【レポート】警察庁対サイバーテロ - 「サイバーフォース」の実像(1)

      [2002/11/19]

    ○「サイバーテロ」の脅威

    ある日突然、30人のハッカーが一斉に米国内の通信、電力などの重要ネットワークに侵入し、コントロールスイッチを遮断。アメリカ社会は大混乱に陥った。世界トップレベルのセキュリティ体制を誇る国防総省のネットワークにも踏み入り、全てのデータを入手出来るシステム管理者権限を獲得、最高軍事機密も筒抜けに--。

    これは、1997年に行われた米国内重要ネットワークシステムのセキュリティテスト「Eligible Receiver」の結果だ。実験に携わった30人の技術者は、市販パソコンとインターネットで無料配布されているツール、一般に流布しているハッキング知識のみを使い、これだけの"成果"を上げた。実験だけではない。昨年4、5月には、米カリフォルニア州全域の送電を制御するコンピュータシステムにハッカーが侵入を試みる事件もあった。侵入に成功していれば、カリフォルニア州の送電システム全体がストップする危険もあったのだ。

    現代社会は情報ネットワークなしには成り立たないが、ネットワークには常にハッキングの危険がつきまとう。人命や財産にまで影響を及ぼす、悪質な"サイバーテロ"に対抗するために、全国の警察を統括する警察庁の技術対策課内に設置された特別チームが「サイバーフォース」だ。同課の熊谷勉課長補佐は、「サイバーテロは1、2人の技術者がいれば可能。金もかからず、世界のどこからでも仕掛けられる。そして、被害は相当大きなものになる」と、サイバーテロへの対処の必要性を訴える。

    ○「サイバーフォース」とは

    サイバーフォースの中核施設、サイバーフォースセンター(東京)。日本中の警察ネットワークの状況を一手に把握出来る

    サイバーフォースは、昨年4月に設立された。警察庁の情報通信技術者から選抜された60人が、東京都内の民間ビルにある「サイバーフォースセンター」など全国57カ所の拠点から、警察ネットワークへのハッキング行為を24時間体制で監視。また、情報通信や銀行・証券取引所など金融関係、鉄道・航空、電力・ガスといった、社会の重要インフラについても防護対象としている。ネットワークを使った犯罪に対する都道府県警の捜査を、技術面からサポートするのも重要な任務だ。

    警察の捜査は本来、事件が起こってから捜査を始める"事後捜査"。だが、サイバーテロは社会に対する影響が大きいため、事前に予兆を察知し、先手を打って予防することが求められる。それが、サイバーフォースが設立された理由だ。警察組織としては、かなり特殊な部類に入る。

    意外なことだが、警察庁は情報通信に関するノウハウについては蓄積がある。警察無線を発端に、都道府県警をつなぐ広大なネットワークを運営してきたからだ。「警察庁職員約7,000人のうち、約4,000人が情報通信技術者」(熊谷氏)。サイバーフォースの60人の職員は、その中から選抜された"折り紙付き"だ。さらに、民間の技術者10人を招き、システムの脆弱性の検査や、サイバー攻撃への対処技術の研究を行っている。

    ○最新鋭の防護システム

    サイバーフォースの侵入検知システム(IDS)。複数の高性能サーバーで構成されている

    サイバーフォースの中核となるのは、サイバーフォースセンターに設置された侵入検知システム(IDS)。全国にまたがった警察組織のネットワークを24時間体制で監視、ハッキングなどの事態に備えている。今年7月から9月までの2カ月間だけで、過剰な閲覧要求でサーバーを麻痺させる「DoS攻撃」から、偵察に当たる「ポートスキャン」まで、約5万1,000件のサイバー攻撃を受けたが、「ネットワークへの侵入を意味する『エマージェンシー』は今まで一度もない」(同氏)という。

    だが、堅牢を誇るサイバーフォースのIDSにも泣き所はある。過敏過ぎて、誤アクセスなどにまで反応して警報を出してしまうことだ。「結局人間がいないと判断は出来ない。今のIDSの限界」(同氏)。「しきい値」をどの程度に設定するか、いつも頭を痛めているという。

    ちなみに、サイバー攻撃を仕掛けて来た相手が、最後に経由してきたサーバーを国別に見ると、最も多かったのが、全体の20.6%を占めたイタリア。「その時期に何かツールが配布されたのか、他国のハッカーの踏み台にされたのかも知れない」(同氏)とか。続いて米(全体の18.8%)、国内(同18.2%)、中国(同7.2%)、韓国(同5.9%)の順で多かったが、中国からのアクセスではポートスキャンが多く、韓国のものはバックドア接続要求が多いなど、サイバー攻撃にも"お国振り"がある様子。また、警察関連のIPアドレスは非公開であることから、ツールを使った無差別攻撃だった可能性が高いという。

    (日比哲哉)

    【レポート】警察庁対サイバーテロ - 「サイバーフォース」の実像(2)
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/11/19/13.html
    に続きます。

    【レポート】政府の情報セキュリティの現状 - 経済産業省と警察庁の取り組みから(2)
    http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/06/12/25.html

    警察庁
    http://www.npa.go.jp/

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