【IDFレポート】IDF番外編~半導体製造技術に関する様々な思惑~(1)

さて、(筆者にとっては)怒涛の1週間がやっと終わった。さすがに40歳が目前という体力では、ほぼ半日講演やラウンドテーブルに出席し、その後ホテルでその日の原稿を書くという生活を4日間に渡って続けるのはかなり辛い。結局ダイジェスト的レポートになってしまったことをお詫びしつつ、先週を振り返りながらもう少しキーワードを細かく紹介していきたいと思う。

○アナログRFに関するIntelのポジション

Intelの副社長兼CTOのPat Gelsinger氏。話を聞いたのは最終日のラウンドテーブルだが、この日はセグウェイを乗り回したり基調講演を行ったり、ラウンドテーブルを連続して行ったり、と忙しい一日だった

昨年度、Intelは通信業界においてもナンバーワンの半導体メーカーとなった。つまり、通信機器向けの半導体に限っても、最も出荷金額が高いメーカーとなったわけだ。半導体業界全体を見渡してもやはりIntelがナンバーワンメーカーであり、引き続きIntelはこのポジションを維持してゆく決意を固めている。

ことデジタルのコアロジックに関しては、これを維持することはそう難しくはない。生産技術を細かく見れば、例えばIBM Microelectronicsであるとか日本のNEC/富士通などが先行している所もあるが、全体としては間違いなくIntelは他社をリードしており、しかも生産キャパシティの点でも他社を凌駕している。180nm~150nmはいざ知らず、130nmのFabを複数稼動させ、高いYield(歩留まり)を確保しているのは現在Intelしか存在しないし、またその先の90nmプロセスに関しても、最も量産に近いポジションにいるのがIntelなのも間違いないからだ。

ところが、通信機器向けとなるとちょっと話が変わってくる。通信機器向けの場合、通常のデジタル回路以外にアナログ回路であるとか光回路といったモノを取り扱う必要がある上、扱う周波数もせいぜい2~3GHzのデジタル回路に対して、5GHz(無線LAN)や10GHz(10GbE)、40GHz(光ファイバ)など遥かに高くなる。実はこうしたアナログ回路に関して、Intelはそれほどアドバンテージが無い。というよりももっとハッキリ言ってしまえば、Intelはアナログ回路を苦手としているといえる。

例えばItaniumとして発表されたMercedプロセッサの開発の途中、高速バックプレーンの設計に大幅に手間取ったとか、初めてDirect RDRAMを取り扱ったIntel820/Intel840でやはり高速な信号ラインのハンドリングに苦しんだ挙げ句、様々な制限をつけてなんとか回避したなど、高速アナログ回路に関するディスアドバンテージを伺わせる話はいくらでもある。あるいは、InfiniBand、PCI-Express、Serial ATAなどIntelがリーダーシップを取って制定されたインタフェースの物理層が、実はRAMBUSのRaSerと呼ばれる高速シリアルリンクテクノロジをそのまま採用しているという事例も、論理プロトコルはともかく物理プロトコル、つまりアナログ信号の伝達技術に関しては相変わらずIntelには十分なノウハウが無い傍証と考えても大間違いとは言いにくいだろう。

もちろん、オフチップの高速アナログ信号伝達回路と、オンチップの通信機器向けアナログ回路を同列に論ずるのはやや乱暴だが、オフチップのアナログ技術の蓄積が少ないベンダーがオンチップアナログに十分なノウハウの蓄積を持つと考えるのは無理があるから、丸っきりこの類推が無茶という訳でもない。

さて、それではオンチップアナログ回路をあきらめよう、というわけにはいかないのも事実。例えばほんの2年ほど前まで、CMOSにRF(高周波回路)を集積するのは到底できないとされていた。だから、ちょっと前の802.11bの無線LANカードは、RF回路のみGaAs(ガリウム砒素:高周波特性が良好な素材)を利用して作成し、その他はCMOSで構成するという、2チップ以上の構成が必須となっていた。

ところが、米アセロスコミュニケーションが802.11a向けのコントローラをCMOSのみで作成することに成功し、これに触発されて多くのベンダーがCMOSにRFを集積しようとしている。GaAsベースならばともかく、CMOSベースとなるとこれはIntelの守備範囲であり、ここで遅れを取るということは通信向け半導体のシェアを失うことになりかねない。加えて、今年春のIDFで"Radio Free Intel"(全ての半導体に無線を内蔵する)や"Silicon Photonics"(シリコンベースの光回路)といったキーワードを掲げているIntelにとって、こうしたアナログ回路を統合できないと、そもそもキーワードを実現できないことになってしまう(*1)。

仮に、Intelが通信機器向けの半導体シェアを失うことがあるとすると、ちょっと困ったことになってしまう。最近、IntelとSiSのビジネスモデルが段々似てきた(というか、SiSがIntelのビジネスモデルに近づいたというのが正しい)のだが、それは「自社でFabを持ち、かつそこでファウンダリビジネスは行わず、自社製品のみを製造する」ということである。Fabを持つ場合、初期投資に加えて日々のランニングコストだけでも馬鹿にならないから、なるべく生産量を高めに維持しなければならない。

そうなると、製品の生産量も多くなるわけで、つまりそれを売っていかないといけない。最近SiSがハイエンドからローエンドまで多種のチップセットを用意し、更にXabreシリーズのグラフィックコアまで作っている理由のひとつがこれだ。同じことはIntelにも当てはまる。

要するに、単にCPUやチップセット、フラッシュメモリ以外に通信機器向けの半導体もきっちりと売っていかなければ、Fabが遊んでしまうことになるわけだ。ところが通信機器向けの半導体の場合、通常のCMOSを利用したデジタル回路だけでは用が足りない。例えば先に触れた802.11a/bのコントローラにしても、TSMCで製造できたからIntelでも作れるというものではないし、更にハイパワーなコントローラとなるとTSMCでもやはり問題がある。

(*1)もっともこれは鶏と卵の関係かもしれない。最初に"Radio Free Intel"のコンセプトがあって、それにあわせて技術を開発したのか、今回のMixed Signalの90nmプロセスの目処がついて、それを利用するコンセプトを打ち立てたのか、ハッキリしないからだ。恐らくは両方であろうと思われる。

【IDFレポート】IDF番外編~半導体製造技術に関する様々な思惑~(2)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/09/20/17.html
に続きます。

(大原雄介)

【News Special】IDFレポート
http://pcweb.mycom.co.jp/news/special/2002/09/10/01.html

Intel
http://www.intel.com/



人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事