氏

ファジィ理論を中心に情報科学を研究する向殿氏は、コンピュータの知的処理は今後どこまで人間に近づけるかについて講演した。AI(Artificial Intelligence:人工知能)の歴史を振り返ると、人工知能研究計画会議として1956年にアメリカで開催された「ダートマス会議」に行き着く。そこでHerbert A. Simonによって「コンピュータは10年後には 1.チェスの世界一になる、2.新しい数学の定理を証明する、3.人間の心理を読む」という3つの予想が行われ、10年以内という期間については無理だったものの、1と2については実現されている。しかし、3番目の予想が現実となる見通しは未だに立っていない。

コンピュータの計算スピードや記憶容量は既に人間を越えているにもかかわらず、人間の心には到底到達できない、その根本的な原因は「標準系・ルールの無いところではコンピュータは何もできない」ことにあるという。さまざまな状況と解決方法を記憶させることで、問い合わせに対し専門家のように答える「エキスパートシステム」も、過去に類似した状況がなければ役に立たない。人間は必ずしもルールに従って行動を決定しているわけではなく、過去の原理の無い場面でも状況を見て何らかの行動をすることができる。

愛玩用のロボットなど、感情表現に成功しているかのように見える事例はあるが、それらも人間の思考メカニズムをそのままコンピュータ上に移植できたわけではなく、ロボットの反応を見て人間の側が「ロボットはいま喜んでいる」などと勝手に解釈しているに過ぎない。

元々はAI研究の一テーマだった自然言語処理、画像処理、音声認識、ロボット型検索エンジンなども、時間を経るに連れて次々に独自の研究分野として分化していった。そうすると最後に残るのは、「認知する」「意図する」といった人間の知能の本質が何かを探求する「見果てぬ夢を追い求める研究」ではないかと向殿氏は話す。そしてその解明は「不可能ではないか」ともいう。同氏は、AI研究の進むべき方向は、人間の知能を作りあげることよりも、人間とコンピュータそれぞれの得手不得手を見極め、「お互いに得意なところを出し合う」共存によって問題解決や社会の安全に役立てるものだと述べている。

○「コンピュータを着て暮らす」

大阪大学大学院情報科学研究科 塚本昌彦氏 写真で装着しているのは新開発(休日に研究室で塗装)した女性向けカラーのHMD

腰と頭にそれぞれ3つのコンピュータおよびディスプレイを装着して登場した塚本氏は、2001年4月から始めたウェアラブルコンピューティングの実践について「研究者の間で他にも始める人がいると思っていたが、現在まで孤独な装着生活が続いてしまった。そして意外なほどに反響が大きく、やめるにやめられない状態。たまに外していたときに人に会うと『今日はどうしたの?』なんて言われてしまう」といい、実はプレッシャーを感じてもいると打ち明ける。

コンピュータを"着て"使う、特にディスプレイを頭部に装着することの意義については、携帯電話の画面を例に挙げて説明する。現在は通話やメールの着信、時計を見るときくらいしか画面を見る必要は無いが、それでも塚本氏の場合、1日に30回ほどポケットから電話の出し入れをするという。そして今後、携帯電話がユビキタス情報サービスのビューワとして使われていくことは間違いなく、1日に100回以上携帯電話を取り出さなくてはならなくなる。そのような「常に情報を受信する時代」には、いちいち取り出さないと見られないビューワは適していない。

また、他の人と映像や音を共有するという使い方が非常に重要だという。仲間と「昨日こんなことがあった」などと話をするとき、皆がディスプレイを装着していれば写真や動画を交えた会話ができる。また、日常にもBGMや効果音を入れることで場を盛り上げることができる。こういった機能は「必要性は少ないかもしれないが、これが当たり前になったらもう元には戻れない。いくら面白いエピソードを話しても『お前映像もないのか』と言われてしまうだろう。こういう演出をうまくこなせるのがデートの達人、宴会の達人、そしてプレゼンや会議の達人になる」という。

「モバイル」や「ユビキタス」という言葉と並列で語られることが多い「ウェアラブル」だが、決定的に異なるのは、前者2つは5~10年のスパンで徐々に浸透していくのに対し、ウェアラブルはあるタイミングで突然広がることだという。それは、ウェアラブルは「中身は二の次」で、「これが便利」というアプリケーションの問題ではなく、「これがかっこいい」というファッションの問題であるからだとする。また、身につけるものなのでよく目立ち、メディアなどにも取り上げられやすい。

もうひとつ、ウェアラブルコンピューティングは、宇宙開発やナノテクなどと異なり、既に存在する技術の組合せで実現できることも、他の研究分野にない特徴。インターネットがそうであったように、ひとつひとつは既存技術の寄せ集めでも、多数になると大きな変化になる。「街の中でこんな電話機をみんなが持ち歩く……あと10年経ったらそんな風景を懐かしむことになるだろう」

そして最後に塚本氏は「『いつも同じことを言っている』と言われるかもしれないが、いつも違ったことを言っているほうが問題だ」としながら「いつもの予言」を紹介。「しかし私は予言者ではなく当事者。ウェアラブルは既に十分ポテンシャルがあるものなので、『1年以内にブレイクする』と皆さんやメーカーの方々に伝えるとともに、そのつもりで行動していく。皆さんもそのつもりで動きましょう」と述べ、講演を締めくくった。

(日高彰)

【インタビュー】コンピュータを着て暮らすウェアラブルな大学助教授(1)
http://pcweb.mycom.co.jp/digitable/interview/2003/106/

【レポート】コンピュータがもっと身近になるIWEC2002開催中(1)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/05/16/09.html

日本印刷技術協会 PAGE
http://www.jagat.or.jp/PAGE/



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