【レポート】Alchemyラインナップに無線LANチップを追加するAMD PCS(2)

○「802.11aはコネクティビティが十分とは言えない」

さてここまでの話はほぼプレゼンテーションのレベルであり、ここからはその後のミーティングで出てきた話である。「今のトレンドは802.11aなのに、なぜ今802.11b?」という疑問をお持ちの読者は多いだろう。これに関しては「確かに802.11aも登場しつつあるが、別に802.11bのマーケットの伸びが止まったわけではなく、今後さらに発展してゆく事が見込まれる。特にハンドヘルドデバイスやPDAも無線LANを搭載するのが今後はあたりまえになって来るから、われわれの製品が売れる余地は十分にある。それに、まだ802.11aの価格は高い」という話がまずあった上で、「Connectivityという観点で言うと、802.11aは十分とは言えない。たとえば2~3m離れただけで、もう接続できなくなってしまう事があったりするわけで、決して十分とは言えない。勿論802.11aは高速だが、それは802.11gでも実現出来ることだ。こちらは既存の802.11bとの互換性もあるし、到達距離も現在の802.11bとほとんど変わらない。勿論次の製品では802.11aと802.11gの両方をサポートするが、目玉となるのは802.11gだ」という意見であった。確かにノートPCの分野では、すでに11bから11aへの遷移が始まりつつあるが、PDAを始めとする非PC系ではこれから11bが普及を始めるといった状態で、802.11aは当分先といった状態である( http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/11/21/18.html でもこのあたりの話が出てくる)。ついでに言えば、今年のCOMDEXでは802.11gデバイスが多く出展されていたそうで、このあたりもPompa氏の意見を裏付けるものになっている。

もうひとつ疑問に思ったのは、「なぜ今無線LANか?」という話である。かつてAMDはLANコントローラの有力ベンダーのひとつであったが、無線LANだけでなくネットワーク製品を幅広く提供しているIntelとは対称的に、AMDはその後この分野への投資を中断しており、今回の発表はやや唐突な感じがある。これに関してPompa氏は「別に改めてネットワーク製品ラインナップを復活させるというわけではない。有線LANの世界(のトレンド)はすでにGbE(Giga bit Ethernet)や10GbE(10G bit Ethernet)に移りつつあり、コンシューマ向けの製品から外れつつある。コンシューマ向けには既に製品があるし、ここで改めて製品ラインナップを変える必要はないだろう。今回無線LANコントローラを発表したのは、Personal Connectivityという製品の性格上、無線LANのソリューションがどうしても必要であり、これを満たすために提供した形だ」という答えが返ってきた。つまりIntelと異なり、あくまでもPCSの製品群のサポートという位置付けである。

AMDの場合、たとえばチップセットはあくまでもCPUを売るためのサポートだから、Athlon/Athlon XP向けにDDR-SDRAMを使えるAMD-761チップセットを発売はしたが、VIA/SiS/nVIDIAのチップセットが充実してくれば別にそれ以上売る必要はない、ということであっさり後継製品を出さずに生産を絞ってゆくというスタイルを取っている。今回のAm1772もほぼ同じアプローチの様で、当初はチップあるいはモジュールとして販売するが、同時にIPコアの形でベンダーに提供を行うことを予定している。つまりこのIPコアを購入したベンダーが、これを利用して別の802.11bコントローラを提供してくれれば、別にAm1722自身が売れつづける必要はないと考えているようだ。CPUだけでなく、チップセットやLANコントローラ、あるいは完成品であるマザーボードやLANカードまで幅広く提供してゆくIntelとは好対照なアプローチと言える。

