【レポート】ユビキタス時代を担う"Embedded Processor"(1) - 増大する需要

皆様、あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。
と言う事で、新年最初の原稿がこれかいっ! という気もしなくもないのだが、編集長の強いご要望もあり、組み込み向け用途に使われるEmbedded Processorに関する動向を簡単にご紹介したい。

○Embedded Processorって何ぞや

という方が結構居られるとは思うが、日本語にしても「組み込み(向け)プロセッサ」となるだけで、問題はあんまり解決していない。広義には「非PC向けプロセッサ」ということになる。例えば身近な例でいえば炊飯電子ジャーだの洗濯機だの、「マイコン内蔵」とか書いてあるものに利用されるのがこのEmbedded Processor。「要するにCPUパワーが低いものか」といわれると、そうとも限らない。例えばカーナビや最近だとHDDレコーダー、PDA/携帯/etc...の携帯家電には当然入っているが、これらはPentium 4/3.06GHzには当然敵わないものの、それほど性能が低いわけでもない。更に言えば、最近のカラーレーザープリンタや業務用複写機の場合、Pentium 4/2GHzクラスの処理性能を持つプロセッサが入っていたりする。あと、言わずと知れたゲーム機器もこの部類に入る。こうした、幅広いジャンルに使われるCPU全てがEmbedded Processorとして取り扱われる訳だ。意外と身近に、大量のCPUが使われている訳だ。

実際、販売される数量/金額ともに、PC向けプロセッサよりもEmbedded Processorの方が遥かに大きい。ちょっと昔の数字で恐縮だが、Photo01は1999年度におけるEmbedded向けとPC向けのプロセッサ販売数量を比較したものだ。PC向けが1億個そこそこなのに対し、Embedded向けは合計で3億5千万個近い数量を販売している。ちなみに内訳はPhoto02に示すような具合だ。この数字、現在は更に大きくなっている。Photo03は、2000年度におけるEmbedded Processorのみの販売数量(Units)およびその売上(Revenue)をまとめたものだが、数量は平均5000万個/月にも達し、売上金額も平均25億ドル/月という巨大なマーケットになっている。「Photo01とPhoto03で数字の桁が違うのは何故?」と思った人は鋭い。Photo03はMCU(Micro Controller Unit)とMPU(Micro Processor Unit)の合計で、一方Photo01はMPUのみの合計である。ここでMCUとは、MPUやDSPにフラッシュメモリなどを内蔵したものを指し、一方MPUとはあくまで単体のプロセッサを指している。例えばPCの中を見た場合、MPU:2つ(CPUが1個、キーボードコントローラが1個)、MCU:沢山(光学マウスに1つ、グラフィックカードに1つ、HDDに1つか2つ、DVD-ROMにも1つか2つ、モデムに1つ、etc....)てな具合なので、簡単に10倍位になるのも無理もない話である。最近SoC(System on Chip)と呼ばれる、CPUコアにメモリや周辺回路を統合したLSIが多く利用されているが、これが全部MCUに分類されるわけで、そりゃ数も多くなるというものである。

 Photo01:MPF 2000で併催されたセミナー"Trends in High-Performance Embedded Processors"の資料より。縦軸の単位は100万個
 Photo02:同じくMPF 2000のセミナー資料より。68K/CF(ColdFire)の出荷量がこの当時はだいぶ多いが、今ではMIPSに取って代わられている。また現在、i960のマーケットは事実上存在しない(Intel自体がXScaleで置き換えを図っている)など、ちょっと今とは状況が異なっていることに注意。
 Photo03:MPF 2002で併催されたセミナー"Trend in High-Performance Embedded Processors"の資料より。おお、セミナー名が同じだ(今気が付いた)。

