情報処理学会「連続セミナー2002 次世代ネットワークにおける基幹技術」の1日目には「ユビキタスコンピューティング技術」をテーマに、その動向と今後の研究課題について、講義およびパネル討論が行われた。
○「インターネット"も"重要」東京大学 坂村健教授
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東京大学 坂村健教授
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昨年はTRONを利用した組み込みコンピュータの開発基盤「T-Engine」を始動させ、最近では物を識別するためのユニークな識別子を整備する「ユビキタスIDセンター」の設立を発表した、東京大学教授の坂村健氏。
ユビキタスIDセンターを設立すると言えば、マサチューセッツ工科大学の「オートIDセンター」に対抗するのかと見られ、eTRON(Entity TRON、情報流通のためのセキュリティ基盤)での通信の必要性を挙げれば、インターネットプロトコルに対する挑戦と見られるなど、坂村氏が提唱するものは何かにつけて既存技術との競合と見られがち。しかし坂村氏は「戦っているわけではない」という。新たなシステムを構築する場合でも、従来と同様の問題は起こり得るので、優れた環境を作り上げるためには過去50年のコンピュータ研究の蓄積が役立つとする。氏がユビキタスコンピューティング研究でやりたいことはインターネットではないが、ネットワークのひとつとして「インターネット"も"重要」だと強調する。
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「グローバルよりローカリティ」
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坂村氏は、ユビキタス社会到来のためには「基盤技術」「開発体制」「運用体制」の3つを確立しなくてはならないとする。基盤技術としては、超小型チップのほか、GPSの使えない室内でも位置特定を可能にする技術、近接通信技術、近接通信が利用できない場合通信路を無線LANやPHSなどにシームレスに切り替える技術などの開発が必要。開発体制としてはT-engineを、運用体制としてはユビキタスIDセンターを挙げた坂村氏だが、特に「ひとつのプラットフォームではユビキタスは実現できない」ことについて詳しく説明する。PCはx86アーキテクチャのCPUが圧倒的だが、組み込み機器にはさまざまなプロセッサがある。また、IDを付与するセンターも「それぞれの国で立ち上げるべき」とし、ユビキタスは各国の商習慣や法律などに合った形で普及する「グローバルよりローカリティ」を重視するものであると述べた。
○「システムが適材適所を認識する」東京大学 青山友紀教授
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東京大学 青山友紀教授
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ユビキタスコンピューティングを含め、将来のネットワーク社会はどうあるべきかについて研究する東京大学教授の青山友紀氏は、「ユビキタス」という言葉の認知度について「『ITの次はユビキタスだ』とばかり、永田町や霞ヶ関でもこの言葉が通用するようになった」と話す。そしてユビキタスのスローガンのように言われるのが「いつでも、どこでも、何でも」だが、これはインフラを提供する側の視点であり、「いまだけ、ここだけ、これだけ」利用できれば良いというユーザーの立場に立った考え方も必要なのではないかと指摘する。多様な端末がある中で、その場その時に応じて最適な端末をシステムが自動的に選定するような「適材適所」こそがユビキタスで得られるメリットであり、何でもかんでもが重要なのではない。
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Dolphin
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青山氏の研究室では、ユビキタスコンピューティングに関連したさまざまな機器を取り付けて実験を行える「ユビキタステストベッド」を設置している。そこで研究されている技術のひとつ「Dolphin」は、超音波パルスを利用した位置情報取得システムで、±約5cmの精度で測位できる。天井または床に一定の密度でセンサーを設置する必要があるが、センサーの位置決めを容易にできるよう、最初に3つほどのセンサーを手動で正確に設置すれば後はその周りのセンサーが自動的に位置を決定するという、再帰的な設定システムを目指している。
青山氏は講演中「ユビキタスであれができるこれができると叫んでも、『あれば便利』というだけでは普及しない。カメラ付き携帯電話のように、大きくブレイクするキラーアプリケーションが必要なのではないか」ともコメントしている。
○「既存の物理空間をユビキタス化する」慶應義塾大学 徳田英幸教授
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| 慶應義塾大学 徳田英幸教授 |
慶應義塾大学教授の徳田英幸氏は「Smart Space」についての研究を行っている。徳田氏は、Smart Spaceを「(広義では)あらゆるものがネットワークにシームレスにつながり、人々の行動支援を行うことができる知的情報環境」と定義している。この分野での研究には、マイクロソフトの「EasyLiving」、ジョージア工科大学の「Aware Home」などがある。
徳田氏の研究室では、壁の中にさまざまな機器を埋め込むことのできる研究スペースを構築。部屋の中にもうひとつ部屋を作った「Box-in-the-box」の構造になっている。ここで基礎研究を行い一定の成果を上げたが、実験スペースまで行かないとユビキタスのメリットが得られないという反省点がある。Smart Space実現のために、部屋や駅など既存の空間を、実験スペースのように大きく変更するのは手間も費用もかかる。そこで、研究の第2段階として取り組んでいるのが「Smart Furniture」だ。
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Smart Furnitureの試作機
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Smart Furnitureは、スタンドライト型やテーブル型など一見普通の家具に見えるが、その中にネットワーク機器や無線タグのリーダーや各種センサーなどが入っており、既存の空間に設置することでその空間をSmart Spaceに変える。近づいた人のスケジュールデータを自動的に表示したり、イスに座るとその人の好きな音楽が流れたりといったサービスを提供できる。公共の場所なら、例えばバス停のポールの形をしたSmart Furnitureを置いて、バスを待つ人の携帯電話に時刻表をダウンロードするといったことも可能だ。ただし、スタンドライト型のSmart Furnitureは、女子学生からはデザインが不評だったということだが……。
徳田氏は、ユビキタスアプリケーションは「非ITの人たちに使っていただかなくてはいけない。そういった層にいかに浸透していくか」を考えなければならないと話す。
【レポート】情報処理学会セミナー - ユビキタス実現への課題を議論(2)
へ続きます
(日高彰)
【レポート】情報処理学会セミナー(1) - 携帯電話はどんな進化を見せるのか
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「TRONSHOW2003」開幕 - 早くもT-Engineを利用した応用製品が登場
情報処理学会
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