【IDFレポート】IDF番外編~半導体製造技術に関する様々な思惑~(2)

(Photo01) Intelがこれまでこうした量産プロセスを持っていなかった事を考えると、異様に充実したプロセスである

○90nm Communication Process

こうした問題に対してIntelが出した解が、デジタル回路向けの90nm CMOSプロセスと互換性の高い通信機器向けプロセスである(Photo01)。Prescottなどの製造に利用される、300mmウェハを利用した90nm CMOSプロセスをそのまま流用しながら、その上に

・高電圧のRF向けCMOSトランジスタ
・アナログ回路用の、高精度な抵抗とコンデンサ
・High-Qインダクタとバラクター(可変容量ダイオード)
・SiGeヘテロ接合双極トランジスタ

といった回路を集積できるようにしたものである。特にアナログ回路に関しては、RFの終段に利用される高電圧トランジスタや、フィルタ回路などに必要な高精度のコンデンサ/抵抗、最上位の銅配線レイヤを利用したインダクタンスなど充実しており、一応殆どのアナログ回路はこれで網羅されると思われる(Photo02)。

(Photo02) 例えば抵抗やコンデンサは、マスクのステップを2回余分に経るだけで実現できるとか、インダクタンス(要するにコイルである)は、銅配線レイヤを利用して実現するなど、現実性が高い事が判る
(Photo03) HBTを実現する場合、いかにSiGe層を薄くするかが一つのキーとなる。ちなみにこのSiGe層は、デジタル回路には影響しない


(Photo04) 例えば光ファイバを使った場合、当然そこを通る信号はシリアルである。一方光回路の両端は、例えば32bitとか64bitといったパラレルインターフェースとなるため、ここにSerDes(Serializee/DeSerializer:復変調回路)が必要になる。まぁ光回路に限らず、SerDesは一般的によく利用される。ちなみに最終日の基調講演では、WCDMA向けのアナログ/RF回路とか、光回路向け40Gbpsのテスト回路なども紹介された

また、今回の目玉となるSiGeヘテロ接合双極トランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor:HBT)は、既存のCMOSトランジスタとは比較にならないほど高速動作するものである。これに関して先駆者的な立場にいるIBMは、昨年6月に0.18μmプロセスでこれを実現したが、この際の動作速度は最大210GHzと発表されているほどだ。今回のIntelの発表では具体的な数字は示されなかったが(Photo03)、10Gbpsのネットワーク機器の物理層をこれで賄える以上、最低でも20GHz以上、実際はもう少し上の周波数で動作するようだ。実際、これを利用した10GHz動作の復変調回路の試作回路が公開されるなど、HBTの完成度は高い事を伺わせるものだった(Photo04)。

こうした個別の特徴もさることながら、驚異的なのはこのプロセスが、90nmのCMOSプロセスと殆ど共通化されていると言うことだ。現在IntelのP1262、つまり300mmウェハを利用した90nmプロセスはオレゴンのD1Cファブで開発中(正確には、量産直前の検証中といったところ)だが、今回のプロセスもやはりD1Cファブで開発されており、しかも両者の主な違いはSiGe層を設けるかどうかで、この結果、非常に低コストで2つのプロセスを作成できるとしている。

○驚くべきは……

この発表、日本でも9月17日にプレスリリースが出たが、IDFの会場でこの説明を聞いて筆者が最初に質問したのは、「これらの特徴は同時に達成できるのか、それとも用途に応じて適当に選べるということか」ということだった。というのは、これらを同時に実現するプロセスというのはちょっと他に例がないからだ。

具体的に例を挙げてみよう。台湾TSMCの場合、RF回路を取り扱うMixed Signal/RFプロセスと、高速通信のフロントエンド向けのSiGeプロセス高電圧トランジスタを利用するプロセスは、全部別々のものになっており、これらの特徴を「同時に実現する」プロセスというものは存在しない。もちろんこれらはデジタルCMOSプロセスとは別である。これは別にTSMCに限った話ではなく、殆どのFabで似たようなものである。

アナログ回路の集積はともかく、RF/High Voltage/SiGeを同時に実現したプロセスというのは、(量産レベルでは)世界初となるのは間違いない。「どうやってこれを実現できたのか」という質問には、さすがに教えてもらえなかったが、同社のCTOであるPat Gelsingerは「ある人はCommunication向けにHigh-Powerが必要だと言う。別の人はRF/Mixed Signalが必要だと言い、また別の人はSiGeが必要だと言う。こうした要求を個別にかなえていたらきりがない。だから、全ての要求をまとめて実現できるように色々と努力した」という言い方で、その動機を語ってくれた。加えて言えば、コストの問題も大きいという。

 802.11a/bコンボモジュール。カード自体はMiniPCIであり、シールド部の下に少なくとも2つ、下手をすると3つ位モジュールが載っていそうだ。裏側にも何かありそうだし、まだまだコストが高くつきそうな構成である。ちなみに2本のアンテナの間にあるのは、利用する波長帯を切り替えるスイッチだろう

つまり、ディスクリートでチップを作成すると、どうしてもそのコストは上昇する。従って、例えば無線LANコントローラの場合、個別に作るよりもチップセットに内蔵するほうが安いわけであり、このためにはRF/Mixed SignalやHigh-Powerといった特徴をプロセス側で同時に持つ必要があるというわけだ。筆者のIDF Showcaseのレポートでも触れた802.11a/bコンボのコントローラは、まだ180nmで作成されたものだし、複数のモジュールを組み合わせたものだからコストもそれほど安くない(Photo07)。こうしたものが、今回のプロセスを使うことで、ワンチップ化やチップセットへの統合が可能になるという話である。動機としては極めて真っ当でよく判る話だが、それを実現してしまうあたりがIntelの底力と言える。

今回のプロセスを利用することで、例えば近い将来にはRF+ベースバンドコントローラ+アプリケーションプロセッサをワンチップ化したような製品展開も当然予測できる。3G携帯電話の予想外の立ち上がりの悪さもあって、いまいち普及に弾みがつかないIntel IXAシリーズが、これでブレークする可能性もある。逆にこれまでアナログを最後の牙城としてきた、通信関係半導体を製造する多くのベンダーにとっては、今回の話があまり歓迎されないのは間違いない。地味な分野ではあるが、なかなか今後の展開が楽しそうだ。

【IDFレポート】IDF番外編~半導体製造技術に関する様々な思惑~(1)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/09/20/16.html

(大原雄介)

【News Special】IDFレポート
http://pcweb.mycom.co.jp/news/special/2002/09/10/01.html

Intel
http://www.intel.com/



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