ここでPhoto03をもう一度見直してもらえると、Embedded Processorの出荷数量自体は8bitが非常に多く、ついで4bitや16bit品となり、32bit品はかなり少ないにも関わらず、売上は32bit品が圧倒的に大きい事が判る。結果として、多くのEmbedded Processorメーカーは、すべて32bitに注力することになる。この傾向は、2003年以降も更に加速すると見られている。そこでキラーアプリケーションとなると見られているものの1つが、ユビキタスコンピューティングである。要するに「どこでもコンピューティング環境を利用出来る」という事だが、この前提として「全てのコンピュータがネットワークを構成している」必要がある。このネットワークというのは、必ずしもTCP/IPで接続されている必要はないが、インプリメントを考えた場合にTCP/IPスタックが搭載できる事が望ましいとされる。そうなると8/16bit程度のEmbedded Processorではやや力不足であり、32bit以上のEmbedded Processorが求められるというシナリオである。

あるいは、ユキピタスコンピューティングの一部として最近注目を集めているセンサーネットワークも、32bit Processorの需要を押し上げると考えられている。最近、全ての書籍に無線タグのICチップを埋め込む( http://www.jpic.or.jp/news/051.html )という検討が始まっている。最初の動機は万引きの防止であり、この結果出入口にこの無線タグのセンサーを内蔵したゲートを設置する程度だが、単にそれだけでなく在庫確認や流通管理にも利用出来るのがメリットであり、この結果「無線タグを認識、管理できる棚」(例えば棚1段単位で、在庫確認が行えるようになる。つまり棚卸が一瞬で出来るわけで、四半期ごとはおろか、リアルタイムの棚卸も不可能ではない)とか「無線タグを認識、管理できるパレットや梱包」(流通過程での商品追跡、管理が可能になる)といった可能性を秘めている。こうなると、「32bit Embedded Processorを内蔵した棚板」「32bit Embedded Processorを内蔵した再利用可能配送ラベル」なんてものまで登場してこないとも限らず、こうして更にマーケットは広がると考えられるわけだ。

ICチップに関しては、例えばJRのSUICAとかヨーロッパで比較的流通しているスマートカード、あるいはFOMAなどの3G携帯で利用されているICカードなど、いくつかの用途が既に現実にある訳だが、こうしたマーケットも既に32bit化が必須である。というのは、セキュリティ(改竄防止とかデータ盗難防止)の観点からデータの暗号化が要求されており、こうした要望に16bit以下のプロセッサでは応えることが出来ないためである。

○Embedded Processorのマーケット

さてその32bit Embedded Processorのマーケットはどんな状況になっているか、を示したのがPhoto04である。元々、このマーケットではMotorolaの68K(68000/68020/68030)コアが非常に有力だった。ところが、まずMIPS Technology、ついでARMが猛烈に追い上げを掛ける事になった。実はPhoto04、統計の取り方で数字はかなり揺らぐ。例えばMIPS Technologyは98年3月にプレスリリースで「1997年における32bit組み込み系プロセッサの出荷数は、Motorolaを抜いてMIPSがトップになった」(MIPS社のページからは削除されているが、コチラ: http://web.archive.org/web/20020127073014/http://www.mips.com/pressReleases/031698A.html で参照可能)と公表しており、その一方ARMは2000年度で57.8%、2001年度には76.8%のマーケットシェアを取った( http://www.arm.com/news.ns4/iwpList125/4407B3F0167459B9802569DC006596CD?OpenDocument&style=Press_Room )とどちらの言い分もPhoto04にあっていない(逆にPhoto04が合っていないのかもしれない)訳だが、2000年以降は2強といえばARMとMIPSという勢力図が出来上がった感がある。もっとも、マーケットシェア自体ではなく、シェアの増減を見てみると(Photo05)、2000年まではARMが急成長していたのがいきなりストップし、その割にx86やPowerPCは相変わらず伸びているなど、単純に「ARMかMIPS」と言い切れないあたりが、この業界の複雑なところを垣間見せてくれる。という訳で、では個別のアーキテクチャ別にもう少し細かく見てゆくことにしよう。

 Photo04:こちらも同じくMPF 2002のセミナー資料より。どう考えても68Kの出荷数が多すぎる気がする。
 Photo05:こちらもMPF 2002のセミナー資料より。x86系がじわじわ頑張っているのがちょっと面白い。

(大原雄介)

【レポート】ユビキタス時代を担う"Embedded Processor"(2) - 種別ロードマップ に続きます
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2003/01/01/04.html



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