【レポート】量子コンピュータとは(2) - 鉄腕アトムの時代に向けて

○量子コンピュータの実現に向けた問題点

前述のように、量子コンピュータは適切なアルゴリズムが与えられれば、極めて力強いパフォーマンスを発揮するが、高柳氏によると、現在はまだアルゴリズムの開発が不十分であり、現在の古典コンピュータが実現している汎用計算機の機能を量子コンピュータで実現できる目処は立っていないという。因数分解問題、離散対数問題のような限られたいくつかの問題について、量子コンピュータを用いて効率的に問題を解くアルゴリズムが提示されているに過ぎないのだ。従って、今後量子コンピュータが発展していくためには、数学的なアルゴリズムの研究の発展が欠かせないという。

また、実験的にもさまざまな困難が指摘されている。まず、qubitを作る難しさがある。コンピュータでは初期化、という操作を行うが、量子コンピュータではqubitを担う適切な物理系を用意し、それに対してある物理的操作を与えて、状態が重ねあわされた所望の初期状態を作り出せなければならない。次に、そのqubitを集積化する困難さがある。そして、それらのqubitsに対して物理的な入力を与えて演算の操作を行っていくが、その際、演算機内部の状態が測定されてしまうような外部からの干渉を避けなければならない。量子状態が確定されるような干渉が起こると、計算結果がおかしなことになってしまうのである。これはデコヒーレンスの問題と呼ばれており、十分に長いデコヒーレンス時間を得ることが必要となる。長いデコヒーレンス時間の実現は困難だといわれていたが、最近では誤り訂正の理論と組み合わせて実用化への手法が探られているようだ。また量子ワイヤの問題も指摘されている。重ねあわされた量子状態をそのまま伝送できる"電線"の機能を実現することが必要である。

○量子コンピュータの実験的研究

こうして問題点を説明すると、極めて実現が困難な機構に思われてくるが、実際にはいくつもの目覚しい研究成果が得られてきているようだ。IBMは原子のスピンをqubitとし、NMR(核磁気共鳴)装置を読み取り装置として用いて、1998年に2qubits、1999年に3qubits、2000年に5qubits、2001年に7qubitsの量子演算器を実現、7qubitsの量子演算器を使って15=3×5の素因数分解を行ったと発表している。

NTTの高柳氏のチームでは、超伝導リングを使った巨視的量子ビットを使った研究を行っている(その他2つの手法も平行して研究している)。超伝導リングは極低温で超伝導状態となり、永久電流が流れている。ここで、超伝導リングに外部から加える磁場の大きさを調節すると、超伝導リングに中間的な状態を作り出すことができる。その状態ではリングに右向きに電流が流れている状態と、左向きに電流が流れている状態が同時に実現しており、測定の度にある比率で確率的にどちらかの電流値が得られる。これは、巨視的な量子力学的重ね合わせの状態が実現していることとなり、1qubitが実現できていることになる。高柳氏のチームでは、この超伝導リングの状態を、一回の測定で読み出すことに成功している。更に量子力学的重ね合わせによって形成されたより高いエネルギー状態(第一励起状態)の単一回測定にも成功しており、このような巨視的な量子力学的重ね合わせの状態を直接実験的に観測したのは初めてのことだという。

 NTT先端技術総合研究所厚木研究開発センター
 量子コンピュータ棟

高柳氏のチームでは今後、2つの超伝導リングを組み合わせて量子回路の基本的な量子ゲートである制御NOTゲートを作り出すことに力を注ぐという。2qubitsの実現のためには、2つの超伝導リングが"量子もつれの状態"を形作る必要があるといい、困難な問題だが、今後2~3年のうちに成果が得られると期待しているという。その後は3qubits以上、そして多qubitsの実現に力が注がれるが、高柳氏によると、現在量子コンピュータを実現できる可能性がある多数の物理的装置、例えば半導体、超伝導、光、スピン、などが研究されている中で、こうしたqubitの集積化の研究の過程を経て、利用できる固体素子が絞られていくだろうという。そこではナノテクノロジー、分子、バイオ技術が大きく使われていくだろうとしている。また、数学的なアルゴリズムの研究は継続して行っていく必要があるとしている。

○量子コンピュータの将来像

高柳氏によると、量子論理ゲートとその集積化、および量子コンピュータ用のアルゴリズムの開発が順調に進めば、量子コンピュータ社会が実現されるだろうという。そこでは、瞬時の情報検索、超高速生体シミュレーション、超高速第一原理新材料シミュレーション、完全な天気予報などが実現されるだろうとしている。

世界に目を向けると、米国を中心に欧州、豪州、シンガポールなどでも開発が進められており、日本ではNTTのほかNECも国内におけるパイオニアとして研究に力を入れているという。神奈川県厚木市にあるNTT物性科学基礎研究所では、隔年で量子コンピュータの国際会議を開催しており、2002年3月にも世界中の主だった研究者が集結し、熱心に議論を行うなど盛況だったという。本格的な実用化にいたるまでにはまだ20年から30年以上かかると言われているが、開発に成功した際には人知を大きく超える巨大な知能が生まれている可能性はないだろうか。鉄腕アトムの時代を創る革命的技術が今、芽吹こうとしているようだ。

(古林高)

【レポート】量子コンピュータとは(1) - 暗号を短時間で破る超高速性能の秘密
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/01/01/05.html

IBM、試験管内の量子コンピューター実験に成功
http://www-6.ibm.com/jp/NewsDB.nsf/2001/12201

NEC、世界で初めて固体電子デバイスによる量子コンピュータの回路開発に成功
http://www.labs.nec.co.jp/Topics/data/r990428/index.htm

NTT先端技術総合研究所
http://www.sctlg.ecl.ntt.co.jp/profile/

NTT R&Dフェロー 高柳英明氏
http://www.sctlg.ecl.ntt.co.jp/fellow/takayanagi.html



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