○AMD Alchemyのマーケット

Athlon/Opteronなどと同様のロゴ

ところでAMDは10月、Au1x00シリーズの製品群にはAMD Alchemyというブランド名をつけることを決めた。ちょうどAthlon XPとかAthlon 64、Opteronなどと同じ様に、MIPSベースのプロセッサはすべてAMD Alchemyというブランドで統一されることになる。そのAlchemyであるが、今年2月にAMDが買収後の出荷状況はというと、いまいちはっきりしない。このあたり、PCSというよりもAMD Alchemyは今年あるいは来年、どの程度の売上を目安としているのかという数字を聞いたところ、「こうしたEmbeddedの製品の場合、例えばシェアを何パーセント取るか、という数字にはあまり意味がない。出荷量あるいはデザインウィンの数字というものは現時点ではっきりしたことは言えないのだが、例えば現在いろいろな分野でAlchemyを使った製品の設計が進行している。現時点で発表できるのは、昨日SONYが発表したネットワーク対応プロジェクタ(*)にAMD Alchemyが利用されていること位だが、来年前半をめどにもう少しいろいろな製品を紹介できると思うよ」という話であった。
(* 残念ながら、これが具体的にどの製品かは特定できなかった。)

これはStudent PCのデモではなく、Windows CE.NETのRDP(Remote Display Protocol)クライアントの例。ただPompa氏によれば、Student PCの構成もこれとほぼ同様になるはずだという

こうした働きかけのひとつが、10月9日に発表されたStudent PCへの取り組みでもある。中国のChina Basic Education Software Company(CBE)と合弁企業をつくり、中国の教育市場に向けたPCをAlchemyベースで製造するという話である。このシステムは、Student PC、Teacher PC、Classroom Serverの3種類の製品からなり、各生徒が利用するStudent PCはAlchemyベースの、例えばWindows CE.NETあるいはLinuxが搭載されたネットワーク端末として動作する。このStudent PCの場合、Classroom ServerからOSをネットワーク経由でロードし、そのまま動作するという構成になっており、ストレージの類は一切持たなくて済む。この結果、1台あたりのコストは極めて安価に済むほか、Classroom Serverで集中管理が行えるのでTCOの削減にも役立つといった仕掛けだ。

評価ボードでは、日→英か英→日のどちらかしか出来ないが、これはメモリが32MBしか搭載されていないためだとの事。64MBに増やせば同時双方向通訳も可能だそうだ

また、ちょっと変わった展示も同時に行われていた。Photo16は400MHz駆動のAu1100の評価ボード上で動作するNECの音声通訳ソリューションだが、マイクに向かって「こんにちは」と喋ると、まず即座に液晶に「こんにちは」と表示され、次にそれが「Hello」に変換されて表示されると同時にスピーカーが「Hello」と喋るという、ちょっと前に流行った電子翻訳辞書の進化版である。今でこそ巨大な評価ボード上に実装されているが、製品化の際には手のひらサイズに納めることも不可能ではなく、まだまだ新しい分野を開拓できる余地があることを示すものだった。

PDAと言うと、通常はMicrosoftのPocket PCやPalm、Zaurusなどを思い浮かべるし、これも間違いなくPDAであるが、こうしたマーケットは既にARM(というか、もっと正確に言えばStrongARM/XScale)に抑えられている。このため、今年2月にAMDがAlchemyを買収した際には「一体どんな分野に製品を投入するつもりだろう?」という疑問を感じたものだが、その答えの具体例のひとつがこの音声翻訳ソリューションというわけだ。確かにこうした分野は従来MIPS系プロセッサが得意としていた分野であり、他にもカーナビやプリンタ、スキャナ、コピー、液晶プロジェクターなどのコントローラといった用途に向けて積極的にアプローチをしているという。つまりAMD Alchemyのライバルは、Intelを始めとするARM系プロセッサベンダーというよりも、むしろMIPS系プロセッサベンダーということになりそうな雰囲気である。あまりエンドユーザーには馴染みの無い話ではあるが、個人的にはなかなか興味深い発表であった。

(高梨遊)

【レポート】Alchemyラインナップに無線LANチップを追加するAMD PCS(1)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/11/25/20.html

AMD、無線LAN市場へ参入 802.11b準拠のチップセットを発表
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/11/05/10.html

AMD、LCDコントローラーを内蔵した「Au1100」を発表 PDA/IAへ参入開始
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/04/08/14.html

日本AMD
http://www.amd.com/jp-ja/



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